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primo
　幼い頃の将来の夢は、幼馴染と結婚することだった。2人だけでいる事が多かった私達は、何をするのも、一緒に手をつないで離れない様にしていた。2人だけになる度に「大きくなったら結婚しようね」と、顔を見合わせて約束を確認していた。私達がどれだけ2人で居たかは、それはもう凄いものだった。他の子と鬼ごっこをしていても、二人で手をつないで逃げていたし、かくれんぼも2人で一緒に声を潜めて隠れていた。
　あまりに仲が良かったものだから、よく「可愛いカップルさんね」とからかわれた。そうされたら私達は仕返しとばかりに、相手に見せ付ける様にしてキスをしてからこう言ったのだ。
「カップルじゃなくて夫婦なんだよ。」

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secondo
　小学校に上がると、校区が分かれたのでそれぞれ別々の学校へ通った。始めのうちは駄々を捏ねたりしたが、すぐに無くなった。というのも、学校から帰って相手の家へ遊びの誘いをすれば、すぐに解決できたからだ。二人で遊ぶだけでなく、彼のサッカーを観戦するのも、普段の彼が一層格好良く見えて私は好きだった。ただ、観戦した後が、どうしても好きになれなかった。それは彼がチームメイトを引き連れて一緒に遊ぼうとするからだった。一緒に遊ぶのは楽しかったので構わなかったが、彼の友達ということは、大抵が私とは学校が違った。学校が違うと、その時流行っている物などが私とは全然合わなくて、会話にも付いて行けず、いつも居心地が悪くて仕様が無かった。彼が私に構ってくれなくなってしまうのも、好きになれなかった原因だと思う。
*　*　*
　彼に依存していた私は、クラスの子にあまり受け入れてもらえなかった。仲の良い友達はいたが、そうでない子の方が圧倒的に多かった。ある時、その子達の一人が私と彼が遊んでいるのを偶然見て、私にこう言って来たのだ。「お前なんかには似合わない」と。その頃から彼はサッカーがとても巧いと有名で、男子の憧れであったし、女子からはしょっちゅう告白されるくらい凄かったのだ。私が彼の恋人というのは、あまりにも不釣合い過ぎだった。それを思い知らされた私は酷く落ち込んで、彼と遊ぶことはおろか、会うことさえ止めてしまった。

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terzo
　中学生になると彼と同じ学校になり、クラスも同じになった。でも、小学校の頃のことが染み付いていた私は、彼のことは知らない振りをした。そんなことをしなくても、彼はサッカーに夢中だったので話す機会などは殆ど無かったのだけど。
*　*　*
「今からフィディオ君が来るから、部屋片付けなさいよ。」
　学校から帰ってきて突然母に言われた言葉に驚いて目を剥いていると、母はしかめっ面をした。
「小さい頃あんなに遊んでくれてたのに、あなた急に遊ばなくなるんだもの。お礼がしたいって母さんが呼んだの。」
　何てことをしてくれたんだ。
　急いで部屋に飛び込むと、階下から母の怒声が聞こえた気がした。だが、丁度その時インターフォンが鳴らされた。すぐに機嫌を良くした母の声とフィディオの声がする。2階でも聞こえるくらい楽しそうな話が出来て母は大変満足のようだ。時折、私とフィディオを対比している。
　暫くして、話し声が聞こえなくなり静かになった。帰ったか確認し様と抱えていたクッションを脇に置こうとした瞬間、ケータイが振動した。知らないアドレスからメールが一件入っていて、不審に思いながら開くと【今 部屋にいる？】まさかと思った瞬間、ドアがノックされた。
「名前、いる？」

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finalmente
　急いで返信ボタンを押して、【入ってこないで】と短く送ると、ドアの向こう側でフィディオがケータイを開いて、丁度届いたであろう私からのメールを確認する音が聞こえた。
「‥名前が突然オレと遊ばなくなった日、覚えてる？」
「オレ、あの時凄く悲しかったんだ。名前に嫌われたんじゃないかって。」
　フィディオが黙った。フィディオが傷ついたのは私の所為だ。私がフィディオに似合わなかったことに早く気が付かなかったから。次に、何を言われるんだろう。
「‥‥オレのこと、嫌いになった？」
　嫌いになるわけがない。なんで私がフィディオを嫌わなきゃならないの。むしろ、嫌われるのは私の方なのに。私の身勝手で会うことを止めて、どれだけ後悔したか知らないでしょ。好きな人とは似合わないって言われて、どれだけ悲しかったか、分かるの？告白されているフィディオを見て、何も思わなかったと、泣かなかったと思ってるの？
【馬鹿じゃないの】【嫌いになるわけないでしょ】
【昔から私の一番は、】
　そこまで打って、涙で画面がぼやけた。ごしごしと少し荒っぽく拭ってから送信ボタンを押す。少しの間が会って、遠慮がちにドアが開いてフィディオが入って来た。
「名前の一番って、誰？」
「‥‥‥‥‥。」
「"一番"っていうのは、"名前の好きな人"って解釈していい？」
「‥‥‥うん。」
「昔した約束覚えてる？」
「‥‥どれのこと？」
　そっとフィディオの手が重ねられて、手が包まれた。しゃがんで、下から見上げる形でフィディオの綺麗なブルーの目が私を射抜く。
「"大きくなったら結婚する"」
「覚えて、る。」
　言葉がつっかえたが、ちゃんと聞き取ってもらえたらしい。フィディオは顔を破綻さて笑った。
「もう少し大人になったら結婚してくれますか。」
　涙と嗚咽で声がのどで引っかかって出てこない。こくこくと首を上下に振って肯定すると、フィディオは昔のように私の唇に口付けた。


世界が染まったとき
(隠し事はもうお終い)

title:舌
20110115