「ね、なまえ」
「ん?」
そのあと、ぱっと手を離したものの、やはりあたしは勝手に気まずくなって、下を向いた。それから少しの間会話が無かったけど、突然、青年が口を開いた。彼はいつも、唐突だ。
「観覧車、約束、だからね?」
「え?」
「僕と一緒に、観覧車、乗るの、約束だから。」
まるで小さな子供が親にねだるように、彼は言った。約束、ななんて言葉を持ち出して。観覧車なんて、そのくらい。
「うん、約束、するよ。」
「ありがとう、なまえ」
彼は、よく、笑った。
それを見ているのが恥ずかしくて遠くをみやった。どこかで鐘の鳴る音が聞こえた。
「さて、帰りますか。
え?」
振り向くと、そこには青年も、ポケモンという物体も、いなくなっていた。
「う、そ…」
本当に、幽霊だったのか…?
あたしは、もう一度彼が座っていたそこに座り直した。そこは、まだ、温かかった。
「なん、だったんだろ…」
考えてみたが、答えが見つからない。そんなことを思っていたら、肌寒くなってきた。しまった、明日も学校なんだ。あたしはズボンのポケットに手を突っ込んで立ち上がった。
「ん?」
ポケットに、なにか、入っている。
「これ…」
黒と緑の糸で綺麗に編まれたミサンガだった。いつ、こんなもの、どこで…
「あ、」
考えられる先はひとつしか見当たらなくて、あたしはそれを自分の左手首につけて、早足で家路についた。
それから、何度DSを起動しても、彼が現れることはなかった。
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