稲妻11 | ナノ

赤色のこころ

「綱海さん、かき氷食べませんか?」

今の俺は小さな子供みたいにはしゃいでるんだろう。俺はずっとかき氷を綱海さんと一緒に食べたかったんだ。

俺がまだ綱海さんに片思いをしていた頃、綱海さんとかき氷の味の話をしたことがあった。俺も綱海さんもかき氷はメロン味が好きで、毎回頼むのはメロン味だと盛り上がった。嬉しかった。綱海さんも俺と一緒なんだって。
それからは綱海さんと両思いになって、お祭りなんかに行った時は、一緒にメロン味のかき氷を食べたいと思っていた。それが今日。綱海さんと初めてお祭りに出かけた。

「綱海さんもメロン味ですよね」

綱海さんはすぐに返事をしない。メロン味だと即答するだろうと思っていた俺はあれ、と思わず口にだしてしまう。

「俺、やっぱいちご味にするわ」

綱海さんはそう言った。なんでメロン味じゃないんだ?






「なんでいちご味なんですか?」
「別にいいじゃねえか」

結局俺はメロン味、綱海さんはいちご味のかき氷を買った。俺は綱海さんのいちご味が気に入らない。

「絶対メロン味って言ってましたよね?」
「しつけーぞ」

綱海さんはかき氷をザクザクいわせて、俺にあんまりかまってくれない。
俺がこだわってるのはやっぱり、あの時嬉しかったからだ。綱海さんとおんなじだってことがわかったことが。俺には譲れないメロン味だったのに。

「ずっと、綱海さんと一緒に食べるの楽しみにしてたんです」

綱海さんは優しいから、こんなことを言う俺を見たら何も言わないでいられないはずだ。

「舌が、」

俺の予想通り、綱海さんは俺をチラッとだけみてボソッと言った。ザクザクという音が止む。

「舌が緑色になるだろ」

舌が緑色になるから?綱海さんはそんなこと気にする人じゃないはずだ。第一この前までメロン味が好きだって言ってたのに。

「なんで舌が緑色だったらダメなんですか」
「…お前モテねぇだろ」

綱海さんは俺を睨みつける。でもそれは怒っているようなものでなく、恥じらいを隠すような、もっと柔らかいものだった。

「クラスの女子が言ってたんだよ!好きな人に緑色の舌見せるのは恥ずかしいって」

こんなこと言わせんなと綱海さんは俺から顔を背けて、またかき氷をストローでつつき始めた。ザクザクという音がまた始まる。
俺は告白されたような気分になって、声がすぐに出ない。普段好きだとか言ってくれない綱海さんが俺のことを好きな人って言った。しかも、俺に緑色になった舌を見せたくないから好きなメロン味じゃなくていちご味にしたなんて、抱きしめたくなるだろ。まだ今の俺にはできそうにないけど。
俯いてかき氷と向き合っている綱海さんの頬は赤く染まっていていて、俺はたまらなくなった。

「俺も、綱海さんのこと好きです!」
「はぁ?」

なんだか俺はそういうことを言わなければならない気がした。

「今そんな話してねーだろ!」

綱海さんは怒ってるけど、俺は顔がにやけてしまう。綱海さんはそんな俺に怒る気も無くなったのか、いちご味のかき氷をやっと食べ始めた。

「でも本当はメロン味が食べたいんじゃないんですか?」
「まあ、」

綱海さんは俺のかき氷を見て、すぐにいちご味の方に視線を戻した。

「でもいいよ。いちご味もうめーしよ」

そんなことを言って、綱海さんはいちご味のかき氷に笑いかけてる。鼻歌なんか歌って機嫌もいいみたいだ。なんでかわからないけど、俺も幸せだからいい。




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