「俺はもうすぐ綱海さんを避けるようになると思います」
立向居は胸の前にサッカーボールを持上げる。俺が今さっきまで練習していたボールだった。
「何言ってんだ」
ボールを取られた俺は、立向居と話さなければならない。立向居はもったいぶっているのか、ボールを見つめて何も言わない。俺にはとても長い時間に感じられる。でも何か言えよと思っても、口に出すつもりはなかった。立向居が言いたいことはもうわかっている。
「俺が綱海さんのことが好きになりすぎて、つらくなるからです」
予想通りだった。だから、俺は立向居の顔を見ないでグラウンドの土を見つめていた。俺は何も言わない。らしくない、言葉が出てこない。
「それでもいいですか」
嫌だ。こいつと今までみたいに話せなくなるのは。そんなこと、立向居もわかってるんじゃないのか。でも立向居は俺に今まで以上の関係を望んでいる。俺は、どうなんだ。立向居のことは嫌いじゃないだろ。好きだろ。それってなんて言う好きなんだ。それをずっと俺は考えているんだけど、答えは出ない。
「早く答えて下さい」
立向居が次に言う台詞もわかっている。好きです、だ。つい先週にも聞いた。その前にも聞いた。俺はこいつに何度好きと言わせればいいんだ。あんまりこいつを待たせていると、俺は絶対に後悔することになる。そんなことわかっている。それなのに、俺はずっと目を逸らしていた。今だってそうだ。俺は立向居の目を見ることができない。
俺の足元にボールが転がってきた。ボールを拾おうとしゃがんだ俺の耳に立向居の声が聞こえた。好きですと、聞こえた。