いや、そこにひとりでいるのはやばいんじゃない?なんか、幽霊みたいだし寂しくないのかい?
プロローグ
シロガネ山で出会った変な青年と外に出たら見たことも無いどこかに来てしまった
「こ、こは…?」
目を覚ますと、そこは真っ暗だった。何も見えないし、どこにあるのかも分からない。足場がしっかりしていて冷たく、すこしゴツゴツして湿っているから、これが地面だということだけは分かった。しかし、それ以外なんの情報も得ることが出来ず、身体中が恐怖に蝕まれていくのを感じた。
( とりあえず、電気、明かり… )
ポケットを探ると、小さな懐中電灯が出てきた。こんなものを見たことはなかったし買った覚えもなかったが、今はそんな場合じゃない。あたしは手探りでそのライトをつけた。
「な、んだ…ここ…」
ここはまるで洞窟。天井を見上げれば何か不思議なものがキィイっと鳴きながら飛び立つのが見えた。不気味な雰囲気を漂わせるこの場所だったが、どちらに行けば入り口なのか、どちらに行けば最奥部なのか、全く検討がつかなかった。
「最悪、無理、無理、死ぬから…帰らせてください…」
どこを照らしても手がかりはなし。当てもなく足場を見ながら散策するあたしは、ふと、ある一ヶ所の入り口がほのかに明るい事に気づいた。その先に何があるかは分からなかったが、明かりがあるということは、少なくとも何かがある、ということだ。あたしは覚悟を決めその明かりのついた方へと足を進めた。
「あの、…」
奥へ進むとそこはどうやら最奥部だったらしい。それより先に通路はなく、ただ何かのおかげで、この空間だけが明るかった。何がここを照らしているかは分からなかったが、その原因がなんなのかは、容易に推測が出来た。
( あれは、ひと?だよね )
土や石などで少し高く作られた台のようなところに、ひとりの少年…青年?が立っていた。動くことも、何をすることもなく、ただ、そのひとはそこに在った。正直物凄く不気味だったが、あたしはこの光景を、どこかで見たような、そんな気がした。
( そんな筈、ないんだけど。 )
しかし恐ろしいと思っていても今あたしが頼れるのがこのひと一人だと言うことも事実だったので、あたしはゆっくりとその人に近づいた。そのひとは、あたしに見向きもせずに、そこに立っていた。
「すい、ません…ちょっと、お尋ねしたいことが…」
「…… …… ……」
反応が、ない…
それどころか、こっちを見ることも、ない。なんだ、このひと?まさか、死んでる…?あたしはそのひとの肩をぐいっとつかんでこっちに引き寄せようとした、
バッ
「誰だ、っ…」
「ギャッス!」
死んでなかった。
「あ、そうだったんですね…修行を…」
どうやら、この青年はここで修行をしていたらしい。こんな暗い洞窟の中でする必要性を疑ったが、そんなことを言って通るような相手では到底なさそうだった。
「俺と勝負、しにきたわけじゃないのか?」
( 勝負?相撲とか? )
「いや、あたし、起きたらあっちに倒れてまして…」
「お前、ポケモンは…?」
青年は、意味の分からないことを言った。ポケモン?なんだそれ。でも、あたしはその言葉を、やはりどこかで聞いたことがある気がした。しかし、覚えていない。彼は精神異常者なのだろうか。
「なに、それ、ありませんよ、そんなの…」
「ポケモンを、持って、ないのか?」
「大体、ポケモンて何ですか?デジモン?」
あたしがそういうと、青年は酷く驚いたような表情をした。なにが不味かったのかあたしは分からなかったが、青年は自分のベルトからひとつの赤と白の球のようなものを取りだし、投げた。
「え、なに、なに?
