真田弦一郎が、
コンビニの店員だったら





「いらっしゃいませ」


「ああ!真田、何お前、こんなとこでバイトしてたの?!」



あたしの家から程なくして行けるコンビニに、店長みたいな風貌のクラスメイト、真田がバイトをしていた。


「悪いか、これも社会勉強だ」

「いや、それにしてもコンビニって…」



似合ってないような…無いような。なんて思う気持ちを心に仕舞いこみ、レジとは反対側にある飲料コーナーへと向かう。が、視線が痛い。なんだろう、物凄く見られている気がする。

あたしはファンタを2本、それに食べたかったロールち〇んを2つ手に取り再びレジへと戻った。真田は何をするわけでもなく、じっとレジに立っていた。怖い、怖いよ真田。


「はい、店員さんこれ下さい」


「過食は体重を増やす原因になるぞ」


「イラ」


レジ打ちしながら余計な事をつらつらと言ってくる真田。体脂肪10%以下のお前にこのロールち〇んの美味しさは伝わるまい。後悔しろくそったれ、と心の中で黙々とレジ打ちをする真田に悪態をついた。



「480円だ」

「客にため口ダメよ、真田ちゃん」

「お前も客としてその態度はどうなんだみょうじ」


まあ、確かに一理ありますけれども。あたしは財布から480円ぴったりを取り出しそれを手渡した。何故か手のひらを差し出されたのでその上に置いた。


( お、手、暖かい )



真田の手は思ったより暖かかった。意外だ。


「じゃ、頑張ってね真田。何時まで?」

「あと1時間ほどだ」

「もう少しじゃん」


頑張れよ、と言いながら買ったもののうち、ひとつずつを手に取り残りのものをカウンターに残したままあたしはレジを離れた



「おい」

「何さ、」

「これはなんだ」

「何だって、ファンタとロールち〇ん」

「何故置いて行く」


律儀にそんな事まで聞いてくるデリカシーもくそもない真田を見ていると、なんだかおかしくなってしまって。


「別に、真田甘いもの食べないイメージあるし、ロールち〇んの美味しさを知らないまま死ぬのは不憫だからさ。あたしから差し入れ」


「俺はまだ死なないぞ」


分かってるよ、馬鹿。
話をしてもキリが無い。とりあえず食ってみろとだけ言い残して、それ以上真田の言い訳のような説教を聞かないためにコンビニを出た。















翌日



「さて、購買にでも行こうかね」


友人が委員会だかなんだかでいなくなり、ひとりで昼食を取るのも気が引けたあたしは早弁をしたのはいいものの、結局小腹が空いてしまい、授業終了のベルと共に教室を出た。



「みょうじ」

「お?」



後ろから、昨日聞いたばかりの声がして振り返ると、袋を片手に、もう一方にはデカイ包みを持った真田が立っていた。


「お前、昼は食べないのか?」


「早弁しちゃったから今から買いに行くところ」

「たるんどる」


あたしがそういうと、お決まりの台詞。たるんでる気は無いんだけど、まあ学校生活やる気が無いのに変わりは無いなら、なんとも言い返せやしないのだけれども。


「真田こそ、昼食べないの?」


「俺はこれからだ」

「なら早く食べなよ」

「いや、」

「何さ」



珍しく、真田が口を濁した。こんな堅物でもそんな事があるのかと不思議に思ったが、そこで真田も人間だったと今さら気がついた。戸惑う事も、きっとあるはず。筈。



「これ、一緒に食わないか」

「どれ?」

「これだ」


と言って無理矢理押し付けられた袋の中には、野菜ジュースやらサラダやら健康にいいようなものが沢山入っていた。この男はどれだけ、あたしが偏食だと思っているのだろうか。


と、


「あ、これ…」



一番下に、見つけてしまった。昨日あたしがあげたロールち〇んの違うシリーズ。こっちも美味しいんだよな、なんて呑気なことを考えた後、ふと何かが頭をよぎった


( これ、あたしに? )



昨日のお返しなのかなんなのか。本当に律儀な男だと改めて思う。



「お前は食生活が偏り過ぎだ」

「はいはい」

「ちゃんと野菜も取れ」



なんて、親みたいな事を言う真田が一瞬とても愛らしく見えてしまったので。



「じゃ、食べに行こ。真田」

「ああ」





今日は購買に行かなくてもよさそうだな。


それと、


またコンビニに立ち寄るとしようかしら























おまけ


幸「この前真田のバイトしてるコンビニ行ったらさ、真剣にロールち〇ん見ながら唸っててさ、気持ち悪かったんだよね」


柳「俺が行った時は、アダルトコーナーで雑誌を読んでた中年男性に説教していたぞ」









おわり

mae tsugi


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