壊してしまいたいのに瓦解出来ない私達の不十分な悲観的関係性。


どうなることかと思っていた不安に相反し、その後は穏やかに経過して行った。

もちろん、毎日の呼び出しと、青臭いお説教はだらだらと続いたけど、これと言って前回の一週間と変わったことはない。

むしろ、お説教の時間は一週間前より短くなって内容も幾らか理解しやすくなるなど、改良とも言える対応だった。

もう策がなくて諦めたのだろうか。それならいいんだけど。このまま何もなく平穏に終わってくれれば、どんなに幸せなことか。

そう願い、最終日の前日を迎えた。


いつもの庭園に二人並んで座る。端から見れば、胡散臭い愛を語らう恋人同士にでも見えるのだろうか。


「あと二日だが。心境に変化はあったか?」

「全く」

「そうか」


ジュリウスは心底残念そうに呟く。これまで彼は聖書を読み解くかのようにこの世のあらゆる綺麗事を私に教授してきた。

そんなものが生きて行く上では何の役にも立たない無価値なものだと理解してもらえただろうか。

もうこんな馬鹿げたことは止めて大人しくアラガミ討伐だけをやっていてくれる気になっただろうか。


「じゃあ、今日は少し趣向を変えよう」

「趣向を変える?」

「ああ。今までは俺ばかり話していたからな。たまにはなまえの話を聞こうと思う」


真面目な彼はやはり最後までやり遂げるようだ。しかも、今日は私にレスポンスを求めている。

つまり、いつもみたいに無言で受け流すことができないということ。やはり最終日の前日。このまま楽に終われるわけがない。


「いきなり自分のことを話せというのも酷だろう。そうだな…何か聞きたいことはあるか?」

「聞きたいこと、ですか?」

「ああ。何でもいい」


聞きたいこと。
実は、一つだけある。別に興味津々ってわけじゃないけど。

私は思い浮かんだ質問をそのままジュリウスに問う。


「仮に娼婦を辞めた後、私はどうすればいいんですか」


我ながら人生の進路相談みたいな質問。自分の人生をこのエイリアンに委ねようと思っているわけではない。

でも、ここまで執拗に娼婦を辞めさせようとして、この人は私にどうなれと考えているのか。
まさか無策なんてことはないと思うけど。もしフライアの職員とかくだらないこと言ったら、やっぱりその程度なんだって納得して終わり。


