私のいた時間よりも私のいない時間を愛してください | ナノ

私から陽の光が消えてしまって、幾ばく経つのでしょうか。


 美味しいご飯を食べました。決して高級で豪勢な料理、とは言えないような平凡な家庭料理でしたがとても美味しいご飯でした。でもやっぱりあなたと食べたご飯には劣っていました。
 温かいお風呂に入りました。温かい布団に包まれました。どちらも酷く優しい感じがして、お風呂では気を抜けばそのまま眠りこけてしまうところでした。でもあなたに包まれている温度よりも冷たいものでした。
 友人と楽しく過ごせました。幼い子供が夢中になって遊ぶくらい、楽しさに浸っていました。おかげで一人の夕暮れが随分と寂しく感じてしまいましたが、とても満足です。でもあなたが迎えに来てくれない寂しさは拭えませんでした。


 あなたは最後に私と会った日に「いいか、我がお前の隣に居らずとも気を病んだりするのではないぞ。しばらく空けるかもしれんが、まあそれも一時の事よ。その間 我のようなものを、とは言わんが美味い飯を食い、風邪を引かぬように温かく過ごすのだぞ。ああ、気の慰めに友と遊ぶことも忘れるなよ。」と、いつものように傲岸不遜な態度で言いました。言葉通りあなたは翌日から気配さえ感じさせないままどこかへ行ってしまいました。ですから あなたが帰って来るまでの間、私はあなたに言われたことをきちんと行っていなければなりません。
 なのに、何故でしょう。
 あなたは一向に帰ってこないのに、私の生活は幸せです。でも懐にすとんと落ちて納得出来るような幸せではないのです。幸せなのに幸せに成りきれないような、どこかが足りないような気がしてならないのです。


「さびしいよ、王様。」


 本当はあなたが帰って来ないわけを知っています。綺礼さんも居なくなってしまったことも知っています。第五次聖杯戦争によるものだと知っています。そこであなたが想い人に敗れたことも、全部、あなたは何も私に教えてくれませんでしたが、全部知っています。
 あなたを追いかけることが出来たらいいのに、半神半人のあなたとはどうやっても死後の世界で会うことは儘なりません。それに私はあなたからの言いつけをこなさなければなりません。きっとあなたは私が後を追わないようにわざわざこんなことを言いに来たのでしょう。誰にも敗れないと自負しているあなたがこんなことを言いに来たことが可笑しなことなのに、どうしようもなく愚かな私はそれに気付けませんでした。気付いたのは、太陽のように気高く在るあなたが何処にも居なくなってしまってからでした。


 いっそのこと狂ってしまえれば楽なのに。そうすれば毎夜毎夜、温かな布団の中で一人の寂しさに打ちひしがれることもなく穏やかに過ごせるのに。幸せを心から感じることは、出来ないと思うけれど、それでもあなたが「気を病むな」なんて言わなければ良かったのに。健気にあなたの命令を守り続ける私は、きっと幽霊のようにふわふわと安定しないまま、外面だけの幸福を感じて孤独の中で生を終えるのでしょう。

「ずるいよギルガメッシュ。」

 どうか私を一人にしないで。



二人乗りの地球
20120403/存在証明