彼らが歩む素晴らしき理由のために


(前作主人公=神薙ユウさん設定。キャラ崩壊!)
(ただの日常、NO恋愛!)





「おう、なまえ!」

「あ、コウタさん」


壁外調査の報告書をソーマさんに提出しようとアナグラに戻るとエントランスで早速コウタさんに声をかけられた。
同じクレイドルに所属していても極東の防衛に徹しているコウタさんと壁外での遠征調査を中心に活動する私とでは顔を合わせる機会がほとんどない。
この業界はいつだって人手不足だし仕方ないとは思うけど、やはり顔馴染みの先輩や同期の皆と長期間離れているのは少し寂しい。


「あれ?ユウは?」

「リーダーは帰投途中で遭遇したヴァジュラを討伐してから帰るそうです」

「あいつらしいな」


コウタさんは腕組みをしながら苦笑いを見せる。同行者としては笑い事ではない。リーダーはとにかくアラガミレーダーとでも言うのだろうか。すぐにアラガミと対峙したがる。
正直、リーダーの実力は人並み外れている。本部からも直々に任務を命じられるほど信頼されている。きっと私なんかが同行しなくても余裕で任務を完遂してしまうと思う。


「まあ、あいつすぐ自分一人で片づけようとするし、これからも面倒みてやってよ」

「はぁ」

「それよりさ、今日はアナグラに泊まっていけるんだろ?」

「リーダーが任務に行かなければですが…」

「よっしゃ。じゃあさ、ムツミさんに頼んで料理作ってもらうから、せめてメシでも食べてけよな。極東のメシなんて久々だろ?」

「はい。ありがとうございます。では、報告書の提出がありますので失礼します」


お辞儀をする私に手を振るコウタさんに背を向け、エレベーターに乗り込む。サカキ博士の研究室がある階で止まり、扉が開く。扉の向こうで懐かしい人と対面した。


「あ、サクヤさん」

「え?あら、なまえ。久しぶりね。ほら、レン。なまえお姉さんよ」

「なまえ!」


サクヤさんの後ろに隠れていたサクヤさんの子供レン君が私の顔を見て駆け寄ってくる。
しゃがみながら彼の視線に合わせると、そのまま抱きついてきた。自慢ではないけど私はレン君によく懐かれている。


「ふふ、レンは相変わらずなまえがお気に入りね」

「なまえ!今度はいつまでいられる?またアラガミごっこしてくれる?」

「どうでしょうか。あ、サクヤさん。ソーマさんって研究室にいらっしゃいますか?」

「確か三日ほど籠りっぱなしだったと思うけど」

「み、三日…」


研究熱心なソーマさんらしい。私が極東専属のゴッドイーターだった頃からソーマさんはパソコンに向かい人類の未来のために様々な研究を行っていた。
今でもたまに忙しいソーマさんの代わってアラガミのコア回収などをしているが、それが何に使われるのかは全くの不明。私の及ぶ領域ではない。


「栄養剤で凌いでるみたいだけど、たまにはラウンジでちゃんとご飯食べなさいって言っといてくれる?」

「はい、了解です」

「お願いね。ほら、レン。なまえはまだ仕事があるんだから」

「んー、なまえ!あとでね!」

「うん。またね」


サクヤさんに手を引かれてレン君はエレベーターに乗り込んでいく。扉が閉まる瀬戸際に手を振るとレン君はサクヤさんと手を繋いでいない方の腕をぶんぶんと思いっきり振り返してしてくれた。
エレベーターの扉が閉まると手を振るのを止めて目の前の研究室へ向かう。扉の前でため息を一つ。調査報告書を強く握り、扉をノックする。


「フェンリル極東支部独立支援部隊「クレイドル」所属、調査班隊員1名。入ります。」

「おう」


部屋の中から簡潔な返事が返ってくると、すぐに自動で扉が開く。部屋の中にはセンターチェアに座り、相変わらず液晶画面と睨めっこしているソーマさん、ただ一人。
失礼します、と一言告げて室内へ。部屋の中央まで来ると、背後で扉が自動に閉まる。そこでソーマさんは初めて私の顔を見上げた。