しかし、彼は人畜無害という言葉が似合う爽やかな笑顔を見せた。

まるでそんな質問は愚問だと言わんばかり。



「それなら心配いらない。辞めた後は俺が面倒を見る」



私の目を真っ直ぐ見つめて告げるジュリウス。
庭園には周りは私達以外に人はいない。騒音と呼べる雑音もない。

聞き間違えという可能性は、たぶんない。

自分の顔が徐々に熱くなっていくのが自覚できる。鈍い頭痛すら感じた。


「何言ってるんですか。冗談にしたって、全然面白くないです!」


つい大きな声が出てしまった。しかも微かに震えている。
動揺しているのが明白で恥ずかしい。


「冗談のつもりはないんだが」


じゃあ、揶揄してるんですか。それとも私を犬猫か何かだと思っているんですか。

そう叫びながら頭を抱えたい。


「もちろん、なまえが良ければの話だ」

「そ、そういう問題じゃないです。そんな簡単に人の面倒見るって、無責任だと思います」

「無責任、か」


自分の口からこんな台詞が出てきたことに驚きである。


この人は真面目だから、あと二日でどうにかしなくちゃって気持ちが強いだけなんだ。

ただの同情や一時の気の迷いで、一生を棒に振るなんて馬鹿げてる。

彼みたいな真面目な人間にはもっと清らかで美しい人生が待っているはずだ。


って、どうして私がジュリウスの心配をしているんだろ。

毎日会ってたから、彼のお節介な部分が移ってしまったのだろうか。


「確かにまだ出会って二週間足らずの人間を信頼しろ、と言うのは困難な話だろう」

「……」

「しかし、決して無責任な気持ちで言っているわけではない」


そう言うジュリウスの顔はとても真剣で、その言葉に偽りがないことを嫌でも理解できてしまう。

どうして、こんな娼婦のためにそこまで真剣になれるのか。誰も頼んでないのに。


「男の人が女の人に面倒見るって言うのは、ある種のプロポーズですよ」

「なまえがそう捉えるのであれば、否定はしない」


付き合ってもいない相手にプロポーズなんて真面目らしくないですね。

そう誤魔化そうと思ったけど言えなかった。とても、言える空気じゃない。

本当に、真面目って、面倒くさい。


「じゃあ、その言葉が本当だって、証明してください」

「証明?」


ジュリウスは小さく首を傾げて私を見る。子供みたいなその仕草に少しだけ良心が痛む。

でも、この人を諦めさせるには、たぶんこれしかないと思う。


「私を、…抱いてください」














薄暗い部屋には生活する上で必要最低限の家具が味気なく並べられ、一切無駄がない。住んでいる人間をよく表現した部屋だ。

私達は備え付けられているシャワールームを交代で利用し、身を清めた後、同じバスローブを身に纏って綺麗にベッドメイキングされた寝具の端に座る。

それは、とても見慣れた光景だ。
いつでも裸になれる格好でベッドに座るのも、隣に同じ格好の男がいるのも、カーテン越しのふんわりとした月明かりも、私にとっては全てありふれたものだった。

