私のいた時間よりも私のいない時間を愛してください | ナノ

 「リジェネはずるい。」

 私は戦闘型でも頭脳型でもなくて、何処にも飛び抜けた能力なんて無い、ただの普通型で、言い換えればきちんと教育を受けた人間なのだ。もうイノベイターでもなんでもない。まあ。きちんと人間と比較した事は無いからもしかしたら人間よりは初期設定は上かもしれない。身体においての点では、戦場に出た事も無いので、命に関わるような深い傷を負ったこともないし、私はイノベイターという作られたものなので(きちんと管理されていれば)生まれた時から五体満足だ。
 ただ、これは人間だったらとても運の良いものなのだろうが、イノベイターではそれが当たり前の事だ。こんな無力なイノベイターなんてイオリア計画を進める所か、足手纏いだろう。きっとリボンズはあの時決して私を作ってはいなかった。それを阻めたのはリジェネで、私はリジェネの為に有る様な者だ。
 リジェネはそれを承知の上で私を隣に置いているのだから、知っている筈だ。現に私が彼無しでは生きていけない事を(もしかしたらこれは私の一方的な思い込みで、リジェネはわたしを隣に置いているつもりも無いかもしれないが)。
 それなのに何故、彼は私を置いてあちこちへ行ってしまうのだろうか。私がこの部屋の中でどれだけ不安になっているのか、知りもしないで。
「そんなの、僕だって言いたいさ。」
 リジェネの白い指が伸びてきた。
「僕をここまで骨抜きにしておいて、まだ抜き足りないのかい?」
 流れている涙を、逆からなぞる様にして目元に白い指が滑る。
「人間みたいに不安ばかり抱え込んで。」
「全部リジェネの所為じゃない。」
「そうだね。責任を取るよ。」
 ふっとリジェネの目が眼鏡の奥で笑って、弧を描いた口が耳元に寄せられた。
「だから君も、僕を惚れさせた責任を取ってよ。」


泥沼に堕ちた。