閉じこめた想い

お前が俺に振り向かないのは
解っていた。いつも、綺麗に
笑っているお前がお前なんだと
思っていた。あの日までは。




「跡部!久遠が倒れた!」




忍足からそう言われた時、俺は
頭が真っ白になった。急いで
蒼のもとに向かうと、そこに
いたのは。




『……景ちゃん』




顔色は青白く、弱々しい笑顔を
見せる蒼だった。本当に目の
前にいる奴は、蒼なのか。俺の
知っている蒼なのか。




「……大丈夫か」

『うん、過労だってさ』




バカ野郎。過労でそこまで
顔色が悪くなるか。そこまで、
弱々しくなるか?…蒼、
お前は俺に何を隠している。




「景ちゃん」

『どうした?』

『アタシは、大丈夫だよ』



そう言って蒼はいつもの
笑顔で笑った。そこで俺は、
怖くなった。蒼を失って
しまうことを。だから、眼力を
使えなかった。知ることが
怖かったのだ。




「…蒼」

『ん、何?景ちゃん』

「……」

『景ちゃん?』

「…何だったかな、忘れ
ちまった」

『変な景ちゃん』




嘘だ、忘れてなんかいない。
「どこにも行くな」「俺の傍に
いろ」それが言えたらどんなに
よかったか。俺が帰ろうと席を
立った時。



『景ちゃん』

「何だ」

『ありがとう』

「…らしくもねぇこと言うん
じゃねぇよ」

『またね』




それが、俺と蒼の最後の
会話になると知らずに。
次の日、俺は急いで蒼の
もとへと走った。




「蒼…ッ!」




そこにいたのは、顔に白い布を
かけた蒼。




「蒼…」




…何であの時、気付いてやれ
なかったんだ。最後の会話で、
意味を理解すれば良かった。
何を躊躇っていたんだ、
俺は…ッ!




「…蒼」




"大好きだ、蒼"



その言葉は、俺の中に想いと
共に閉じこめた。しかし、
身体は正直で想いと言葉の数
だけ俺の頬を涙が伝った。
俺は、涙を流しながら冷たく
なった蒼の頬にキスを
一つ落とした。




閉じこめた

(伝えればよかったと後悔した)

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