運命なんて運命なんて運命なんて
「いらっしゃいませーお客様、何名様ですか?」
立海大付属高校2年、みょうじなまえ、実は訳あってバイト中。いや、普通にお金が無いだけなのですけれども。まあ、そんな事もあり学校から少し離れたファミレスで必要も無い笑顔を振り撒いている。基本的に週4日。学校が終わったら9時くらいまで笑顔を振り撒き続けているのだが、最近激しくうちの付属の中学の制服を見る機会が増えた。最近の中学生は金持ちなのだろうか。特に、
「7人です」
毎週火曜日に来る集団は殆ど見慣れてしまうほどであった。正直、ファミレスに来る団体客程、接待が億劫なものは無く、しかも学生なら大人しく家でゲームでもしてろと言いたくなるのがあたしの持論だった。
ま、顔には出さないけど
「こちらにどうぞ」
そうやってわざわざテーブルとかくっつけてやって、どかどか荷物を置きながら座る中学生を横目に一通り説明、そしてそのまま裏へ戻ろうとすると、
「いや、注文で」
七人もいるのに注文が入る。そして注文をするのは決まって一番老け顔の帽子の少年。正直少年とはいえない顔立ちだがお客様は神様。そんなことは死んでもいえない。最初コーチだと思ってたら誰かが副部長とか言っていて思わず笑ってしまったなんていえない。
「はい、お伺いします」
「ドリンクバー7つと」
「はい、ドリンクバー7つですね」
「あ、それと」
「あ、はい」
以外だった。いつもドリンクバーと、頼んで精々デザート2つくらいなのに。まあ、気分が違うのかとあたしはじいとその場にいた。
「チョコパフェ、イチゴパフェ、抹茶プリン、パンケーキを二つ、くりーむあんみつ、それとてりやきハンバーグセットお願いします」
「は、ち、少々お待ちくださいませ…」
いきなり7つもの注文が入った。しかも一言一句漏らさず噛まず。大量に。あたしは慌てて打ちながら、今たまたま混んでいなくてよかったと本当に思う。もしいつものディナーだったらキッチンさんがキレる。と、思う。
「…くりーむあんみつ…それに「てりやきハンバーグセットです」
「あ、はい。てりやきハンバーグセットがおひとつですね?ライスとパンどちらがよろしいでしょうか?」
「ライスで」
「はい…ライス…それでは確認させて頂きます」
なんとかあたしは注文の全てを聞き取り復唱した。こういうやつら程間違うと面倒だという事を知っていたあたしはなるべくゆっくり丁寧にしっかりと復唱した。
「…以上で宜しいですか?」
「はい」
相変わらず笑わず怒らずな帽子のひと。本当に中学生なのだろうか。まあ、関係無いか。と、注文を受ける機械をポケットにしまい、下がろうと一歩後ろに下がった。
「あ、おねーさん!おねーさん大学生?」
「は?」
赤髪の、ずーっとガムを噛んでいる少年が目をキラキラさせながらあたしを見た。なんだなんだ、あたしの個人情報なんか知って得はないぞ。
「こらブン太、校外でヒトに迷惑掛けたら明日グランド200周ね」
「げ、か、勘弁…」
そしてそれを制したのが、にこにこにこにこしている優しそうな真ん中分けの青年。彼もずいぶん大人びているな、なんていう印象を受けた。そして何故か激しく赤髪がこの青年を怖がっている
「わたしは、大学生ではないです、このちょっと行ったところにある高校に通っていて…」
「うおっそれってまさか立海?!そしたら俺らと同じじゃないスか!」
「そんな事を言っても校舎が違うから会えるわけではないだろう」
「あ、確かに柳先輩の言う通りっス…」
そうやってがやがやと、勝手に話を進めていく中学生軍団。まあ、立海なのに間違いは無いのだけれど。いい加減解放して欲しい。
「みょうじさん!」
「あ、はい!」
