私のいた時間よりも私のいない時間を愛してください | ナノ

 がしゃん がしゃん がしゃん がしゃん......
 飽きもせずにずっと繰り返し同じことをしていると、不規則だった調子がだんだん規則的に、無機質になりだした。比例するようにリズムよく床に落とされる皿の割れる音に、私の心情はどんどん黒く変色していく。音を立てているのは私で、つまり苛立ちの原因は私なのだが。
 ストレス発散の為に要らないものを掻き集めてそれらを全部壊すけれど、でもそれが抵抗も何もしなくて(当たり前なのだけど)無機質で、また腹が立って、それらが逆に癇に障りだす。でも結局はすべて自業自得で、他人に当たれないことに余計に腹が立って。でも、すぐに他人に当たろうとする自分の愚かさにも腹が立って、といった具合にぐるぐると無限に抱えた苛立ちを悪循環させている。
 どうして私は嫌うことしか出来ないのだろう。愛せない、なんて辛いだけなのに。愛した分だけ“嫌い”に変わって還ってくるのが怖くなって、“愛せなく”なったのはいつだっただろうか。
 シュッと、扉が開く音がして繰り返していた動作を止めて少しそちらを見ると、刹那が居た。無愛想な刹那の表情を確認し終えると、私の腕は無意識にさっきと同じ動作を繰り返しだす。私が機械になってしまったみたいに。
「‥何をしている。」
「‥‥皿、割ってるの。」
「見れば分かる。何故しているかを聞いているんだ。」
「‥‥‥‥。」
「外まで聞こえていたぞ。」
 こんな風に当たるから外にまで聞こえてしまうというのに、ガシャン!と今迄で一番大きな音を立てて、最後の皿が割れた。あちこちに無残に飛び散った破片を見つめながら、荒くなっていた呼吸を整える。
「‥腹が立ったの。それだけ。」
 刺々しい態度しか取れないことに苛立ちがこみ上げてきたのと、苛立っている時に話しかけないで欲しいのが一気に腹の底から競り上がってきてどこに吐き出せばいいのか分からなくなった。むかむかして頭の中がぐちゃぐちゃで、何がなんだか分からなくなって、何故だか飛び散った大きい破片がもっと粉々にならなかったのが腹立たしくて、でも屈んで拾い上げて壊すのも面倒で、踏めばいいんだ、なんて安直な結果に陥った。
 緩慢とした動きで片足を上げ、振り下ろそうとしたところで今まで無表情で見ていた刹那に抱き上げられた。
「何するの!放して!」
「‥‥‥‥。」
 ぼすりとソファに下ろされた。私と目を合わせる為にしゃがんだ刹那を思い切り睨めつける。
「黙ってないで何とか言いってよ!」
「‥流石に裸足で踏むのはどうかと思うぞ。」
「‥そんなこと分かってる!」
 ずっと無表情のままの刹那にまでだんだん腹が立ってきた。誰彼構わず当り散らすなんて、最低だ。刹那が途中で阻んだため、溜まっていた、鬱陶しく纏わり付く感情は消えていなくて、阻まれたことが悔しくて、小さな子供が癇癪を起こすように唇を噛んで唸る。
「‥‥次のミッションが終わったら、休暇を取って二人で地球に行こう。」
 そっと刹那の大きな手が重ねられる。
「‥刹那一人で行けばいい。」
「トレミーにしか居られないから鬱憤が溜まるんだ。広い所に出たら幾らかマシになるはずだ。」
「刹那一人で行けばいい!」
「俺はお前と一緒に行きたい。」
 わがままだなあ!遠回しに嫌だって言ってるのが分からないの?苛立ちを籠めてもう一度強く睨むと、射抜くような目で見られた。途端に怒りばかりで固められていた気持ちが崩れるのが分かって、その程度の気持ちだったのだと感じて悔しくなった。(ずるい。そんな目で見られたら何も言えないじゃないか。刹那の目はいつだって真剣で、説得力が有り過ぎるのに)
「次のミッションで死んだら、約束守るまで追いかけるからね。」
「望むところだ。」
 にやりと笑った刹那に抱きつくと、満足そうに抱き上げられた。

束の間ならば融けていられ


title:夜空にまたがるニルバーナ