vacuum


神様なんている訳ない。
だって、そうだろ。俺の
大事なものを奪って
いくんだから。中学の
時から、付き合ってた
彼女がいた。彼女は、
ファンの嫌がらせにも
屈しなかった。自慢の
彼女だった。



『大丈夫、アタシは光の
彼女の倉田結よ。
甘く見ないでちょうだい』



しかし、もう彼女は
いない。なぁ、結。
また、いつものように
強気な口調で話して
くれよ。また、笑って
くれよ。



『明日からは財前結に
なるのね』



あの時みたいに、照れた
顔見せてくれよ。



『光!聞いて!アタシの
お腹に赤ちゃんが
いるの!光の子よ!』



また、嬉しそうに話して
くれよ。だが、もう
それは叶わない。



「可哀想に…」

「子供がお腹にいたって」



煩い。何も知らない
クセに、知ったような
口を叩くな。同情の声
なんて聞きたくない
んだ。ほっといてくれ。



『ねぇ、光』



結…。何で、
お前が死ななければ
なかったんだ。
どうして、お前が…。



『大好き』



もう、結の声は
聞こえない。笑顔も
見れない。これからの
未来も見えない。俺は
一度に大切なものを全て
失った。全て、奪われた
のだ。



「何で…、結やねん…」



もう、俺の中には何も
ない、空の箱。俺の存在
理由もなくなって
しまった。それぐらい、
結という存在は
俺の中でとても大き
かったのだ。結の
いない今、俺は何もない
空虚の世界にいる。



「なぁ、結…。俺は
これから、どうしたら
えぇねん…」



今も眠る結の隣で、
問いかける。もう答えて
くれる結はいない
のに。それでも、俺は
信じきれていない。
しかし、結の
冷たい体に触れる度に
もう結はいないと
実感するのだ。



『光、アタシが死んでも
好きでいてね』



俺の頭の中に、ふと
結の最後の言葉が
よぎった。



「…当たり前の事を聞く
なや…、アホ…」



俺が呟いた言葉は小さく
誰の耳にも届かない。
そう、俺の声はもう
誰にも届かないのだ。
大事な人にも自分にも。




vacuum

(空虚が俺を支配する)









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