子供のままじゃ気付いてくれない | ナノ

 ナマエもといなまえは、バーンもとい南雲晴矢(何だか面倒臭くなってきた)に懸想している。それはきっと彼女の行動を見ていれば一目瞭然でとても可愛らしく映る。だが、その行動に対してバーンの奴は何も分かっちゃいないというのは昔から二人を知っているオレとしてはうざったくて仕様がない。さっさとくっ付いてしまえばいいのに。
「あ、」
「やあ。」
 廊下の曲がり角を曲がると、オレよりも頭ひとつふたつ分くらい小さいナマエが壁にもたれて小さく下唇を噛んでいた。宛ら不貞腐れているのだろう。原因はバーンか、なんて頭の隅で考えていると壁に預けていた背を離して、きょろきょろと彼方此方を見回したり挙動不振に陥った。
「‥もしかして、チームが違うから困ってる?」
 思い当たったことを口にして訊いてみると、言葉を発そうとして吸い込んだ息を吐き出す前に何かに気付いたのか酸素を肺に押し込んだままこくりと首を縦に振った。
「‥オレがガイアのキャプテンだから話すのは恐れ多いと思ってる?」
 こくりこくりと瞳を大きくさせて口を真一文字に引き伸ばしたまま首を縦に振る動作が可笑しくて、頬が少し緩んだ。オレの脳をのぞかない限りオレの思考は分からないからナマエは不思議そうな顔をしていて、更に可笑しさが込み上げた。
 くすくすと零れてしまった微笑を隠さずに、内緒という意味を込めて人差し指を一本だけ立てた手を自分の口元に当てて笑って話し掛けた。
「バーン達には内緒で、俺たち二人だけの時は普通に話そうか。」
「普通、に?」
「そう。」
 一瞬硬直して戸惑ってから直ぐにナマエの頬が綻んで、暗闇に光をを点したように顔色が明るくなった。
「二人だけの時だよね、私とヒロト‥」
 はっと顔色を変えて口元を押さえた。綻んでいた頬もすぐに元に戻って、硬直したような顔になる。“グラン”では無く“ヒロト”と呼んでしまったことに戸惑ったようだ。‥そんな顔をさせたかった訳じゃないんだけど。
「二人だけの時はお互い楽な様に居ようか。」
「‥‥?」
「オレはなまえって呼ぶし、なまえは俺の事をヒロトって呼んでくれたらいい。」
「いいの?ここはお日さま園じゃないんだよ?」
「なまえはそうしたくないのかい?」
 思い切り首を振って否定して、「そんなことない、凄く嬉しい!」と嬉しそうに笑ったなまえを見て前から薄々感じていた気持ちに確信が持てた。
 この子はお日さま園に帰りたいのだと。
メッセージボトルの中の手紙