君達の存在は確実に、私の世界の色を変える
(色々カオスですがお許し下さい)
「ブラッド隊にもそろそろ飽きてきたな」
本部役員の護衛という花形任務のブリーフィング中にも関わらず、とんでもない爆弾発言を放ったなまえ隊長に全隊員の視線が集中する。
1人掛けの椅子に踏ん反り返って座っている彼女はとても終末捕喰から世界を守った英雄には見えない。 そのふてぶてしい姿はグレム前局長にも引けを取らないのではないか。
隊員たちの脳裏にある自分達を血の力の覚醒へ導いた隊長の姿が徐々に薄れていく。あの日あの時の清く正しく美しかった隊長はどこへ行ってしまったのだろう。 初めこそ、隊員全員がそう疑問に思えてならなかったが、最近はもうこれこそが本来の隊長なのだと皆自分自身に理解させていた。まあ、ただ二人を除いて。
「飽きる、とは…どういう意味だ?」
この中の誰よりもブラッド隊を愛し、慈しみ、掌中の珠とするジュリウスは絶望に満ちた顔でなまえを見る。
「そうです、隊長!隊長が除隊されると言うのなら、私が作成した全ブラッドバレッドを駆使して君を止めにかかります!もし、それが許されないのであれば、私も除隊を希望します!」
この中の誰よりもブラッド隊長を盲愛し、溺愛し、目に入れても痛くないシエルはどこからともなく取り出したスナイパーを泣きながら構える。 さすがにナナが慌てて止めにかかるもシエルは「止めないで下さい!隊長がっ!隊長がっ!」と叫び、聞く耳を持たない。
「いやいや、除隊とかじゃなくて。ブラッド隊って名前に飽きたんだよ」
「名前?」
いまいちなまえの発言の意味が理解できない一行。 部隊名はジュリウスが一人だった時から続く伝統のようなもの。本来、飽きたら変えるとかそういう次元の問題ではない。
「そういうことですか。なら、構いません。すぐに改名申請を行いましょう」
シエルはスナイパーを置き、笑顔でソファに着座する。 部隊の参謀が、これでいいのだろうか。
「良かねぇよ。明日のブリーフィングはどうすんだ」
「ギルの言う通りだ。明日は本部の護衛任務。ミスは許されないぞ」
ブラッドの常識人、別名ツッコミ役とも言えるギルとリヴィがブリーフィングの軌道修正を図る。 なんとか各自の役割分担だけでも整理しておかなければ、立ち回りが難しくなる。
特にリヴィに関してはブラッドに入隊以降、初めて本部と関わりのある任務。異動して能力が落ちたなどと思われるのは非常に不名誉だ。
「うちは、個人の能力高いから任務はどうにでもなるけど、部隊名は何とかならないじゃん」
「は?」
謎の理論。百歩譲って前半部は納得できなくもないが、後半はもう理解の及ぶ範疇ではない。 そもそも改名しなければ済む話ではないのだろうか。 自分は間違っていないはずなのにこうも堂々と言われると、何だが自信がなくなってくる。ギルは頭が痛くなってきた。
「まあ、確かに。ブラッド隊ってスタイリッシュさに欠けるよな。もう少しひねりがあってもいいんじゃないか?」
「はいはーい!なら、部隊名をおでんパン部隊にして、コードネームをおでんの具にするっていうのは?」
「分かりづれぇし、カッコわりぃ」
決して呆けているわけではないナナの提案を即座にロミオが遮る。「いいと思ったんだけどなぁ」と残念そうなナナ。
「はい!それでは作戦会議を一時中断し、臨時のブラッドの改名会議を執り行います!」
生き生きとしたなまえの表情は高確率でブラッドに良からぬことを引き起こす。完成されつつあるジンクス。
そんなわけで我らがブラッド隊長の独断と偏見と気まぐれの末、ブラッド改名会議を急遽開催することになった。 優先順位の崩壊したフェンリル史上最も意味のない会議である。
「とりあえず、リヴィさんから順番にお願いします」
「私は今まで通り、ブラッド隊でいいと思うが」
初っ端から御尤もでまともな意見が出る。しかし、なまえは不服そうな顔でホワイトボードに「現行通り」と書き出す。
「リヴィさん」
「な、なんだ…」
隊長の鋭い眼差しがリヴィを捉える。蛇に睨まれたカエルのようにリヴィは身動きが取れない。
「新入隊員なので今回は見逃しますが、次回以降はお仕置きコースですよ」
「……」
