私のいた時間よりも私のいない時間を愛してください | ナノ

 するすると引っかかることなく流れる髪に再度指を通す。先程と同じようにするりと俺の指から逃げたそれを追わずに、俺のするがままにさせている本人に話しかける。

「なあ。暇なんだけど。」
「んー‥?」

 眠いのか、中身のない、ふにゃふにゃとした柔らかい返事が返ってきた。俺が寝転んでいるベッドにもたれるようにして座っている慶登の髪をもう一度梳くと、重たげな瞼を下ろさないようにと難しい顔をしていた。どうやら俺の手が眠気を誘っているようだ。寝られては余りにも暇なので最後まで梳かずに手を退けると慶登はベッドに頭を乗せて目を少し見開いた。

「止めんなよ‥。」
「止めなきゃお前、寝るだろ。」

 眠気覚ましに一発凸ピンをお見舞いしてやると、眉を寄せてむくれた顔をして「痛え‥。」と額をおさえた。生憎と撫でてやるような優しさは持ち合わせていないので無視して今度は頬をつついた。

「おい、遊ぶなよ。」
「お前が相手してくんねえからだろ。」

 予想していた以上に慶登の頬が柔らかいので雑煮の餅のように伸びるのではないかと思い、伸ばしてみたくなった。欲求に逆らわず頬をつまみ、横へと引っ張る。「いへっ!」なにやら可愛らしさの欠片もない抗議の悲鳴が上がった気がするが気にせずに引っ張っては伸ばし、引っ張っては伸ばしを繰り返す。
 すると慶登は本格的に機嫌を悪くしたのか強い力で、頬を引っ張っている俺の手を掴んだ。

「そんなに構って欲しいのかよ…。」
「暇だからな。」
「…お望み通り相手してやるよ。」

 この細っこい腕にどんな力をもっているのか。慶登はベッドのスプリングが壊れるんじゃないかと心配するくらい大きな音を立てると、呆けていた俺の上に股がった。

「嫌って言うほど可愛がってやるよ、慶哉。」

 にやりと妖しく笑いながら「覚悟しろよ?」と付け加え、今日初めて俺の名前を呼んだ慶登に視線だけで「可愛がって欲しいとは言ってない」と呟いて腹を括った。




僕らは双子だけど双子は恋愛しちゃいけないって誰が言ったんだい。/20110722