「赤也、今日誕生日なんでしょ?」

「なまえ先輩?!」

俺の好きな先輩はなんの予告もなく突然教室に現れる。すっげー嬉しいんだけど、体育の授業が終わり着替えに向かうと普通に男子更衣室のベンチに座って待っている辺り若干怖い。更衣室に入った俺に気付くとだるそうにこちらに向かって歩いてくる姿はそれでもやっぱり美人なわけで、一緒に着替えに来たクラスの奴等が着替えられないと目で訴えてくるのが手に取るように分かってしまったのでとりあえず先輩を外へ出して関西の忍足顔負けのスピードで制服に着替えて廊下に出ると先輩は、

あろう事か壁に寄り掛かり寝ていた

「なまえ先輩!」

「んあ?よ、赤也。今日誕生日なんでしょ?精市から聞いたよって、何で教えてくれなかったわけ?みずくさーい」

ゆっくりと目を開けた先輩は心のこもらない所謂棒読みで俺を避難してきた。みずくさい、ならそれは先輩も同じで俺は前回この人の誕生日を知らされる事無く翌日に柳さんから聞いた。何故パーティーに来なかったと聞かれた時には嫌われているのかもしれないと思ったんだけど、どうも、俺が誕生日を知っていると思っていたらしい。同じ学年でも同じクラスでもないのに、と非難したら確かに。なんて納得されてしまったのがつい最近の話。

「あれ、俺の誕生日知ってませんでしたっけ?」

「知らないね、だってあたしなんもしなきゃお前と接点ひとつも無いし」

「確かにそうなんスけど」

丁度昼休みだという時間にかこつけて共に購買で昼食を取ろうと足を進めると購買に着くまでの間に両手に余る程のプレゼントを貰った。ダチなんかはまあそうだとして、名前しか知らない奴や顔しか分かんねえ、どの学年かも知れない生徒からの贈り物には未だにどうしていいか分からない。うちの先輩達は笑顔で全て受け取っているけれど、俺はその一大行事に未だに慣れないでいる。
そして、その様子を横から楽しそうに眺めているなまえ先輩は帰宅部の三年生。幸村部長の従兄弟で、初めて会ったのは3月にやった部長の誕生日パーティーの時。くっそ美人なひとがいる!って思って話しかけたら横から柳さんがそう教えてくれた。部長の従兄弟だなんてそん時は絶望的だったが気さくで面白い先輩に俺は結局惚れ込んでしまったのだ。

「てかあんた、こんな沢山の人に誕生日教えてるわけ?」

購買で無事二人分の食券を購入することに成功した俺達が席を見つけてそこに座ったところでテーブルに無惨に置かれたプレゼントを眺めながらなまえ先輩がおかしそうに笑った。どこかの国の幸せのお守りだとかいいながら渡された明らかに藁人形のソレを摘まみ眺めるというよりはむしろ観察するように凝視する先輩を、俺は凝視してしまった。

「ええ、俺が?そんなわけないじゃないスか!」

「じゃあ?」

なんで皆お前の誕生日知ってるの?とでも言いたげな目をされた。そんなのこっちが知りてえとこだけど、正直この学校の、特に俺たちテニス部に個人情報なんてものはない。月刊プロテニスのなんとかっておっさんが個人のプロフィールをまとめた冊子みてえなもんも出してるみたいだし、知ろうと思えばいつだって知ることが出来る。あれ?じゃあ、なまえ先輩は俺に興味無い?

「え、うわマジ?」

「なに、どしたの赤也急に」

「いや、なんでも無いっス」

思わず両手で頭を抱え項垂れてしまった俺の肩をぽんぽんと叩くのが分かって顔をあげるとにやっと、にやっと笑うなまえ先輩がなにかの袋を持って急に立ち上がりそのまま俺に言葉を描けること無くカウンターへ向かっていった。おばちゃんの反応からして俺達の分の注文が出来上がったというのは分かったのに俺も立ち上がろうとしたら先輩にものっすげえ形相で睨まれたので再び座り直してしまった。それから少しカウンターで何やおばちゃんたちに袋の中身を渡していた。それが俺への誕生日だったらな、なんて事を考えながら少し距離のあるところにいる先輩を見つめた。