フードに隠されたリヴィの背中に嫌な汗が流れる。ここでは、常識がまかり通らない。非常識こそが正義なのだ。 とても厄介な部隊に入ってしまったと今更ながらリヴィは後悔した。
そんなリヴィの葛藤は御構い無しになまえはマーカーのペン先でロミオを指す。
「はい、次はロミオ先輩」
「俺はロミオファミリーを挙げるぜ!」
自信満々に拳を挙げるロミオ。なまえは「ロミオファミリー」とボードに記していく。先輩の名前が入っている時点でこの後にどんなネーミングが来ようが、これを採用する気はなかった。 しかし、後輩である身分の手前、そんなこと口が裂けても言えない。
「イタリア支部周辺って昔はマフィアっていう、幾つもの個別グループがあったらしいんだよ。そのグループをファミリーって呼んだらしいぜ?」
博識の俺スゲェだろとでも言いたげなドヤ顔を披露してくれるロミオ先輩。
ロミオファミリー。まあ、ロミオってところを抜きにすれば響きはそんなに悪くない。確かにラケル博士はブラッドを家族と比喩していた。あながち間違いではないのかもしれない。 ロミオ先輩のくせにセンスがよい。理由もなくムカつく。
「あの……」
控え目に手を上げたのは我が部隊の参謀であるシエル。なまえは「はい、シエルくん」と告げ、彼女に発言権を渡す。
「以前、古書で読んだのですが、そのマフィアというのはどうも犯罪組織のようです」
「え?そうなの?」
シエルの指摘にロミオ先輩は驚愕する。マフィアとは現代でも時々見かけるギャングの集団みたいなものだ。 ああいう輩が古代から存在していたのだと思うと、身勝手なことをしているようでその組織力は偉大なものなのかもしれない。 しかし、倫理上、ギャングの集団と同じ名前を起用できない。
「いくらなんでも犯罪組織はダメだよーロミオパイセン。はい次」
続いては、先ほどおでんパン隊などという前代未聞のグループ名を大真面目に発言したナナの番だ。 しかし、ブラッドの露出兼ギャグ起爆剤要員であるナナの突飛な発想になまえは少々期待していた。
「おでんパンがだめなら、フェンリル戦隊がいいよ!かっこいいし!強そうだし!」
よくヒーローの団体チームを戦隊と呼ぶ。ブラッドもアラガミ相手に戦うという意味ではその名称も間違いではないだろう。
情熱と家族愛に満ちたレッド!ジュリウス! 知性と隊長愛に満ちたブルー!シエル! 常識と突っ込み愛に満ちたパープル!ギル! コミュ力とアイドル愛に満ちたイエロー!ロミオ! 食欲とおでんパン愛に満ちたピンク!ナナ! 冷静と博愛に満ちたグリーン!リヴィ! 才能と自己愛に満ちたブラック!なまえ! サディスティックマスコット!フラン!
7人+1合わせて、フライア戦隊!
明らかに戦隊としては人数が多い。ごちゃごちゃして敵とのバランスのとれた絵が撮れない。 というより、戦隊員としては不適合者が若干名存在している。 こんな厄介な連中が一部隊を築いていると思うとほぼ奇跡に近い。 しかし、毎回登場ごとに決め台詞を言わなくてはいけないことが苦痛でしかなかった。
「いまいち」
「なんで?!」
「次々ー、シエル」
「そうですね…なまえ隊長のなまえ隊長によるなまえ隊長のためのなまえ隊長ユニットというのは如何でしょうか?」
その素敵な瞳を輝かせながら提案するシエル。誰もがもう手遅れだと悟った。 溺愛されている自分ですら、若干引くほどの愛の深さ。怖い。とても怖い。
「いや、でも、ほら、あれじゃん?なんか隊長の私が独裁政権で皆を統制してるみたいじゃん?私そういうのはちょっと印象が」
「では、略称をTTTにして、それを申請しましょう。そうすれば本部の了承も得られるかと思います」
「え、あ、そうね」
シエルは満面の笑みで新たなネーミングを推す。 よほど気に入っているのだろう。聞いてもいないのに「部隊マークは隊長のシルエットを象って……」などと勝手に話を進めている。
なまえは強めに咳払いをして強引に議論を進めた。
「えーっと、次、ギル!はよしろ!」
「別にねぇよ」
「え?ギルと愉快なブラッド達?」
「言ってねぇよ!」
「じゃあ、案出してよ」
隊長は指先でペンを器用に回しながらギルの回答を待つ。 あまり期待されていないことに落ち込んでいいのか、安堵していいのかわからないギルは、とりあえず「……クローフィ」と小声で答えた。 クローフィ。ロシア語で「血」を意味する。 意外にも案を出してきたギルに隊長は多少感心した様子。
