「なんでまた、戦うの」
俺の目の前の女は今にも泣き出しそうな顔で俺を睨んだ。俺もこいつもザフトにいるコーディネーター。地球軍を討たんと立ち上がったひとりで同じ志を携える者。なのに彼女はいつのまにか、俺に問い掛け俺を拒絶しようとするようになった。名前は確か、なまえと言った
戦わなければ未来はない。俺たちを強いたげようとするナチュラルなんかぶっ潰す。俺達が未来だ。なのに、こいつはそれを否定するのだろうか。俺の腕を引く彼女の手を振り払った際に俺の視線を掠めた女の表情が俺の心臓を抉る
泣くなよ、おい、泣くな
「お、い」
今度は去ろうとする、女の腕を俺が取る番だった。ぱっと腕を掴み反射的に俺に目をやる女の目が真っ赤に腫れていたせいでまた俺の心臓は言い様の無い痛みに悲鳴をあげた。同時に基地全体に戦艦への搭乗を呼び掛ける放送が鳴り響いた。俺は行かなくちゃいけない。仲間を討ち続けるあいつを、討たなきゃいけねえんだ
戦う理由なら、それで充分じゃないか
「なくならないのね」
「戦いは、終わる」
「同じ事を繰り返すわ」
「今回は違う」
「だって、敵であっても互いに大切なひとがいるもの。その人を失えば憎しみを呼び仇を討てばまたそのひとを。終わらない
のよ。誰も、なにがいけないのか分からなくなっているんだもの」
「敵は」
地球軍だと言い掛けてやめた。そうできなかったから。女がまた、その大きな瞳から大粒の涙を流すから。ただ俺はどうすることもできずに女の腕を掴んだままうつ向いた。考えてもみれば、この女は一体なにが悲しいのだろう。なにが辛くて、誰に死んで欲しくなくて涙を流すのだろうか。分からない、分からないからただ、彼女の腕を引き抱き締めた
何故俺がそうしたのかも分からなかったが、ただ俺は抱き締めた
「俺は、帰ってくる」
「出来ない約束はしないで」
「出来るから、言ってんだろ」
「なら絶対に守って、その約束」
「ああ」
その言葉を最後に彼女を離し艦隊へと跳んだ。今までどんな女との約束なんて守るつもりはなかったがあの女との約束は絶対に、守らなければいけないと心が訴えてきた
原因は分からない
そしてそのまま、ニコルは討たれ、その敵討ちにアスランがストライクとアーマーを一機討った。俺は咄嗟に降参、アークエンジェルに捕虜として乗船。屈辱だと考えるだろうか、だが生きていればどうにかはなる。借りを返しに行くことも、違う道を歩むことも。
そうして見知らぬ医務室に横たわり天井を見ながら考えるのは、あの女の言葉。浮かぶのはあの女の顔。なまえと交わした約束。俺はあいつとの約束を果たせるのだろうか。だが今は、生きている。それだけでも良しとするべきだ
果たしに帰る、そして今度はもっともっと、距離が0のところであいつと話がしたいとそんな欲を芽生えさせながら眠りについた
polka dot