それなのに。


「本当に良いのか?」


今日の相手は私にそんな言葉をかける。心配そうな表情で私の顔色を伺い、気遣ってくれる。

もう十数年ほど娼婦を続けているが、こんな経験は初めてだった。


「言ったじゃないですか。証明、してくださいって」

「それは、そうなんだが」


ジュリウスは迷った様子で呟く。
俯いているから表情は見えないけど、きっと眉間にシワを寄せて困った顔をしているに違いない。



ジュリウスは、私が突きつけた無理難題の要求を呆気なく了承した。

真面目な彼は「先日も説明したが、性交というのは〜」とか言って断ると思ったのに拍子抜けだ。


娼婦を辞めさせたいくせにセックス要求に了承するのは、どこか矛盾してる気がする。
でも、自分から提案しておいて、今更断れない。


成り行きとは言え、この人とこんな状況になるなんて、夢にも思ってなかった。


恐る恐る隣に座っているジュリウスを見る。

バスローブの隙間から覗く透き通るように白い鎖骨に思わず目を奪われる。
その下を辿れば、ゆっくりと起伏する胸板に程よく付いた腹筋。

いつもの服装ではわりと細身で華奢な印象があったけど、実際はだいぶ異なる。


こんな綺麗な人なら、もっと相応しい人がいるはずなのに。


「どうした?」


真っ直ぐ前を眺めていたジュリウスが私の方を向く。

まだ少し濡れている前髪から小さな雫が滴っていた。今にも小さな水珠が零れそう。

すると、彼は細い指でその雫を拭った。指先から手背へと雫がゆっくり流れていく。

そんな些細な動作がとても絵になる。セクシーっていうのは男の人にも使える言葉なんだと、その時初めて実感した。


「な…何でもない、です」

「おかしな奴だな」


ジュリウスは私を見ながら穏やかに笑う。それは何でも許してくれるような優しさと慈愛に満ちた笑顔。


胸の奥が締め付けられるような痛みを覚える。まるで心臓を鷲掴みされたみたい。彼への罪悪感だろうか。

下唇を噛んでシーツを強く握る。

状況は仕事の時と変わらないのに、どうしてこんな動揺してるんだろう。

もう早く済ませて終わらせたい。



「あの、そろそろ…」

「あぁ、そうだな」


ジュリウスは私の肩に手を掛ける。

もう、後戻りできない。


瞼を閉じると、何かを探るようにそっと唇を塞がれる。

それは甘く柔らかく、とても優しい接吻で、昔食べたマシュマロを思い出す。

唇が離れて瞼を開くと、少し頬が紅潮するジュリウスと目が合った。

彼は微笑みながら、肩に掛けたままの手でゆっくりと私の身体を押し、そのままベッドに倒す。

擦れるシーツの音が聞こえないくらい耳の奥で心臓の拍動が鳴り響いている。耳障りだ。

ジュリウスは私の身体を跨ぐようにベッドに乗ると、そのまま私を両腕で抱き締めた。
両腕にこもる力はとても弱々しくて、本当にゴッドイーターなのか疑わしいほど。


「寒くないか」

「は、はい」


私のバスローブを肩から外し、露出した首筋に吸い付くジュリウス。優しく唇が触れてるだけなのにキスされた部分が小さく痛む。

その痛みは脊髄を伝って腰部でくすぐったい痺れに変わると、無意識に腰が浮いた。


「震えているようだが、大丈夫か?」

「気に、しないで…ください」


首筋から顔を上げ、心配そうな表情で私を見下ろす彼から視線を逸らし、頷く。

決して恥じらう演技じゃない。

もう止めてくださいって胸板を押し退けてしまいそうで、彼を直視できない。


「じゃあ、続けるぞ」


慎重に、たどたどしく彼の唇が肌を撫でる。首筋から鎖骨、肩や胸の付け根をなぞり、触れられた全ての部位が熱を帯びる。

身体の奥でこもっていた体温が少しずつ放熱されていく。でも、一向に体温は下がらない。むしろ熱は膨張して全身を巡る。

そんな錯覚に囚われる。

無意識に、自分の口から吐息が漏れていく。


「はぁ……んっ、」

「辛かったら言ってくれ。いつでも止める」


