稲妻11 | ナノ

雨と鼓動の音

「今来てくれたら抱きしめてやる」

来れる訳ないってわかってる。でもそんなことを言ったのは立向居が留守電にしてやがったから。俺からの電話はちゃんと出ろよ。どんなことをしてようが、いつでも。いつも俺のこと好きだ好きだって言ってるくせに。
だから、少し意地悪をした。今考えてみると俺はなんてガキっぽいことをしたんだろうと思う。馬鹿だな。あとで立向居から電話がかかってきて、問い詰められたらなんて言えばいいんだ。いつもの俺はあんなことしないから、立向居がさっきのメッセージを聞いたら絶対におかしいって思うだろ。



会いに来いなんて言ったのは、寂しいからだけじゃない。寂しいと思う度に来いなんて言っていたら、多分立向居は俺を嫌いになっている。ただ、俺は立向居の好きだって言葉が本当なのか知りたかった。好きだと言うのは簡単だ。嘘でも何でも言えるもんだ。だから愛を確かめてみたいと思っていた。でもそれは立向居を試すようなことだ。してはいけないってちゃんとわかってたんだ。さっきは少し立向居にイラついていたから、とっさにあんなことを言ってしまった。俺は最低だな。このままあいつが来なかったら、本当は俺のことが好きじゃないんじゃないかって思うのか。それはあまりにもわがままだ。



もう一度電話するべきだろう。立向居がさっきのメッセージを聞く前の方がいい。俺は携帯を手に取り、履歴のページを開く。さっき電話をかけたのは20:38とある。今は20:51だった。10分ちょっとしか経ってない。多分聞いてないよな。でも、なんて言えばいいんだ。謝るのか?それとも嘘だって言うのか?いや、俺は考えるのは苦手だ。なんとかなるだろ、そう思い発信のボタンを押そうとした時、インターホンが鳴った。誰だ。こんな時間に。

「綱海さん!開けてください!俺です」

この声は、そんな、嘘だ。でも俺が聞き間違うはずない。それに俺のことを呼んだ。綱海さん、って。携帯を置いて、俺は急いで玄関へ向かう。ドアを開けると雨の匂いがした。雨、降りはじめたのか。

「立向居…」

ドアの向こうにいたのは片手には大きな荷物を、もう片方には携帯を持った立向居だった。

「お前…なんで」
「近くまで来てたんです。さっきの電話…」

立向居が言い終わるのも聞かず俺は立向居を抱きしめていた。そんなつもりなんてなかったのに、身体が勝手に動いていた。

「ええっ…綱海、さん?」

立向居は間抜けな声を上げる。いつもの俺はこんなことしないから。
立向居の身体は思ったより冷たくなっていた。服がほとんど濡れているのに気付く。傘、差してこなかったのか。

「なんでこんなに濡れてんだ」
「傘差さずに走ったんです。心配で。電話、なんか変だったから」

立向居は俺の本心がよくわからないでいるようだった。声が揺れてて、俺を探ってるような感じ。いつもだ。こいつはいつも俺に合わせてるんだ。立向居は俺を好きだって言う以外に俺に思いを伝えることができないんじゃないのか。それなのに俺が変な意地を張っているから、立向居はそれ以上俺に踏み込んでこない。いや、これない。

「やっぱり、変です」
「変じゃねえ」

離れようとする立向居を俺は引き戻した。俺はお前が好きだって、言葉以外で表現してる。だから、お前も、
俺は今までより強く立向居を抱きしめた。ちゃんと電話で言ったとおりにしてるだろ。

「風邪、ひきますよ」
「いいよ。別に」

立向居の持っていた荷物が床に落ちる音が聞こえて、背中に手が回るのを感じた。目をつむると、また雨の匂いがした。




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