子供のままじゃ気付いてくれない | ナノ
嘘だと思いたかったし、今だってそう思い込んでいる。でも、現実と思い込みは一致するものではない。今この場に有る痛いくらいの静寂が私の思い込みを意図も簡単に打ち砕いてゆく。 冷え冷えとする長い廊下には誰一人としていない。昨日伝えられた内容を思い出して、憂鬱を募らせるだけだとは分かっていても溜め息を零さずにはいられなかった。プロミネンスとダイヤモンドダストは、お父様からジェネシスの称号を貰えなかった。ただ、それだけ。それだけのことだけど、不安定な私の世界を壊すには充分過ぎる打撃だった。 自分の足音だけが響く廊下を俯きながら歩いていると曲がり角から人が現れた。 「ナマエはいいのか?」 「‥いきなりそんなこと言われても何のことか解んないよ。」 無愛想な顔のままで単刀直入に言い出した風介兄に苦笑すると、真剣な瞳で見据えられた。 「知らないわけじゃないだろう。」 「‥カオスの事は知らないことにしてるの。」 「来ないんだな。」 「うん。‥沖縄に行ってくるね。」 「‥アイツか。何で沖縄なんだ?」 「あはは、やっぱり皆知ってるよね。ソフトクリームを食べようかと。」 「‥‥‥。なまえの気持ちに気付かないあいつもバカだが、なまえも充分なバカだ。」 「類は友を呼ぶから。‥ありがと、風介兄。」 「じゃあね」鏡に映った自分の変な笑い顔に気が滅入りそうになりながら、薄暗い湿った土を踏みしめる。気持ちが悪いくらいにぐちゃぐちゃに混雑した感情がどろどろと纏わり付きだして、必死で無心を装いながら息苦しい樹海の森を歩いた。
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