「はあ…」

そして口を開けば出てくるのはため息ばかり。誕生日なのに溜め息なんて俺も落ちぶれてんな、なんて先輩から目を離し行儀悪くも食堂のテーブルに突っ伏した時だった

「切原赤也」

ドンッ

「うおっ」

急に耳元でなまえ先輩の声が響いたと思ったら同時に鈍い音がテーブルを伝って俺の耳に届いた。振動と共に直接伝わったその音は俺を驚かせるのには充分だったわけで、跳ねるように起き上がったら目の前にはけらけらと笑う先輩、それに2、3人分程の大きさの小さなホールケーキが注文したわかめうどんと塩ラーメンの横に置いてあった

「え、これ」

なんて言葉を発すればいいのかわからない。ただ呆然と先輩に視線を向けると相変わらずけらけらとおかしそうに笑い声を上げながら目尻の涙を拭っていた

「やっばい、やっぱお前サイコーだよ赤也くん。誕生日おめでとう!」

俺がじい、と先輩を睨むと親指を立てながら先輩は満面の笑みを浮かべた。単純だとうちの部長たちは笑うかも知れねえけど、俺は結構、いやすっげえ嬉しかったりするわけで立ち上がり反対側に座っている先輩に腕を伸ばして先輩の頭をぎゅうと抱き締めた

「むっちゃくちゃ嬉しいっス!!!あざっス先輩!!!」

「いやいやいやいや、」

あっと思い先輩から離れると先輩は手を激しく横に振ったかと思うとその手をそのままスカートのポケットに突っ込みごそごそと何かを探す素振りを見せた

「先輩?」

「いや、ちょっと…あ、った!はいプレゼント」

俺が声を掛けると同時くらいに先輩は探り当てた小さな箱を俺に投げた反射でそれを片手キャッチし手の中にある箱を眺めた。

「何がいいかわかんなくてさ」

ごめん、なんて笑う先輩もかわいいなって不謹慎な事を考えつつも箱を開けると変な生き物が天秤を持っているキーホルダーが入っていた

「あ、ありがとうございます!!!一生大事にするっス!」

「うん、高かったから大事にしてね」

「もちろんっスよ!」

このどうしようもなく喜ばしく幸せな気持ちをどうしていいか分からない。とにかく、先程までに貰ったどんなものよりも嬉しくて大事なのは確かで、今すぐ誰かに自慢したいなんて気持ちさえ芽生えてきた。俺は貰ったキーホルダーを抱き締めたまま先輩に視線を戻した

「ならよかった」

「あ、でも先輩、なんで俺の誕生日知ってたんスか?ケーキとかプレゼントまで用意してくれるとか感激なんスけど」

「え?ああ、昨日精市と帰ったときに、聞いたんだよね…」

そういえば、と疑問に思ったことを口にすると先輩は突然俺から目をそらし苦笑いを浮かべた。知らないとか言ってたくせに、なんて思ってはみたもののきっと部長が気を利かせてくれたんだと肯定的に考えることにした。なにせ今日は誕生日。その後終始ケーキを食べておけと念を押す先輩の意思に負け2、3人分のケーキを平らげた後食堂を後にした。

「先輩、マジでありがとうございました!次は俺が先輩の誕生日にお返ししますね!誕生日、いや、クリスマス?ハロウィン?なんちって」

階段の前で一旦立ち止まり先輩に軽く頭を下げるとくしゃくしゃっと撫でられた。乱暴で全然女らしくはない先輩ではあるけれど、やっぱ俺はこの先輩の事が好きで仕方ないらしい。調子に乗ってそんな事を言ったら撫でていた手でぼかっと後頭部を殴られたのは、ご愛敬ってやつ?あれ?漢字あってんのか?

「ふは、いつでも大歓迎だよ赤也。じゃあ、今日の部活、今までよりも踏ん張ってね」

「え?」

「あ、いやなんでもない、じゃ、あたし行くわ!」

それだけを残して、なまえ先輩は階段を駆け上がっていってしまった。パンツがギリギリ見えない…ってことなんて考えてねえけど。考えてねえって!

しかし何故先輩が突然プレゼントにケーキに至れり尽くせりな対応をしてくれたのか、さっきどうして突然慌てて階段を駆け上がって帰っていったのか、それだけが疑問に残ったまま俺も教室へと足を進めた


そしてその原因が解けたのは、放課後部活へ顔を出したら部室に入った途端顔面ケーキスタートからのシャンパンファイトならぬコーラファイトと称しコーラをぶっかけられその状態のままプレゼントだと部長副部長柳さんと戦わされた後だった






「でも俺たちちゃんとプレゼント買ったんだよ?ね?真田」

「無論」

「お前も気に入る筈だぞ」

なんていいながら先輩たちにプレゼントの新しいゲームを貰ったのは翌日の事






Happy birthday AKAYA 2012

mae tsugi


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