ポケモン、ねえ。
事の発端
「ねえ、なまえ…」
「無理。」
「…」
「いや、無理。」
「何も言ってないよ、僕…」
「でも無理。」
あたしの名前は、なまえ。今をときめく高校生。部活もバリバリの運動部。彼氏はいない。今はいらない。成績普通、顔普通、ごくありきたりな人間。
家に帰ってきて、DSを起動したら、変な青年が変な生き物連れて横に現れた。気持ち悪いのは、そいつが何故かあたしの名前を知っていたということ。きもい、きもすぎる。幽霊?なんなの?DSの電源を切ったらいなくなると思いバチっと勢いよく電源を切ってみるが、意味なし。彼はそのまま、そこに存在した。
「あんた、誰?」
「あ、喋ってくれた、なまえ、僕はN、覚えてる?Nだよ。」
いや、覚えてません。
あたしが首をかしげると、その青年は悲しそうにうつ向いた。一緒にいる変な生き物も、一緒にうつ向いた。その姿はなんだかとっても悲しげに見えて少し申し訳ない気分になった。それでも申し訳ないことにあたしは彼を知らなかったし、彼の存在自体を認めてあげることは難しそうだった。
「ううん…ねえ、君、なんでここに来たの?」
「それはね、なまえが言ったからだよ、僕を、ひとりにしないって。」
あたしが?このひとに?
ますます、意味が分からなかった。理解が追い付かない。会ったばかりのひとに、その存在さえも疑わしいそのひとに、あたしがひとりにしないって?
「いや、それ、人違いかも…しれない、んですけど…」
「じゃあ、なまえは嘘をつくの?」
また、悲しそうに、青年が目をそらすものだから、違うと思っていてもそれ以上強く否定することが出来なかった。
それから、お互いに会話を交わすこと無く、たまに青年の横にいる物体がきゅうっと鳴くのだった。
(なんだか、悲しそうに鳴くんだな)
でも、正直、悲しいって言うよりは
「ね、もしかして…その、あんたの横の、それ…お腹、空いてるの?」
恐る恐る、彼に話しかける。すると彼はばっと勢いよく顔をあげた。その顔は、ひどく驚いているようだったが、どこか、嬉しそうな、そんな顔だった。
「ご飯、た、食べます…?」
果たしてこの国の、いやこの世界の食べ物が口に合うかもわからないし、その横にいる生き物が果たして何を食べるか分からないけれども。
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