「クローフィねぇ。なんか呼びにくい感あるけどギルにしては頑張ったね」
「お前は何様なんだよ」
「じゃあ、最後、ジュリウス!」
一同がジュリウスに視線を集中させる。実はここにいる全員が彼の天然炸裂珍回答に期待しているということは最早暗黙の了解なのである。
誰にも出せないようなアメイジングな回答を期待してしまう。
「俺は」
「うんうん」
どんな回答が飛び出してくるか、なまえは期待におもわず身を乗り出す。 そんな隊長の期待に応えるよう、ジュリウスはその端麗な顔立ちで爽やかに微笑む。
「家族、がいいと思う」
「へ?」
聖人君子、天使、仏…そんな単語が似合う笑顔で大真面目にそう告げたジュリウス。 なまえを始め、他の隊員達も口を開けてジュリウスに注目する。 やはりこの人は凡人とは違うセンスを持っているのだろうか。
「あ、あの…ジュリウスさん……その、今は新しいネーミングを考えている最中でして」
「ああ。だから、家族がいいと思う」
「か、家族?」
聞き間違いでも勘違いでもないようだ。ならなおさら厄介なのだが、それを追求できるほど、まだなまえに仕切りの技量はない。
むしろ、立場こそ上に立っているものの、内心ではまだまだジュリウスより下だと自負している分、彼の発言にはあまり逆らえない。
「俺達はそれぞれ色んな問題を抱え、それでも何とか力を合わせて幾多の困難を乗り越えてきた」
「は、はあ」
「ギルは不器用だが頼もしい長男、リヴィは兄妹をまとめる面倒見のいい長女、ロミオはやんちゃだがムードメーカー的存在の次男、ナナは食いしん坊だが愛嬌がある次女、シエルは頭が良くて色んなヒントをくれる末っ子」
なにやら可笑しな方向に進みつつあるものの、誰も突っ込まない。
「俺は迷惑ばかりかける一家の主。そして、なまえはそんな一家を仕切るお母さんなんだ」
「うぇ?!」
突然、ジュリウスがなまえの手を取る。なまえは何が起こったのかわからず、されるがまま。 端麗な顔立ちが間近になり、おもわず顔が熱くなる。そういう場面ではないのに。
「俺と家族を築いてくれないか、なまえ」
「は、はあ?!」
そうして、ブラッドの改名会議はなまえ隊長が羞恥心と混乱でぶっ倒れたため、閉幕となった。 なお、結局新しいネーミングは決まらず、リヴィが提案した「現行通り」が採用されることとなった。
隊長が病室に運ばれたことにより、フェンリル史上最も意味のない会議に時間を割き、任務を怠った事が暴露たため、罰でブラッド全員に新たなノルマが課せられることとなった。
とりあえず、先約だった本部役員の護衛任務後、通常のアラガミ討伐に加え、、サテライト拠点周辺のアラガミを追い払うという過酷スケジュールを遂行し終えた。
「あー。もうダメ。1匹も倒せない」
自分が蒔いた種に自分で苦しめられることになろうとは。会議を開始した当初はこんなことになるとはつゆ知らず、バカだった過去の自分を呪う。
大事な神機を杖代わりにして瓦礫の上に座り込むなまえ。その姿に同行者のリヴィはため息をつく。
「しっかりしろ。まだまだノルマ達成まで遠いぞ」
「はあ。こんなことならあんな会議しなきゃ良かったよー」
やらない後悔より、やって後悔する方がいいという言葉がある。それの真偽は定かではないが、やって後悔した者は必ず言うのだ
やらない方が良かったと。
「でも、私はジュリウスの描く家族ってやつが少しだけいいなって思ったぞ」
「え?」
なまえは座ったまま、リヴィの顔を見上げる。トレードマークの赤いフードが風になびいて彼女の顔を隠してしまった。
家族。
身寄りのない者達が集まり、やっと見つけた居場所。 そこがブラッドだということは、誰も口にしないが、何となく感じている。
一度は離れ離れになったからこそ、わかる。
みんなの大切さ。
「でも、お母さんポジションって面倒臭いから私ペットでいいや」
「ふふ、隊長らしいな」
やれやれとわざとらしく立ち上がり、輸送機へ向かっていくなまえの背中を見つめながら、リヴィは小さく微笑むのだった。
*謎の感動エンド title by 歪花。
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