※弱いふりしてる幸村
ひがんじゃあ、いけないよ
お前の身の程が、
その程度なんだからよ
「…ったあ、だる…」
立海に編入して半年。卒業までは半年もない。と言っても、皆どうせここの高校に行くのだろうからそこまで卒業へのこだわりはないだろうが。
ここに来て思った事は、ひとつ。差別なのか区別なのか。一くくりだけ、特別扱いされている集団がいて、そいつらは絶対的な、特に女子にとってはそういう存在であるという認識が強い。
それが誰か、ということは良く知らない。あたしがここに来て半年しか経ってないし第一、格好良い?そんなものに微塵の興味も抱けないからである。
まあ、それよりも興味が無いのが、その所謂イケメンよりも下級にいる男達なんだけれども。そういう奴らの妬みというかヒガミというか。そういったものほど醜いものは無いと思っている。
ちなみに女性は、可愛いから全部許す。
「テスト返すぞー」
「うえーい」
「相沢ー」
「安藤ー」
そして、今日も。
醜い争いは、終わらない
「じゃ、後は自習だー静かにしてろよー」
「はーい」
そう言って先生が教室を出ていった途端、クラス中が今回のテストの平均点について討論を始めた。討論とまではいかない、くだらない自慢大会。
うちのクラスは勉強が物凄く出来る奴と物凄く出来ない奴の差が少し開いている方で、特に出来ない奴らは、少し、いや結構荒れていて、所謂不良紛いなのもいる。
誰も怖くてそいつらに意見しようなんて思ってないし、でも心のどこかでそいつらのことを馬鹿だと笑っている。そんな最低なクラスだ。
まあだからって
不良はその最低以下だけれども
「おい、病弱幸村くんは入院してたのに今回も成績良いらしいじゃん?」
さっそく不良のひとりが幸村、というあたしの隣の席の人間に絡みに来た。幸村、といえば確かその特別扱いされてる奴のひとりだったような。
「なんだよ、先生達から見せてもらってんじゃないのか?」
「駄目だよー幸村くん、それは悪い事なんじゃない?」
先生がいなくなった途端この態度。でも、幸村を特別扱いしているなら、誰かが止めに入ったりすればいいのではないかと思う。もしここで女子のひとりがやめなよ、とか言ったら、好感度とやらが上がると思うのだが。
って、無駄か。
皆遠巻きにそれを見ていて、誰も口をだしたりしない。皆、自分が標的にされるのを恐れているから。結局、特別扱いなんてその程度。だったら初めからそんなの作らなきゃいいのに。誰かが楽しそうに幸村と話していたら皆の幸村とかいうのに、今は?
「おい、てかみょうじ、おまえまだここにいたのかよー」
「下がってろって転校生。今俺ら幸村くんと話してんの」
「一方的に、な」
「…んだと?コラ」
だるいだるいだるい。
可愛い女の子以外のなにかと喋るのは物凄くだるい。疲れる、面倒くさい。こいつらと話すくらいなら隣のクラスのともちゃんのとこに飛んでってあのナイスバディに飛び込んだ方が1000倍マシだ
あたしはゆっくり机に伏せていた顔をあげ改めて不良もどき達の顔を見た。
不細工だ
あたしが許せないものはいじめでも陰口でも馬鹿でもなんでもない。不細工だ。男の不細工は、本当に、本当に、虫酸が走るくらい、嫌いだ
「おい不細工」
「あああん?誰が不細工だよ、この髪、セットにどんくらい掛かってると思ってんだよ」
「髪作ったって整形でもしない限りお前の不細工は変わんねえんだよブス」
「んだと、コラ…!」
不細工がいよいよ本気で怒りを露にしたので、面倒な事になってきた。クラスの奴らは教室の隅に寄って、誰も口を開こうとはしていなかった
「いいか、良く聞け不細工。そこにいる幸村は、確かに病弱で学校も休みまくりで化学嫌いで部活?ばっかしてて女にモテるからって羨ましがるのは分かる。あたしも可愛い女の子からチヤホヤされたい。でもな、そりゃそいつの努力だろ。勉強も、休み時間ずーっと復習して予習してんだから、良い点なの当たり前だろ不細工。」
「て、めえ、いい加減に…」
バチンッ、と。大きな音が響いた
不細工があたしに手をあげたからだ。あたしの間に入る奴も勿論いなくて、あたしの頬は真っ赤に腫れた
「はっ、良い気味だな。精々先生に泣きつけよ」
なんて、可愛い忠告をしてくれるものだから。あたしは思わず楽しくなって、声をあげて笑った
「くく、おい、それだけか?不細工。不細工、そうだな。お前らにはこれしかない。周りを怖がらせて怯えさせるしか黙らせる方法は無い。なんの努力もしねえお前らはそれしか出来ねえ。それにな、不細工。幸村を、ひがんじゃあ、いけない。お前と幸村には決定的な違いがある。勉強なんか努力でどうにでもしてやれるが、その不細工な顔は、幸村とは天と地ほどの違いだからな。」
「って、てめえ…っ」
「いいか、お前は不細工だ。だったら拳なんかじゃなくそれ以外の方法で幸村もクラスも黙らせてみろよ。あたしの事も、こんなに言われて悔しいんだろ?なら、黙らせてみろよ。この学校に入学してんだ。諦めなきゃ、出来るだろ、分かったな、不細工」
赤くなった頬が痛みだし、クラスの誰もが言葉を発しなくなったので、あたしは面倒くさかなってゆっくり教室を出た。その後直ぐに、不細工達があましとは反対方向に走っていくのが見えた。
幸村は、笑っていた。
なんだ、そういうことか。なんて思った時には、強すぎる痛みのせいでそこに転がって意識を飛ばした
「…んん、…」
ゆっくりと、目を開けると、そこには青空。なんだ、どこだ、ここ。
「あ、目が、覚めたんだね」
「…幸村」
あたしはどうやらこの幸村の手によって屋上に運びこまれたらしい。
「普通保健室に運ぶよな?」
「そうかな?保健室はひとが沢山いるから。」
「あ、そーすか」
幸村は得意じゃない。何考えてんだか分からないから。弱いのかもしれないし、そんなフリしてんのかもしれない。気まずくなってうつ向くと、幸村がくすくすと、おかしそうに笑った。
「俺の事、助けてくれたの?」
「違いまーす。不細工が嫌いなだけ」
「なんだ、愛の告白かと思ったのに」
「は?」
涼しそうな顔をして、そんなことを言うものだから。当たり前のように、そんなことを言うものだから。あたしは目をぱちぱちと瞬かせてしまった。おいおい、頭おかしいんじゃねえのか?
「俺の努力も認めて」
「横であんだけシャーペンでカリカリ音立てりゃな」
「俺の顔も認めて」
「不細工よりはマシなだけだ」
「そんなに俺の事すき?」
え、特別扱いのひとりは、とんだ勘違い野郎?
あたしは次の言葉が見つからず、口許をひくひくとさせてしまうほかなかった
「お前、アホか?」
「ふふ、気に入ったよ。みょうじなまえ。早く俺のものになってね?」
なんていいながら、唇に熱を感じた
今日はどうやら厄日らしいな
――――
弱いフリしてる幸村くん
主人公が男前スギタナ
mae tsugi