えええええ…うっそーん」
少年が投げた小さな球から、裕にあたしの身の丈の2倍はあるであろう大きさの怪獣が姿を現した。あの小さな球から、どういうカラクリなんだ?あたしは目をぱちくりさせながら、青年を見やった。
「これが、俺のリザードン。お前の、ポケモンは?」
「あ、いやだから、まじで無いですそういうの。無理無理、あたし人間なんで」
「俺も、人間だ…」
「あ、ですよね…」
青年はリザードンだかいうポケモンをその球に再びしまうと、その場に腰かけた。ので、あたしもその隣に少し距離を取って腰掛けてみた。青年はため息をついたようだったが、溜め息をつきたいのはあたしだ。わざとらしくその青年より大きく、溜め息をついた。
( 本当に、帰らせて下さい… )
「ところで、お前、ポケモンを持っていないならどこから来た」
「え?」
ここであたしは、自分への変化に気付いた。
あたしは、どこから来たのか、覚えていなかった。
「覚えて、いない…?」
青年はまた、あたしがポケモンを持っていないと発言した時と同様に、もしくはそれ以上に驚いた様子を見せた。
( あたし、そういえば、どこから来たんだ? )
ポケモンがいない世界から来たことは確かだし、なんらかの影響でここに来たのも確かだったが、あたしは、それがどこなのか思い出せずにいた。
「うーん、分かんない。ま、いっか。帰れれば。」
ははっと笑うあたしに、青年はまた溜め息をついた。しかし気付けば、ここに来たときにあたしを蝕んでいた恐怖は、すっかり無くなっていた。しかし、溜め息の多い青年だな。なんとなく自分を取り戻したあたしはなんとなく青年を見た。
「あの、」
「なんだ」
「一緒に、外、出ません?」
「…… ……無理だ」
はああああ?
少女が困っているのに助けてはくれないのか。即答するこの青年の神経を疑った。地図を書いてやる、なんてわけの分からない事を言い出す青年の肩を、あたしは思いきりつかんだ。
「いや、無理。あたしひとり?む、り」
「…いや、俺もむ「いやお前男だろ?男ならそれくらいしろって。しかもあたしここどこかも分かんないし自分がどこから来たのかも分かんないんだよ?」
にこっと、あたしは微笑んだ。見ず知らずのひとにため口を遣う事はとても気が引けたが、しかし今はそんな事を言っている場合ではなかった。あたしは青年が足元に置いていたリュックをつかむと、青年の腕をとりどこにあるかも分からない出口へと向かって歩き出そうとした。
「…… …… 分かったよ。」
また、青年は一際大きく溜め息をつくと、あたしが持っていたリュックをかっさらい、何やら紐のようなものを取り出した。
「何ですか?それ。」
「あなぬけひも」
「はい?」
「…… ……捕まってろ」
言うと青年はあたしの肩を抱いた。男性に肩を抱かれるなんて、しかも見ず知らずの精神異常者まがいの男に。とは思ったものの、よく見たら青年はとても整った顔立ちをしていた。
( わお、いっけめーん! )
なんて、思っていると。
いつの間にか洞窟の入り口らしきところにあたしたちは立っていた。まだそこは洞窟の中であったが、通路の先は明るく日の光に満ちていることから、それが外界を現していた。
「…… ……おかしい」
「え?なにが?」
「これを使うと、洞窟の外に出る筈だ」
「ほう、でも、ま、いいじゃないですか!外に出れたし!」
青年はとても不服そうな顔をしていたが、あたしには関係無い。とりあえず外に出れるし、そこがあたしが来た場所なのかもしれない。とりあえず洞窟にいるよりは何か情報があるだろうと、青年の腕を取り、洞窟の外へと足を進めた。
「…… ……ここは、どこだ…?」
「え?」
青年は、あたしが口を開くよりも直ぐに、それを口にした。あたしがその言葉を口にすることは当たり前だが、青年がその言葉を口にした時、とても嫌な予感がした。
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シロガネ山で出会った変な青年と外に出たら見たことも無いどこかに来てしまった 終
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