そんな時、バイトさんがあたしを呼ぶ声が聞こえた。助け船を出してくれたのが直ぐにわかり頭の中で何度も感謝した。今度何か差し入れしよう。そうしよう。
「申し訳ありません、呼ばれたのだ失礼させて頂きますね。ごゆっくりお過ごしくださいませ」
逃げられる。
そんな期待で突然嬉しくなったあたしは満面の笑みを浮かべた。中学生なんか相手にしてられるかカス。なんて思ったけどお客様は神様だから言わない。あたし優しい。
「あ、はい…」
そして顔を上げると何故か顔の赤い中学生集団。特にすぐ目の前に座っている帽子。なんだやっと自分達の行いに気づいたのか?いいんだ、そうやってひとは大人になる。
「あ、じゃあ最後に!おねーさん、名前は?」
なんて考えていると懲りずに赤髪ガムが聞いてきた。さっきまでのあたしなら笑って誤魔化すが、今は機嫌が良い
「みょうじなまえです」
………
「ってことが昨日会ったのよ。おーこわこわ。最近の中学生マセてんなー」
その次の日、昨日のバイトの話をいつものようにぐだぐだと友人に話してストレスを解消するのがあたしの日課。だったりする。
「まあまあ。そんなあんたもこれからあたしに付き合ってその付属中に行くんじゃない」
そして、いつもそれを聞いてくれる友人。あっちゃん。可愛いしてきぱきしてるし、いいよなあ。あっちゃん……て、え?
「げえっ、まじ?そんな約束した?」
「この前掃除変わってあげたのは?」
「あなたさまです…」
なんだって?付属中?あいつらには、あいたくないな。
「ま、そういうわけだし。いこ、なまえ」
「あーあ、へいへい」
いつしたかも分からない約束だったけど、まあいつも我が儘聞いてくれてる友達だし、今日はバイトもないし。
その中学生集団に会わないことだけを願いながら重い腰をあげた。
「てか、あっちゃん何しに行くの?中等部まで」
「部活でさ、大会近いしOB戦やろうみたいな話になってんのよね。だからその日程とか色々話に」
「あ、そっか、あっちゃんマネージャーなんだっけ?何部?」
「…テニスよ…あんた何年あたしと一緒にいるのタコ」
「ああ、そうでしたそうでした」
なんてどうでも良いこと考えながら少し遠いところにある中学に足を進めるあたし達。大体、この学校は尋常じゃないくらい敷地が広い。きもい。大学本体が別のところにあるだけ幸いだと本当に思った。
中学なんて、なつかしいな。
それから少し歩くと、見慣れた懐かしい校舎やら校庭が目に入った。それは変わり無く、抜かり無く、その威厳を保ち続けていた。
「へえ、テニス部全国、ねえ」
「何、あんた忘れたの?うちの学校、高校だけじゃなく中学も部活強いじゃない」
「だっけ?」
「そーなの!しかも特にテニス部は毎年優勝候補なんだから!」
垂れ下がった大きな幕を見ながら懸命に部活の話をするあっちゃんは、あたしとは違ってキラキラしてんな。なんて、少しだけ羨ましくなった。
あとあっちゃん可愛い
「ふーん。ま、万年帰宅部のあたしには関係無いね」
「そーだけど!」
「ささ、早くいきましょ。どっち?コート」
そうやってあっちゃんを急かすと、はいはい、なんてため息混じりにあたしの一歩先をいった。なんだかんだ優しいんだよな、あっちゃんは。可愛いし。
「ここよ、あーブン太達元気かなー」
ぶつぶつ言いながらあっちゃんの後ろを着いていったあたしはテニスコートが見えてそれをやめた。ブン太?珍しい名前だな。って、なんだ?その名前どっかで聞いたことが
「あ!あっちゃんせんぱーい!!!!」
「あ、ブン太!久しぶり」
あ。
昨日の、中学生集団だ。あ、昨日の、中学生集団だ。ねえあっちゃん。中学生集団だよ。って、心の中で何度あっちゃんを呼んでも無駄だった。てか、あっちゃん?あたし話したよね?昨日のバイトのこと。聞いてなかったのかな?
