稲妻11 | ナノ

約束をして

母さんが僕たちを生む前に飼っていた猫は、僕らが生まれるとすぐに家出をした。なんでって母さんに聞いたら、僕たちに嫉妬したんじゃないかって言っていた。母さんの愛を一身に受けていたのに、僕らが生まれてからは、母さんを取られたような気がしたんじゃないかって。そう言う母さんは少し悲しそうに笑ってた。僕は猫の嫉妬心は強いんだって、その時はただそう思っていたんだ。僕は今になって、そのことをよく思い出すようになった。



僕が好きな染岡くんは最初は取っつきにくいけど、本当はとても情の深くて、優しい人だ。それは雷門の人は皆知ってたし、後から入った僕たちも一緒に過ごしている中で知った。でも、そんなこと僕だけ知ってればいいことだ。染岡くんのことを好きな僕だけが。
僕は染岡くんが親しげに話している人皆に嫉妬してる。好きな人が皆に好かれるのはいいことなのに。染岡くんにとってはいいことなのに。
僕は怖いんだ。今度は僕があのこのように家出をする番なんじゃないかって。僕が染岡くんと親しい誰かに嫉妬をして、いなくなるんだ。今はわかるよ。あのこの気持ち。自分ばっかり思ってるんじゃないかって、そればっかり考えて心が押しつぶされそうになる。だから、家を出た。探してほしかった。自分だけの思いじゃないって、証明してほしかった。

「ねえ、染岡くん」
「どうした」
「僕がいなくなったら、連れ戻してくれる?」

家出しても、大丈夫かな、

「当たり前だろ」

なんでそんなことをいちいち聞くんだって、そんな口調で染岡くんは即答した。

「どこにいても見つけてやるよ」

いつも自分で口下手だと言ってる染岡くんの言葉は真っ直ぐで、僕には一番優しい言葉だった。
母さんはあのこを探さなかったわけじゃない。でも見つけられなかった。それはあのこにとって、母さんに見捨てられたことと一緒だ。探していたことを知らないんだから。
でも、僕たちは言葉を持ってる。あのこが僕らのように、母さんに気持ちを伝える手段を持っていたなら、悲しい別れをしなくてよかったと思うんだ。
僕と染岡くんが同じ言葉を持っていてよかった。心が押しつぶされそうになっても、その度に僕は染岡くんに聞くから。それに、もし僕がいなくなるくらいにいじけてしまっても、ずっと見つけてくれるのを待ってる。探してくれてるのを僕は知ってるから。




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