そんな気遣い欲しくない。強引に無情にめちゃくちゃにしてくれた方が全然マシだった。

そうすれば何も考えずにいられるのに。

後悔してもしょうがない。
この人がそんな風に抱くわけないことくらい、初めからわかっていた。


数え切れないほどのキスに逆上せていると、ジュリウスは一度顔を上げ、まだ二の腕の真ん中辺りで留まっているバスローブに手をかけた。

これ以上脱げば、上半身はほぼ露出する。そこには、こうした行為以外では他人に晒すことのない部位も含まれる。

もちろん、バスローブの下は何も身につけていない。


「いいか?」


主語のないジュリウスの質問に声は出さず頷いた。

バスローブがゆっくりと脱がされ、隠れていた胸が彼の前に現れる。

すでに乳房の中央で突起が著しく主張しているもわかってしまう。


「綺麗だな、なまえの身体は」

「…んぁ、」


胸の形を確かめるように掌で乳房全体を包み、指先でふにふにと圧をかける。乳腺を刺激するような動きでむず痒い。

無意識に腹部や大腿の内側が力み、身体が小刻みに跳ねた。
息が上がって何もしてないのに疲れる。


「…っん、ぁ」

「辛そうだな」

「そん、なぁ…こと…」


ない、と言おうとしたところでジュリウスが私の腕を掴む。
その腕を自分の背中に回し「掴んでるといい」とはにかんだ。

そんなに余裕がないように見えるんだろうか。でも、今はその気遣いに甘えることにした。

ジュリウスの乱れたバスローブを掴み、彼を抱きしめるような形になる。拳に力が込められることでいくらか気が紛れやすくなった。


しかし、余裕が出てきた途端、ジュリウスは指の間に乳首を挟み、絶妙な強弱をつけながら胸を揉む。

固い関節部位が突起を擦るたびにもどかしい痺れのような刺激が腰部へと響いた。


「そんな顔もするんだな」

「んぅ、…っ」


私はどんな顔をしているんだろう。知りたいけど、知りたくないような。きっと、いつもお客様に見せる演じた表情ではない。

胸を包み込むように持ちながら、親指で少し強めに乳首を押される。突起はますます硬くなり、それに比例するように刺激も鮮明になる。

敏感になる、っていうのはこういうことなんだろうか。


「あぁ、っ」


不意にジュリウスが乳首に吸い付く。頭の中で花火が弾けてる感覚。反射的に身を捩った。

でも、ジュリウスは私の身体を抱き締めながら口に含んだモノを器用に舌で弄る。

自制できない喘ぎ声を唇を噛みながら堪える。

いつもなら、こんなことないのに。
むしろ、自分でも嫌悪感を覚えるほど甘えた声で刺激を強請り、気持ちいいですって、白々しい顔で嘘が吐けるのに。


「すまない。嫌、だったか?」


ジュリウスは不安そうな表情で私の目尻に溜まった涙を拭う。

私は小さく首を横に振った。彼のバスローブを握っている手により一層力がこもる。

よくわからないけど、彼の背中に思いっきり爪を立てたいと思った。


「何度も言うが、無理はするなよ」

「大、丈夫…ですから」


その一言を発するだけで精一杯だった。

ジュリウスは私の髪を撫でると、再び胸を口に含む。
溶け出したアイスを掬い上げるように突起を慎重に、かつしっかりと舐める舌遣い。

忙しない愛撫に頭が沸騰しそうだった。

こんなに執拗に胸を攻め立てるお客様はいない。

お客様は皆、自分が早く挿入したいがために手っ取り早く下ばかり弄るからだ。

彼らにとって私がどう感じるかなんて、どうでもいい。ただ、膣部が湿りさえすれば、感じてるんだって認識できるから。

こんなに表情を一々確認しながら、優しい気遣いの言葉をかける人なんていない。



どれくらい胸を弄られていたのだろうか。
左右の乳首は私の思いとは裏腹に彼の愛撫をもっと欲しがるように硬直している。

息を荒げる私を見て、ジュリウスは困ったように笑った。


「顔が真っ赤だ」

「い、いけま…せんか?」

「いや。新鮮でいい」


まるで意固地な子供を諭すように穏やかな声色で呟く。

