私のいた時間よりも私のいない時間を愛してください | ナノ
桜の根元に落ちていた花がついた枝を砂を払って綺麗にする。 「慶次には花が似合うよ。」 昔からね。と呟くようにして付け加えながら綺麗に見えるように桜を慶次の髪に挿す。夢吉が桜の匂いを吸い込んで幸せそうな顔をした。花より団子な慶次より、よっぽどわかっていると思う。驚いたような顔をした慶次に「似合ってる」と言うと自然と顔が綻んだ。 「ありがとな!」 にこっと笑った慶次に笑い声を返して、中腰だった腰を慶次の隣に下ろす。慶次が食べているまつさんが作ってくれたお団子を一つ頂くと、慶次は5つほど片手に掴んだ。 「慶次食べ過ぎ。」 「ん、まつ姉ちゃんの作ったもんはなんでも美味いからさ!」 慶次はとても嬉しそうにまた笑った。いいなあ、私もまつさんみたいになりたい。男の人に引けを取らなくて強くて格好良くて。それなのに綺麗で料理が上手で弟にも気配りができる。羨ましいな。女の鑑だと思う。生憎と私は男の子と走り回っているほうが好きだからなあ。小さいころは慶次にも負けなかったけど、そろそろ無理だな。強くもなくて、女らしくもないって‥‥。まつさんは遠いなあ。 ふと、視線を感じた。夢吉が私の団子を狙っているものだと思っていたら、視線は慶次のものだった。髪に花でも付いたかな。ここは桜の木の根元だし、今日は風が良く吹いてるから引っかかったかな。手で前髪のあたりを払ってみるけど、降ってくるのは風で木から飛ばされた花びらだけだった。 「‥なにか、付いてる?」 「いいや?」 何も付いていないのに慶次はじっとこちらを見つめている。夢吉、これはいったいどうすればいいのかな。気になって団子を食べる手が止まる。 「‥どうかした?」 「いいや?」 「‥‥‥あんまり見られると、食べにくいんだけど。」 折角まつさんが作ってくれたのに。そう付け加えると、悪い悪い!と言って慶次はまた笑った。慶次はよく笑うなあと思っていると、手に持っていた団子を夢吉に盗られた。「あっ、こら!夢吉!!」上手い具合に盗ったことが嬉しいのか、夢吉はいつもより高い鳴き声を上げた。待て待て、と叫びながら夢吉を追い掛け回していると夢吉は慶次の頭の上に乗って、最後の一つを食べた。 「慶次!!夢吉捕まえて!」 「ダメだろ夢吉ィ、人のもの盗っちゃあ。」 ひょいと慶次が夢吉を掴もうとした瞬間、夢吉が私の頭に飛び乗った。よくわからない奇声(女らしさのかけらもない)を上げると同時に、夢吉はバランスを崩したのか私の目を覆うように上から滑ってきた。そうすると、今度は私がバランスを崩す番だ。ばたばたと手を泳がせるが、生憎と鳥でもなければ魚でもないのでどうしようもなく、ぐらりと傾いた時には慶次の焦った声が聞こえた。 「ぅあ、痛くない‥?」 「うーん‥。」 「ひぎゃっ!け、慶次!?うわああああ、ごめん!!」 どうやら慶次は私を助けて下敷きになったらしい。慌てて退くと、ちゃんと食べてんのかい?俺の半分は食べなくっちゃと言われた。 「し、失礼な!そんなに食べたら太っちゃうじゃない!」 「名前はもう少し増やさないと。戦になったらどうするんだよ?すぐに飢えちまうや。」 「‥‥戦になっても慶次が守ってくれたら大丈夫!」 え、と口を開いた慶次に、あ、と口を開く。慶次が何か言う前に私の声が先に出た。「無理だ。」 「えええ、何でだよ。」 「慶次は私のところに来る前に、ほかの人を助けちゃうから私のところまでなかなか来ないよ。」 そこが慶次のいいとこだけど、私その間に死んじゃうかも。でも私、多少は自分を守れるから大丈夫だよ。と笑って言うと慶次はまたじっと私を見つめた。 「な、なに。」 「いいや?」 「さっきからそればっかり!」 「いやあ、名前もいつの間にか女になってんだなあと。」 「‥‥失礼な、生まれた時から女ですが。」 「そうじゃなくってさ。なんかこう、柔らかくなった。」 なんだって、今まで刺々していたというのか。私の表情から汲み取ったのか、違う違うと慶次は手と首を左右に振って慌てて否定する。 「俺よりもさ、」 す、と夢吉が乱した私の髪に触れる。何回か髪を撫でたり梳いたりして整えると、そのまま頬にまで手を滑らせて慶次はまた笑った。 「名前のほうが花が似合うようになったってこと。」 かあ、と顔が赤くなるのが分かった。風に吹かれている花びらは私の顔の赤みを隠す気はないらしい。違う方向に吹かれだした。 「心配しなくても、ほかのやつも助けてすぐに名前を助けてやるからさ。ちゃんと待ってろよ?」 待ってろ、だなんてそんな、どうしよう、嬉しいけど恥ずかしい。慶次の笑顔に見つめられて余計に恥ずかしい。夢吉、嬉しそうに見てないでたすけて。
ひらひら
20110401
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