私のいた時間よりも私のいない時間を愛してください | ナノ

 まだ青くて短い草の上を歩いていた。周りにはぽつぽつと大きな木があって、空には雲以外にも色々なものが浮かんでいて、なんだかファンシーだった。何故だか草の色も木の色も空の色も、周りにあるもの全部の色が薄くなって透明になったような景色だった。
 歩みを止めずに短い草を踏みしめて歩いていると、空の色が青から橙に変わった。浮かんでいるものと、木や草は変わらなかった。ほかに変わったものは空の色だけが変わったから明りの色が変わったことだけだった。
 ずっと歩いていると、空は橙から黒になった。青が朝からお昼で橙が夕方で黒が夜、と言ったところなのか、黒の時にはファンシーな月と星が空に増えた。それからちょっとして黒がまた青に戻った。何回か青、橙、黒を繰り返していると、周りの色が白に近くなってきた。この色、好きだなあ。何で、好きなんだっけ。
 周りがすべて白く白くなって残ったのは縁取っている線だけになった。そこで歩くのをやめてしゃがみこんでみると、何かが壊れるような音がした。なに、だめ。壊さないで‥‥。ぱっと光が一瞬だけとても光った。目を開けてみると周りには何もなくなっていて、真っ黒になっていた。壊されちゃった?どうしよう、この色は、私の好きな色は壊されちゃった。でも依存しちゃだめ、白は壊さないと迷惑に‥‥なんで、迷惑に?何で白が好き?すると、ふわふわとした胞子のようなものがいくつか周りを飛び回りだした。それは誘うように上に舞い上がった。慌ててそれを追いかけると、壊される音と眩しい光に包まれた。

「起きろ。」
 ゆさゆさと肩を揺すられて目を開くと、半分だけ開いたカーテンの隙間から太陽の光が差し込んできた。眩しい、と思って布団をかぶろうとすると、誰かが光を遮るようにカーテンの前に立って布団をはがした。
「ぅ、‥‥アクセラレー、タ?」
 ぱちぱちと瞬きを繰り返すと、白い彼がいた。ああ、さっきのは夢かあ。白が好きなのは一方通行の色だからか。さっきまでの夢を紐解いていくと、一方通行は私の目の前で手を揺らしながら「おい、起きろ」と眠気を飛ばさせた。
「夢、見た‥。」
「へェ。」
「幸せだけど‥‥ちょっと悲しかった。」
 一方通行と一緒にいられないみたいで、一方通行がいなくなるみたいで。と言うと一方通行はばつが悪そうに目を細めた。一緒に、いられないよね。最近、君は大変そうだもんね。
「‥ガキが飯作って待ってからそろそろ起きろ。」
「打ち止めが‥?」
「オマエにどォしても食わしたいンだと。」
「やったぁ‥。起きる‥‥。」
 のそり、と起き上って一方通行に笑って「おはよう」と言うと髪をぐしゃぐしゃと撫でられた。
「オマエを置いて何処にも行かねェよ。」
「へ‥、」
「俺が起こさねェと起きないよォな奴を置いていけるかっての。」
 ぐい、と手を引かれ寝室から出てリビングに入ると打ち止めが嬉しそうな顔をした。リビングにはキッチンから流れてきた美味しそうな匂いが漂っていた。ああ、しあわせだなあ。


太陽を追う精霊

紅茶漬けの刺繍様に提出。
20110404