こんなはずじゃなかったんだけど。

自分の反応に私自身が一番驚いていた。


ジュリウスはまだ辛うじてバスローブが掛かっていた下腹部を指でなぞる。そんな些細なことにすら、身体は大袈裟に反応した。

私はジュリウスの背中から手を離し、自ら自分のバスローブを開く。お尻の下から、それを抜き取り、床に放った。


「器用だな」

「これくらい、慣れてる」


両腕で自分の胸を隠しながら答えるとジュリウスは下腹部に置いた指をそのまま下へと移動させた。

しかし、性器には触れずに内側の腿へ向かう。

その手つきはいやらしいと言うより、優しいマッサージのようにも感じた。


そんな場所に性感帯なんてあるはずないのに彼の指が筋の走行をなぞり、指圧するたびに腰が疼く。

ジュリウスの身体が離れ、掴むもののなくなった手は、まだ固いベッドのシーツを握る。


「嫌になったら、殴ってくれ」

「へ、……んんぅっ!」


内腿を撫でていた手が、もうぐっしょりと濡れているソコに触れた。

鼻から高々にくぐもった声が漏れる。

触れただけで全身が強張るのに、ソコを愛撫され、最終的には彼のモノを受け入れて……私は意識を保っていられるのか、本気で心配になってきた。

嫌ではないけど、彼を殴ってしまいそうな気がした。


「痛むか?」


自覚できるくらい湿っているのに痛いはずがない。

私は膝を曲げて両脚を広げる。


「続けて、」


ジュリウスは穏やかに微笑み、指先で膣口をなぞる。

小さく、でもはっきりと、淫らな水音が聞こえた。


「あ、あぁ…んっ、はぁ……」


腰から背中を伝い、頭を突き抜けていくような激しい快感に抗うことなんて出来るはずもなく、今まで以上に大きな喘ぎ声を発した。

文字通り、手探りに、だけど慎重に、ソコを愛撫するジュリウス。

でも、手探りのわりには敏感な部位を的確に触れてくる。
戦況を素早く把握するっていうゴッドイーターの潜在能力だろうか。


「あぁっ、…はぁ、…んぅ!」

「ゆっくり息を吐け。そうすれば、いくらか楽になるはずだ」


まるで処女を相手にしているかのような優しい気遣いに憎らしさと気恥ずかしさを感じる。

でも、同時にそんな指南を受けるほどに今の私には余裕がないということ。

こんなのホームグランドなのに。絶対、私の方が有利なはずなのに。

そんな変なプライドが羞恥心を増幅させて、余計刺激に対して敏感になっていく。

自分で自分の首を締めるって、きっとこういうことだ。


ジュリウスは指を一本ずつ膣内に埋めていく。それだけでも膣の肉壁は快感を求めるように伸縮し、彼の指を締める。

その圧に負けじと、膣の腹側に指腹を押し付けるジュリウス。
そんな抵抗が波打つように絶えず刺激を発生させる。

完全に弄ばれているような気がした。


「んぁ、ん…はぁ……ふんんっ」

「凄く、艶やかだな」


必死で快感に耐える私を優しく見守る視線。

もう、十分濡れてるから、早く挿れて。

言いたいけど、言えない。そんなの認めたくない。

言葉にできない思いを隠すように私は彼の背中に腕を回す。

すると、ジュリウスはあやすように私の髪を撫でた。腕輪が当たらないよう、指先でそっと。


胸の奥が苦しい。

なんで、こんなに目頭が熱くなるんだろう。

何も悲しくなんかないのに。


「こうしてると、もう二度と、手放したくないと思ってしまう」

「ふぁ、んっ、はぁ…ぁ」

「まだなまえが俺のもとに来てくれると、決まったわけではないのに」


ジュリウスは膣をほぐす手を止めることなく、そんなことを呟く。

愛の告白にも似た言葉。

頭の片隅で何かが引っかかる。
でも、その違和感の正体が、何であるかはわからない。

こんな甘い言葉を貰ったことがないから、戸惑っているのだろうか。


「はんっ、…あぁ、…んくぅ」


ふと浮かんだ不思議な違和感は、ジュリウスの律儀で献身的な愛撫を前に程なくして薄れていく。

