私のいた時間よりも私のいない時間を愛してください | ナノ

「私は私のままでいたいよ。変わりたくなんてない。それが私の核心にある気持ち。周りの言葉なんてさして意味がないね。」
 “変な人”って言われてる私に他クラスのオリハライザヤはそれについてどう思っているのか聞いてきた。だから丁寧に答えてあげた。周りに合わせて変化させるなんて楽しいの?そんなだったら私の方がましだわ。礼儀とか常識とかを分かってたらもういいんじゃないの?充分社会でやっていけるじゃない。社会でやっていけるのなら別に私が何をしようと文句はないはずでしょ?それに、生憎と私にはあいつらみたいに周りに合わせるための時間なんてとってられないから。
「へえ。なら君はどうしてリストカットなんてしてるのさ?」
 オリハライザヤ。折原臨也。私とはクラスが違う人。格好良いと持て囃されている。たしかに格好良い顔だ。成績優秀。眉目秀麗という言葉が当てはまりそう。平和島静雄とは犬猿の仲らしい。今現在私の左手首に視線をやりながら私と会話している。
「自分が嫌いだから。」
「自分の好きなことをやっているのに自分が嫌いなのかい?」
「折原臨也に教える義理はないよ。」
 オリハライザヤ。折原臨也。彼はこの間私に突っかかって来てからずっと、私が質問に答える度に嬉しそうな顔をする。よく分からないな。自分よりも周りを優先させる性格だったら理解できた?分からないな。
「君は自分で言う割に、周りに劣等感を抱いてるんじゃないのかい?」
「‥それで?」
「だから君は昔のように達成感も味わえないんじゃないのかい。」
「折原臨也がどうして私の過去を知っているのか甚だ疑問だわ。」
「そんなの決まってるじゃないか。俺は人間を愛しているから、その内のひとりの君のことも愛しているのさ!いとしい人間の過去を知っているのは当たり前の事だろう?」
 オリハライザヤ。折原臨也。今までの情報は当てにならない人。“人間”を愛しているらしい。良く分からない人。私見だけど狂ってるんじゃないかな。
「折原臨也が私という人間を愛していても、私は私という人間が途轍もなく嫌い。知ってる?自分を愛せない奴は他人を愛せないそうよ。つまり私はあなたの愛には応えられない。だから私という人間を愛するのはやめてくれる?」
「それは君が人間を止めない限り無理かなあ。ああ、それに俺は何も見返りが欲しいわけじゃないから君は俺のことを愛さなくたっていいんだよ。今 俺は君という人間を観察していたいだけだから。」
「観察されるのは気に食わないわ。いっそのこと私を平和島静雄だと思ってくれない?」
「‥シズちゃんの名前が出てくるのは誤算だったなあ。でもそれは不可能だね。君にはシズちゃんと共通するところが一つもないし。」
 オリハライザヤ。折原臨也。“平和島静雄”というワードで端正な顔を歪ませる。犬猿の仲という噂は本当みたいだ。
「‥なら、私のやりたいようにしてあなたの観察を終わらせるわ。」
 フェンスを飛び越えれば優劣も何もない世界。ああ、私はあの大嫌いな世界とお別れしてこんな世界が欲しかったんだわ。周りと比べられて、相手よりも優勢に立てて初めて劣等感を拭うことが出来る大嫌いな世界じゃない、こんな世界。まあ、でも最後に大嫌いな世界で折原臨也の驚いた顔を見れたから、そこだけは満足ね。




さよなら大嫌いな世界
image song is Miku Hatsune,"BadBye".
20110904