「そっちの人誰誰ー?」
「あ、こっちは友達のっぷ、ぐ…」
あたしは咄嗟にあっちゃんの口を手で塞いだ。苦しそうにするあっちゃんを引っ張り赤髪から引き離す。
「な、なに!どうしたの!」
「昨日の中学生集団じゃねえか!!」
「え、何、それテニス部だったの?」
「あっちゃん…あたしの話…」
「テニス部なんて言ってないじゃないの」
「特徴の説明いっぱいしたじゃん…とほほ…客と普段会うのは嫌なんだけど…」
赤髪に背を向けてこそこそ話すあたしたちを不審に思ったのか、赤髪が近づいてくるのが分かった。
「ま、なるようになる!」
「なんねえええええよ!」
「わ、な、なんだあ?」
突然赤髪の方に振り返ったせいなのか赤髪はものすごく驚いているようだった。が、何故かあたしには気付いていないらしい。大方髪を下ろしているからとか前髪ピンでとめてないからとか、そんな理由だとは思うが。(と、前あっちゃんに言われた)
なんとかバレることなくコートの横で終わるまで見学をすることにした。
「しかし、」
と、コートを改めて見てみると、どうやら昨日の集団は部活の中心。いわゆるレギュラーなのだろう。練習している風景を見ると、物凄くうまい。半端無くうまい。これが昨日どうでもいい会話をしていたやつらとは思えない。
「はー、すげえんだな。テニス部って。どうでもいいけど」
なんて、関心半分、どうでもいい半分な気持ちでコートを眺める。今日は、良い天気だ。
「はあ、かえりた…」
「すみません」
「あ、はい、あ、でもあたし中学のものじゃないんで敷地は…」
「最近、どこかでお会いしませんでしたか?」
え?
ゆっくりと、恐る恐る横を振り向くと、そこには昨日の帽子やろう。近くで見ると背は高いし老け顔だけど顔は整ってる。
じゃ、なくて
「あ、いや、そうですか?」
「気のせいだったら申し訳ない。少し、似ていた「あー!!!副部長がナンパしてるー!!」
なんだと?
目の前を見ると、目をキラキラさせている。ワカメ。
「たるんどるぞ赤也あああ!」
そして、罵声。
なんなんだこの部活。
本当に、帰らせてください。
「はあ…」
「よし、じゃあまた来るね、幸村くん!」
「はい、また」
そんな時、向こう側で終焉を知らせる天使の声が聞こえた。あたしの味方はあっちゃんただひとり。そしてその声を頼りにコートに目をやると
「なまえー!終わったよー!」
大声で、あたしの名前を呼んだ。
「「「「え?」」」」
一斉に振り向くテニス部員、そそしてその時偶然、風が強く吹いてしまったせいで
「、チッ…」
前髪で隠していた顔を見せてしまった。
最悪最悪最悪だ
皆がぽかん、としているなか、あたしの横にいた帽子が突然がばっと、あたしの腕をつかんだ
「ギャッ」
「あの、」
「は、はいい?」
今は、お客様は神様とか、言ってられねえよ。おい
「また、ファミレスに、行ってもいいですか?」
それだけ言うと、帽子はあたしの腕を離し恥ずかしそうにうつ向いたので、その隙にあっちゃんの手を引き全力ダッシュで中学を後にした
走ったせいか、
あたしの心臓も速く鳴っていた
「ファミレス行ってもいいですか?って、弦一郎つまんな」
「というより、アホだな。ファミレスなんだから、あの女性の店では無いだろう」
「てかてか!やっぱ可愛かったな!あのおねーさん!彼氏いんのかな?」
――――
っていう平凡話
真田なのか?そうなのか?
連載落ちな小話でした
mae tsugi