膣の奥から愛液を掻き出すかのように埋め込まれた指がぐりぐりと敏感な部位をまさぐる。

無意識にジュリウスの背中に回していた腕に力がこもり、バスローブ越しに爪を立てる。

もどかしい、と言うんだろうか。

今のままでも十分オーガズムを迎えられそうなのに、それ以上を望んでいる自分がいる。


彼と、繋がってみたい。



「んはぁ、んん、あ、っん」

「ん?」


私の性器の前で休まずに動く彼の手に自分の左手をそっと重ねる。

ジュリウスは私を見て小さく首を傾げる。不安そうな、心配そうな、そんな表情をしていた。

すぐ帰ってくるね、と言って家を飛び出す飼い主を大人しく見送る犬みたい。

そんな顔をされると、こっちまで不安になる。

私は間違っているのだろうか。

でも、ここまでして、この先をしないなんて、それこそ間違っている気がする。

それなのに、とても大きな罪を犯しているような罪悪感があった。


何に対する罪悪感だろう。

清らかなこの人を、私なんかが汚ししまうからだろうか。

彼の良心につけ込んで、自分の快楽を強請っているからだろうか。

罪悪感の原因に身に覚えがありすぎて絞りきれない。



「良いのか?」

「う、ん」


ジュリウスはほとんど声になっていない私の答えを聞くと、納得したように頷き、着ていたバスローブを脱ぎ捨てる。

目の前に現れたのは、見惚れてしまうほどの肉体美だった。

具体的に何処がどう良いとか、そういうのはよくわからないけど、とにかく男らしくて逞しい。

人類が理想とする美を極限まで集約させた芸術品のような身体。

ゴッドイーターって、皆こんな感じなんだろうか。


ジュリウスは慎重に私の両脚を上げて、正常位で挿入する体制を作る。

ぐっと、互いの身体が近付くと、必然的に彼の肉棒が私の秘部に当たった。

たったそれだけのことに酷く動揺する。

すぐ近くにジュリウスの顔がある。

目が合うと、彼はそっと私の頬に手を添えて、何もかも見透かした瞳で笑った。


「挿れるぞ」

「…はい」


亀頭を膣口にあてがい、先端を丁寧にゆっくりと沈める。

それに合わせ、彼の身体が私に覆い被さり、肌が密着する。
体重がかかっていくのと同時に肉棒が膣内を抉るように押し広げ、侵入してきた。


「くっ、ふぁああぁ……」


少しずつ、でも迷いはなく、ジュリウスは腰を沈めていった。

私の体温なのか、彼の熱なのかわからないけど、下腹部の奥がじんわりと熱くなっていく。


初めて、太くて硬いと、心の奥から思った。
中が窮屈で、息が詰まりそうなほど苦しい。

そして、少し痛い。


「ん、あ、…はぁ、はぁ…っん」

「大丈夫か?」


唇を噛み締めながら頷く。

でも、ジュリウスは眉間にシワを寄せ、不穏そうに私の顔色を伺う。
不規則に乱れた息を整えて、身体を引き寄せ合うかのように両腕を彼の背に回す。


大丈夫だから。

私の真意が伝わったのか、ジュリウスは観念したように根本まで押し込んだ。

私の中には隙間なく、彼の肉棒が埋め込まれる。
それだけで、言葉には表せない充実感。


「動くぞ」


言葉通り、ジュリウスは腰を前後に揺すっていく。

彼が腰を引いて肉棒が膣内から抜けていきそうになると、その喪失感を補うように肉壁を収縮させ、彼のモノをぎゅっと締め付ける。


「ふぁっ、あぁ、…んんっ、ぁあ」

「…力、抜けるか?」

「あくっ、…んぁ、はぁ…」


ジュリウスの要求に従い、脱力しようとするも、上手く力が抜けない。
まるで自分の身体の動かし方を忘れたみたい。


「ごめっ、あぁ、むんっ、りぃ…」

「お前が悪いわけじゃない」


彼の体幹にしがみつく私の髪を撫でるジュリウス。
娼婦のくせに相手の要求一つ満たせないなんて、格好悪い。

でも、ジュリウスはそんなことを気にする様子もなく、割れ物を扱うかのように、ゆっくりと肉棒を中で滑走させる。
緩やかに少しずつ中をほぐしていき、私に耐性ができるのを待った。