「ご苦労だったな…あいつはどうした」

「帰投の途中でヴァジュラと対峙して討伐してから戻ると言っていました」

「あのバカ」


私の報告に項垂れるソーマさん。その気持ち、凄くわかります。


「あ、これ。今回の遠征調査の報告書です。キュウビの生態及び追跡結果、あと頼まれていた感応種のコアです」

「いつも、すまない」

「いえ。仕事ですので」


ソーマさんに報告書を差し出す。受け取ったソーマさんはすぐに報告書を捲り、中身を確認する。


「これで研究が進む。感謝するぜ」

「お力添えができて光栄です。あ、サクヤさんから伝言なんですが」

「ん?」

「たまにはラウンジでちゃんとしたご飯を食べなさい、と」

「フン、いかにも一児の母といった台詞だな」


首を回しながら笑うソーマさんは椅子から立ち上がり、報告書を机に置く。珍しくラウンジに出向くようだ。
二人で研究室を出て、ラウンジに向かう。エントランスでは受付のヒバリさんが「皆さん、もう集まってますよ」と笑顔で教えてくれた。



「なまえきた!」

「おう、やっと来たな。早くこっち座れよ」

「なまえ、報告書の提出ありがとう」


レン君を肩に乗せたリンドウさんとその隣に座っているリーダーに手招きをされる。私は誘導されるままにカウンター席へと腰を下した。目の前では料理長のムツミちゃんが「おかえりなさい」と笑顔で迎えてくれる。


「リンドウさん、お久しぶりです」

「そんな堅苦しい挨拶はいいから、ほら。レンがなまえはまだかってうるさいんだよ」

「ユウ、なまえ、アラガミごっこしよう!」

「バカ言え、こいつらはこれから飯食うんだよ」

「ぶー、じゃあ、パパやろー」

「よーし、じゃあパパはオウガテイルだぞ。ユウもなまえも、ゆっくりしてけよな」

「はい。ありがとうございます」


二人はビリヤード台の方に行き、アラガミと戦うゴッドイーターごっこを始める。微笑ましい親子の姿だ。


「リーダー、戻られていたんですね」

「ああ、さっきね。いや、やっぱりムツミちゃんの料理は美味しいよ」

「ユウさんもなまえさんもいっぱい食べて下さいね」

「ありがとう、ムツ…」

「あ、あの!ユウとなまえが帰ってきてるって!!」


息を切らしながらラウンジに飛び込んできたのは同じくクレイドル所属のアリサさんだった。
アリサさんは私達の姿を確認すると、少し頬を膨らまし、まるでタックルしてくるかの勢いで私達に飛びついてきた。


「ぐあっ」

「帰ってくるなら連絡くらいしてください!全く貴方たちはいつも突然なんだから!!」

「す、すいません」


アリサさんは私達を離してわざとらしく咳払いをする。改めて私達を見て「おかえりなさい」と呟いた。アリサさんの瞳は薄ら潤んでいるように見えた。


「さて。じゃあ、ムツミちゃんのご馳走頂きますか」

「はい、……ん?」


全員揃ったところで乾杯でも、という雰囲気の中で無線機に連絡が入る。

『――クレイドル遠征調査班に通達、外部居住区より西の方角1000m付近にキュウビと思しきアラガミの反応あり。至急、出撃願います!』


「近いな。なまえ、行くぞ」

「はい、リーダー」

「ったく、ゆっくり食事もする暇ねぇな。折角バガラリーとシプレのアーカイブでも見せてやろうって思ったのにさ」

「キュウビの討伐を終えたら、ゆっくり見せてもらうよ。なまえと一緒に」

「え?」

「おっしゃ!約束だぜ、はりきって行って来い!」


コウタさんに背中を押されてラウンジを出る。リーダーがヒバリさんに出撃準備を聞くと、いつでも出撃可能とのこと。さすが優秀なオペレーターだ。



「はは、何かいいよな」


手入れをしていた神機から隣で運転をしているリーダーに視線を移す。
リーダーは相変わらずにこにこと満面の笑み。この人はどんな時でもよく笑う。


「帰る場所があるっていうかさ」

「そうですね。皆さん、温かくて優しい方ばかりです」

「俺達が守らなきゃって思う」

「はい」

「よし!じゃあ、行くか。頼むぜ、相棒」

「任せてください、リーダー」



私達はトラックを降りて神機を構える。
キュウビはこちらに気付き、大きな唸り声を上げた。自然と怖くない。


世界を守るとか、人類の未来のためにとか、そういう格好いいことじゃない。


アナグラで待っててくれる人達が笑顔でいられるように。

ただ、それだけのために私は戦っていける。







*死亡フラグ立てまくり!
title by ロストブルー


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