子供のままじゃ気付いてくれない | ナノ

「何処行ってた。」
 ヒロトと少し話して重かった心を軽くした後、プロミネンスのグラウンドに戻ると荒々しい声が向けられた。見てみれば眉間にしわを寄せて仁王立ちになっているバーンが問い詰めてきていて、彼の視線は今 私にだけ注がれているのだと思うと少し嬉しくなった。もっともこの状況でこんな事を悠々と考えている暇はない。
「別に‥。ドアの傍で突っ立ってただけだよ。」
「さあ、どうだかな。」
「何疑ってるの?本当だってば。」
「じゃ、何でそんなに嬉しそうな顔なんだよ。」
 ぱっと手で顔を押さえてみたが特に意味は持ち得なかった。逆にバーンの気に障ったようでぎろりと金色の目が細められた。居心地が更に悪くなって今度はこちらの眉間にしわが寄った。
「‥‥ヒロ‥グラン様と会ったの。」
「グランと?」
 ぴくりとバーンの目元が反応した。怖い、怖過ぎるなんて思っていたら、急に肩をがっちりと掴まれて顔を近付けられてきて、身動きが取れなくなる。
「何話したんだ。」
「‥特に、何も‥」
「いいから言え。」
「‥‥バーンが、悪いんだから‥っ!」
「‥は、」
「バーンが一人で沖縄まで行くから悪いんじゃんか‥!」
「‥それは偵察だって言っただろ。」
「偵察でも私だって行きたいって言ったのに‥‥!」
 感情が昂ぶると涙腺が弱くなるのは私の癖らしい。自分で言うのもなんだけど、ぼろぼろと大粒の涙が零れて止まらなくなって我ながら幼稚だと思った。高がこれくらいのことで泣くだなんて。
 周りに居た皆は驚いた様に騒ぎだした。ただ、流石と言うべきか、バーンはこんな事には慣れっこといった顔でぐしゃぐしゃと頭を撫でてきた。
「ちょっと抜けるからお前らちゃんと練習しとけよ。」
 一つだけ指示を出すと、泣きじゃくったままの私をひょいと抱っこしてグラウンドを出た。この際なんでお姫様抱っこかなんてことは如何だっていい。そんなことよりも何で私の部屋じゃなくて晴矢の部屋に向かっているかの方が気になって仕方がない。
 姫抱きしたまま器用に部屋のドアを開けると、ゆっくりとベッドの上に座らされた。
「‥おい、いい加減落ち着いただろ。」
「‥‥っ、‥‥、」
「ったく、何であんな事ぐらいで泣くのか分かんねえ」
「そんなの、こっ、ちが聞きた、いよ、!」
 バーンの言葉に何故かカッとなって、さっきよりも涙がぼろぼろ零れだした。呼吸し辛くなって過呼吸になりそうだ。晴矢がぐしゃぐしゃと私の頭を撫でながら「‥悪かったって」と気まずそうに一言呟いてから背中を優しく摩ってくれた。
「‥ず、るい」
「まだ言うか」
「だっ、て!」
「はいはい、分ーったよ!」
「今度一緒に行こう」と少し微笑んで言った晴矢にぴたりと涙が止まった。「約束、」お日さま園に居た頃はこう言って晴矢に小指を向けて指切りをした。晴矢はそれを見て「しょうがねえな」と呟いてから小指を出して絡めた。
指先の熱