彼の気遣いの甲斐もあり、苦しさは徐々に和らぎ、キツく彼を締め付けていた内部が多少弛緩していく。

しかし、その頃になると膣からくる刺激が快感であると脳が認識できるようになり、先ほどとは異なる苦しさが身体を支配する。


「あぁ、ん、…はぁ、ふぁ、あっ!」

「いい表情だ」


褒めているつもりなんだろうけど、私にとってはあまり気分のいいものではない。

でも、今はそんな小さなことに憂鬱になれるほど暇じゃなかった。

ただ、ひたすらに生産される甘美な刺激に呑まれ、朦朧とする意識を手放すまいと、それだけに懸命だった。


肉壁がほぐれたせいで彼の先端は膣穴の最奥にある子宮口を突き、不規則なリズムで苛む。

ジュリウスが腰を沈めるたびに膣からあふれる愛液が周囲へ飛び散り、腿や下腹部を汚していく。


気付けば、私達は互いの唇を貪り合っていた。

それは、キス、なんて生易しいものじゃない。

何度も角度を変え、唇を吸い、唾液を混ぜ合い、舌を蠢きまわす。
隙間から漏れる吐息、混ざり合う熱、滴る汗。

息をする間も惜しいほど、激しく、荒々しく、濃密に。

涙がこみ上げ、感情が昂ぶる。
湧き上がる衝動を抑えられない。


「ん、んはっ、…ふっ、むぁ…」

「…なまえ」


ちょうど陰核の裏を亀頭の先で穿るように動かされ、全身が反り返る。
その反動で唇が離れると、私達は肩を大きく上下させ、欠乏した酸素を取り込んだ。

でも、その息苦しさすら快感だと錯覚するくらい興奮していた。


その後も絶え間ない濃厚な接吻と、ベッドが激盪するほど凄絶なピストンは続く。

ベッドのスプリングが軋む音。
二人の結合部から溢れる淫猥な水音。
絞り出すように漏れる自分の悶々とした喘ぎ声。

いかにも猥雑な騒音が部屋中に響く。

頭の中でそれらは何度も反芻し、もうそれ以外のことを考えられない。


「あふっ、ぁんん、あ、ひぁ」

「もう、我慢しなくてもいい」


耐性がつき、緩んでいた膣内がまたギチギチと窮屈になる。
膣穴を何度も往復するソレは強度を増し、また刺激が強くなった。

蕩けるような快感が電撃のように迸る。
舌が痺れたかのように呂律が回らず、演技では出せない生々しい嬌声が口を衝いて出る。


無意識に身を捩り、快感から逃れようとするがジュリウスは私の身体を抱きかかえ、しっかりと捉えて離さない。

この行動が嫌悪感からくるものではないとわかるのだろう。

実際、私は嫌悪感どころか、もうすぐオーガズムに達してしまうほど高揚していた。

本当にオーガズムを迎える時、女の身体はこうして勝手に抵抗するものだ。

オーガズムとはいわば、その人が得ることのできる快感の限界点。
ただでさえ軟弱な女の身体が、自身の限界を迎える前にその刺激を制御しようとするのは、生体反応として当然だ。

そんな肉体の防御反応に抗い、快感を求め続けることができた者だけが知ることのできる至高の快楽。

限界を目指すための頑固な理性と貪欲かつ熱烈な性衝動がなければ、達成できない境地。


「ん、ああぁっ、はぁ、ひっ」

「そろそろ、だな」


ジュリウスは私のウエストを掴み、結合部をより密着させた。
重たく存在感のある快感が脳天を突き抜けていく。

全身が痛いほど震え、総毛立つ。

心臓を鷲掴みにされたような不安と、得体の知れない快楽への期待が入り混じり、胸が騒いだ。


全身神経を膣穴へ集中させ、強請るように腰を振る。
私のリズムに合わせてジュリウスは雄勁に腰を打ち付けた。

私を腫れ物みたく扱っていた時とは比べ物にならないくらい勇ましくて邁往的。


もし、そんな荒い動作すら、私を絶頂させるための気遣いだとしたら、この人は正真正銘の…化け物だ。


「あん、あっ、あぁあ、…んんっ!」

「頑、張れ」


ジュリウスの切羽詰まった励ましと、私のはしたない吐息が重なり合う。

膣穴は痛いほどに収縮し、彼のモノを喰らう勢いで締め付けた。

咥えた肉棒は挿入時より一回りくらい太くなり、小刻みな振動で子宮口を刺激する。

彼から勢い良く溢れ出すものを今かと待ち望んでいる。


腹の奥から迫上がってくる性感に視界が歪む。




ジュリウスが止めを刺すように最深部を突くと、私は目を閉じて全身を大きく仰け反らせた。


「んっ、ふぁぁぁぁっっ!」

「…っ!」


心が震えて、胸が高鳴る。

吐き出された精液が膣と子宮を満たす生温かい感覚。痙攣する膣の心地よい痺れ。


絶頂の余韻が甘い気だるさとなって、全身を覆う。

まるで強いアルコールを飲み、一気に酔いが回ってきたような、ふわふわした気分だった。



ジュリウスは、まだ思うように身動きの取れない私の中から、自分のモノを抜き出し、纏わり付いているどろどろの液をティッシュで拭う。


「先にシャワー使うか?」


私は力なく首を横に振る。


「そうか。なら、先に使わせてもらう」

「どうぞ」


そう言ってジュリウスはシャワールームに消えていった。

瞼を閉じて深呼吸をすると膣が伸縮し、中から精液の塊がごぽっと溢れ出す。一人分とは思えないほど、下腹部が重い。


なんとかベッドサイドに置かれたティッシュで溢れた精液と自分の性器を簡単に拭い、再びベッドの中に埋もれる。


朦朧とする意識のせいで、徐々に視界が狭まっていく。


今日は、お金を貰えない。


でも、何故だろう。

お金を貰うより、全然心地いい。



柔らかいシャワーの音を聞きながら、私は静かに意識を手放した。






title by 歪花。



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