子供のままじゃ気付いてくれない | ナノ

 前に来たときにも思っていたけど、ここは綺麗な場所だと思う。海水は透き通って珊瑚が透けて見えるし、寄せては引く波は砂を動かして綺麗な音をたてる。太陽で熱されたアスファルトは陽炎を揺らめかせているが、蹴ると響きのいい音が道一杯に広がる。
 本当はここにもう一度晴矢と二人で来たかった、なんていつまでも思い続ける自分は本当に馬鹿だ。晴矢はもうバーンという宇宙人で一生懸命になってお父様に認められようとしてるというのに。私が入り込む隙間など、もう残してくれてはいないのというのに。
 いつまで私は晴矢を想い続けるのだろうか。終わりの無いものほどつまらないものは無いのに。どうして晴矢を好いているのだろうか。これがヒロトならまだマシだったのに。聡い彼ならきっとすぐに私の気持ちになんて気付いて、賢い返事を寄越してくるだろう。
 そんなことを止め処も無く考えながら歩いていると、自然と周りが見えなくなっていたようで日が厚い雲に覆われて陰ったことに気が付かなかった。ぽつぽつと水滴が落ちてきて瞬く間に土砂降りになった。急いで雨を凌げる屋根のある場所を探すと、灯台があった。運よく錠前は空いていたのでそのまま中に入ると中には雨が打ちつける音がわんわんと響いていた。薄暗いのもあったのだろうが大きく響き続ける音に何故だか世界に独りぼっちにされた気分になった。

* * *

「おい、起きろ。」
 肩を揺らされて目が覚めた。いつの間に寝てしまったのだろうと思いながら体をゆっくりと起こすと目の前には優しい赤があった。何故晴矢がここにいるのだ。
「‥なん、で?」
「何でってお前、ガゼルに聞いたからだろ。」
「‥なんで?」
「‥お前、それしか言えねえのかよ。」
 呆れたように晴矢が溜息を吐いたが、そんな事は微塵も気にならない。
「お前がカオスに入らないって言うから連れ戻しに来たんだよ。」
「なんで、そんな事しようとするの。私は戦力にもならないし入りたくないんだよ。」
「だったら控えでもいいだろ。何で入らないんだよ。」
 嘘吐き。カオスに控えなんて無いの、知ってるんだよ。仮にあったとしても、私は絶対に入らない。
「何で入りたくないんだよ。」
「晴矢には関係ない。」
 私だって何で入りたくないのか分からないのに。嘘。本当は分かってる。
「お前、昔に戻りたいんだろ。」
「‥え?」
 突然の晴矢の言葉に驚き過ぎて開いた口が塞がらない。
「昔みたいに皆で仲良くしてたいんだろ。」
 そんなの、当たり前じゃないか。私なりの幸せを願って、何が悪いの。
「そんなの、父さんに対して最低じゃないか。」
「どうして?どうしてそれが最低なの。」
「オレ達を育ててくれた父さんに恩返しする。そのためにオレ達は宇宙人になったんだろ。」
 私は、なりたく無かったよ。
「‥‥晴矢は、父さんにだけ認めてもらえれば、他は何も要らないの?」
「当たり前だろ。」
 自分でも驚くほど無機質で冷たい声が出た。それでも晴矢は迷うことなく返事を返してきた。私、どうして晴矢を好きになったんだろう。
「私は、私は父さんが好きだよ。他の皆も大好き。だって家族だもん。でも、今の皆は嫌い。皆、父さんのやってることは間違いだって分かってるのに、父さんに気に入られればいいと思ってる。そんなの、違うよ、絶対間違ってる。父さんが大事なら、私達が止めるべきなのに。それに、私は宇宙人になんてなりたく無かったよ。偽善だと罵られてもいい。私は、なりたくなかった。もちろん育ててくれてありがとうって、父さんに恩返しはしたかった。でも、でもね、皆があんな風に父さんだけの為に生きる様になるのは嫌だよ。」
「‥‥だから、入りたくないのか?」
「‥それだけじゃない。」
 言ってみろと促すように晴矢が顔を覗き込んできた。
「このことを皆に言ったら私はどう思われるか、いくら晴矢より幼くても分かるよ。‥私は、皆と違う意見なだけで皆に置いて行かれるのが嫌だ。それから晴矢に、ナマエじゃなくて、なまえとして見てもらいたいからだよ。」
 言ってる意味、分かる?聞くと晴矢は眉を寄せていぶかしんだ。
「私は、晴矢のことが好き。家族やお兄ちゃんとしてじゃなくて。」
ねえ、宇宙人になんてならなかったら、私は今でも晴矢になまえって呼んでもらえていたよね?
星屑の排煙