稲妻11 | ナノ

保留のその先

「俺はもうすぐ綱海さんを避けるようになると思います」

立向居は胸の前にサッカーボールを持上げる。俺が今さっきまで練習していたボールだった。

「何言ってんだ」

ボールを取られた俺は、立向居と話さなければならない。立向居はもったいぶっているのか、ボールを見つめて何も言わない。俺にはとても長い時間に感じられる。でも何か言えよと思っても、口に出すつもりはなかった。立向居が言いたいことはもうわかっている。

「俺が綱海さんのことが好きになりすぎて、つらくなるからです」

予想通りだった。だから、俺は立向居の顔を見ないでグラウンドの土を見つめていた。俺は何も言わない。らしくない、言葉が出てこない。

「それでもいいですか」

嫌だ。こいつと今までみたいに話せなくなるのは。そんなこと、立向居もわかってるんじゃないのか。でも立向居は俺に今まで以上の関係を望んでいる。俺は、どうなんだ。立向居のことは嫌いじゃないだろ。好きだろ。それってなんて言う好きなんだ。それをずっと俺は考えているんだけど、答えは出ない。

「早く答えて下さい」

立向居が次に言う台詞もわかっている。好きです、だ。つい先週にも聞いた。その前にも聞いた。俺はこいつに何度好きと言わせればいいんだ。あんまりこいつを待たせていると、俺は絶対に後悔することになる。そんなことわかっている。それなのに、俺はずっと目を逸らしていた。今だってそうだ。俺は立向居の目を見ることができない。

俺の足元にボールが転がってきた。ボールを拾おうとしゃがんだ俺の耳に立向居の声が聞こえた。好きですと、聞こえた。





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