かわいいんだけど、なんていうか、激しいよね。この子たち。
03話
これは所謂動物園の触れ合いコーナーであって少しレベルが違うだけだと信じたい
「ポケモンちゃん…よ、よ、寄っておいでえ…」
「なんで腰引けてんだよ…」
「うっせーぞ!やばいだろこれ見たこともねーよ!!」
みょうじなまえ、今物凄く窮地に立たされている気がします。
「先が思いやられるな…お前…」
「う、うるさい!」
なにせ目の前にいるのはチラーミィ?という先程までの愛らしいポケモンではなく。青年レッドの出した巨大且つ迫力満点の生き物たちだ。噛み殺されそう踏み潰されそうなんにせよ死にそう。
あたしは完全に所謂へっぴり腰になってしまった。
「ち、小さいのから始めてはダメ?」
「…… ……はあ…」
青年レッドは溜め息ひとつ、また球からモンスター、否ポケモンを出した。が、今回のポケモンは球の中が嫌だったのだろうか、外に出た途端ぶるる、と体を震わせた。この物体の名前はなんなのだろうか
「そいつ、ピカチュウ。俺の友達。ボールの中嫌いだから本当はずっと外に出してなきゃいけないんだけど、山の中ではそうもいかないから。しまってた。」
「あ、そうなの…」
黄色いねずみのようなポケモン。ピカチュウ。とても愛らしい姿形をしているが、怒ったらやばそうだ、とあたしの体が瞬時に反応するのが分かった。恐らく、電気とかそういう系のポケモンなのだろう。静電気のようなものが、あたしの体に身の危険を教えてくれた。
「あ、あたし、なまえ、よ、よろしくね?」
「ぴかぴ!」
ピカチュウはまるで人間のように挨拶をしお辞儀し、あたしに手を差し出した。手なのか前足なのかは分からなかったが、二本足で立っている優秀な黄色いねずみの手を握り、あたしは思わず笑みが溢れた。
( ポケモンって、可愛い )
それからピカチュウというポケモンはチラーミィと仲良くなりたいのかしきりに話し掛け、チラーミィも楽しそうに笑っているのを見て、彼らがこの世界では人間と同等なのだと思った。
「か、可愛い…」
「ほら、じゃあこいつらにも慣れろって」
後ろから青年レッドの声が聞こえ、振り向けば彼が大きなポケモンたちの頭を撫でている姿が目に入った。それを見ると、確かに、物凄く狂暴に見えていた筈のでかいモンスターが、ピカチュウやチラーミィと同じように、主人が大好きな可愛い、いち、ポケモンに思えた。
( まあ、そのくらいこのポケモンたちがレッドさんになついてるって、事なんだろうけど )
「うう…が、頑張る…」
「ぴっかー!」
「チィ!」
なんとなく、ピカチュウとチラーミィも応援してくれているような気がしたので。あたしは勇気を振り絞り、青年レッドが頭を撫でているでかくてオレンジ色の恐竜、リザードンの近くに歩み寄った。
「…… ……」
「いや、見てないで触れって」
「ヒィイッ!やっぱこわいってのばかああああ!」
でかい、でかすぎる…
あたしは近くに寄った事によりリザードンの大きさを直に体験した。物凄く、でかい。何かやらかしたら殺されそうなくらい大きい。そして尻尾には何故か炎。
( や、焼き殺される…! )
あたしはブルブルガタガタと全身を震わせ拒否をしたが、青年レッドが分かってくれる筈もなく。あたしはどうしようかと世紀末のような気分だった。
「ゴルルルッ」
「ヒイイイイイッッ!!!!
え?」
突然、肩に物凄い衝撃が走った。何十キロ、いやそれ以上の荷物を背負わされたような感覚。それがリザードンの手だと分かるに時間はあまり掛からず、こんなあたしに怒ってしまったのかと驚いてしまったが
、リザードンを見上げればその目は優しく、まるであたしに大丈夫だと言っているようだった。
「お前、あたしの事嫌いじゃないのか?」
「……じゃ、ないってさ。良かったな」
「ほんとかっ?よ、よーし…」
そう思ってくれるなら、とあたしは思いきってリザードンの腹部にぎゅう、と抱きついてみた。意外に熱くはなく暖かいそこはとても、心地よい。
「ふは、リザードン攻略!」
笑みを浮かべるあたしの気持ちを察したのかチラーミィとピカチュウもあたしの足元に擦り寄り足をぎゅうと抱き締めた。その光景はとてもとても愛らしく、ポケモンの世界も、悪くない。と感じてしまう。
「ああ…か、可愛いい…」
「ガルルルッ」
「え?」
あたしがぼそりと呟くと、リザードンが急に大きく反応を見せた。背伸びをするように腕を伸ばし踏ん張るように足を屈ませる。なんだ?どうしたんだ?
「え?なに?」
「…… ……」
「ちょっとおおおっ?!なんであんた無言で一歩下がるの?!ねえ!どうして?!」
あたしも下がろうとしたら、リザードンの片腕があたしをしっかりと抱き締め離さない。離さないったら、離さない。
嫌な予感がした瞬間、リザードンが
飛んだ
「ぎ、ぎゃああああ!!!」
地面がだんだんと遠くなる。空が近くなり家々が遠ざかる。いつのまにかピカチュウとチラーミィはリザードンの背に乗り浮かれたような声で鳴いていた。
「ぴかぴ!」
「え?」
「チィ!」
ピカチュウとチラーミィがしきりに辺りを指?差す。何があるのだろうか。しかし言われては怖がったままいるわけにもいかない。あたしは恐る恐る辺りを見回した。
「わ…」
上から見る景色は、あたしが今まで見てきたどの風景よりも美しく、また壮大だった。山々は青く、空は澄み、鳥のようなポケモン達が群れをなして飛んでいくのが見えた。
「リザードン、これを…?」
「ガルルルッ」
きっと、リザードンは、ポケモンの世界を知らないあたしに、この世界を見せたかったのかもしれない。ポケモンがいるこの美しい世界を。そして、飛んだことのないあたしに、自らが見せてくれたのだ。
「綺麗…」
「ぴっかー!」
これが、ポケモンの、世界
「ありがとう、リザードン。それに、ピカチュウ、チラーミィ。」
空から青年レッドの元に戻ってきたあたしたちは、ようやく地に足をつけた。この世界の美しさを知り感動したが、やはりまだ、地に足をついて歩いていたい、気も、する。
「俺も、まだこの地方、見たこと無いんだけど」
「あ、そうですか?レッドさんの事だし、なんでも知ってるのかと!」
「なんだそれ。あと、さん、いらないから」
「え?」
青年レッドがリザードンの毛並みを整えながらなにかを話した。しかしあたしもピカチュウやチラーミィを撫でている最中で、なにを言ったのか耳に入ってこなかった。
「レッドでいいって、言ったんだよ。なまえ」
「あ、そう?りょーかい、レッド」
少し照れたように視線をそらす青年レッドが、なんだかとても可愛く見えた。女慣れしてないのか?イケメンなのに意外だ。と心の中で思ったが黙っておいた。
「じゃ、出るか」
「どこへ?」
「町のようす、見たいし」
そう言って、リザードンやその他もろもろの見たこともないポケモンたちを全て球から出すと、ここにいろと指示し、先に歩いていった。あたしはどうしていいか分からず、とりあえずリザードンにお辞儀し青年レッドの後を追った。
「ぴっか」
「チィ」
ピカチュウと、チラーミィを連れて。
03話
これは所謂動物園の触れ合いコーナーであって少しレベルが違うだけだと信じたい 終
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