稲妻11 | ナノ

偽りのキス

「ごめん、」

そう言われることは、なんとなくわかっていた。綱海さんも俺も男で、本来好きになるはずない相手だから。それでもちゃんと思いを伝えようとした俺はえらいと自分でも思う。どれくらいの勇気をもって、どれくらいの覚悟をしたのか。
俺は気持ちを伝えないと、もう綱海さんと一緒にいることができないようになっていた。この思いを終わらせたかったのと、ほんの少しの期待をして俺は今ここで告白をした。

断られることは予想していたから、ちゃんとなんて言うか決めていたのに、何も言葉が出ない。俺は俯いて、立ちすくんでいた。謝って、それから、ありがとうございましたって言うんだ。

「じゃあ、」

沈黙を破って、綱海さんはそう小さく言った。顔を上げると、綱海さんの背中が見えた。

「待って下さい!」

待て、と言ってその後どうするんだ。俺は。もう用は済んだはずだろ。綱海さんもそう思ってる。なのに、なんで。

「キスして、下さい」

口が勝手に動いていた。言うな、そんなこと。

「もう、それで諦めますから」

声が震えていた。絞り出した言葉はそんなことか。俺は綱海さんを困らせてるんだ。好きな人を困らせてるんだ。早く訂正しろ。冗談です、すみません、って言うんだ。でも俺の口は動かない。俺は俯いたまま、何も言わない。






俺は泣いていた。綱海さんがいなくなってからずっと。

「っ…う」

綱海さんは俺にキスをした。何もいわずに。綱海さんの顔は見れなかった。見たくなかった。だからどんな顔をしていたのか、わからない。
言ってしまったことを、俺は今更激しく悔やんでいた。いくら後悔しても足りないんだ。俺はもう取り返しのつかないことをした。俺は綱海さんの優しさと、告白を断ったという後ろめたい気持ちにつけ込んで綱海さんの意思とは関係なくキスをさせた。そんなものは俺にとってもなんの意味のないものだ。むしろ、今は心が痛くて、悲しくてたまらない。好きな人とキスをしたのに、俺は全然うれしくない。キスってしたら幸せになるんじゃないの…?まだ子供な俺は、漠然とキスというものは幸せなものだと思っていた。相手も自分も幸せになれるものだって。でもそんなものじゃない。想い合っていないと幸せなものでもなんでもない。ただ、悲しいだけのものだった。こんなに悲しいものがあるなんて知りたくなかった。
今の俺には、綱海さんに対する罪悪感だけが残る。

「…すみません、綱海、さん…」

謝っても、もう綱海さんには届かない。
あれは最後の、キス。全てが終わった、最後の。俺は、それでも口を拭えない。




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