短編 ファミレスのおねーさんの番外。
単発で読んでもいけます



我ながら軽率だったと思っている

「いらっしゃいませー」

出来たばかりのファミリーレストランがあるからそこへ行こうと言い出したのは幸村だった。今なら全品30%オフ!そう元気に言う幸村は病み上がりで少しでも元気付けられたらと思い二つ返事で承諾した。ファミリーレストラン等と言うところに行った事は無い。第一冷凍食品を解凍し少し手を加えただけが料理?たるんどる、と思っていた。だからこそ気は向かなかった俺がファミリーレストランへ足を運んだのが3年の夏。非常に日差しの強い日だった。

「2名様ですね?こちらへどうぞ」

案内をして貰ったのは自分より幾分年上に見えた若い女性。笑顔が特徴的なウェイターだった。90度頭を下げ挨拶、上体を起こすとえくぼのある笑顔で席まで案内を受けた。態度の良い店員は嫌いではない。最近の若者は調子に乗って適当な態度で客に接する場合があるから腹立だしいのだが、そのようなイメージを寄せ付けず終始店員の模範のような態度を取る彼女は好印象だった。

「何を頼む?真田」

「うむ…いかんせんこのような場に来るのは初だからな、何を注文すれば良いのだ?」

目の前に並べられた色鮮やかなメニュー表。目を通せば和食、洋食、中華料理さえもが品目に並びデザートの種類も3つや4つではない。この膨大な量のメニューの中から一体どのようにどれだけの量を選べば良いのか検討もつかない。めくってもめくっても登場し続ける新しい料理名とそのデフォルトに目眩に似たものを感じながら幸村に助言を求めた。幸村は、というと既に注文する料理を決めたのか元から食べたいものがあったのか俺の話を聞かずにベルに手を伸ばしていた

ピンポーン

「はーい!只今お伺いしますね!」

どこからか先程俺達を案内してくれた店員の声が聞こえた。まだ何を注文するかも決めかねている俺の意思とは関係無しに店員がぱたぱたと小走りで俺たちの座るテーブルにやってきた。しまった、と思ったときには手遅れで幸村は早々に焼き魚と煮物の和風定食とやらを注文していた。

「あと、デザートにイチゴのパルフェ下さい。ドリンクバーも」

「はい、イチゴのパルフェがおひとつ、ドリンクバーがおひとつですね、そちらのお客様のご注文もお伺いします」

店員の目がこちらに向けられる。途端何を注文したら良いか、考えかけていた内容が全て消えてなくなってしまった。急いでメニューに目をやるも迷惑を掛けてはならないと気ばかりが焦り更に頭が混乱してしまう。そんな俺を見かねた幸村が目の前でチッとあからさまな舌打ちをした。

「じゃあオススメとかにしたら?真田、お姉さんが待ってるじゃないか」

「す、すまん…では、お、オススメ等はありますか」

「ゆっくりお決めになられても構いませんよ?あ、オススメを希望されるのでしたら、当店今季限定のひやしうどんセットはいかがでしょう?和風ひやしうどんとお新香にサラダとドリンクバーのついたセットになります。単品でもご注文になれますので参考にして下さいね」

突然の質問に関わらず彼女はにこにこと笑顔ひとつ崩さずにメニューの一番後ろのページを俺に見せながら説明してくれた。洋食よりも和食を好む俺は彼女が推薦してくれたという事もありじゃあそれで、とそのメニューを指差すとまたその店員は笑顔ではい、ありがとう御座いますと言った。それから注文を繰り返した店員は直ぐにその場を離れ違う席へと足を運んだ。俺はそれを、暫くじいと見やっていたらしい。

「真田さ、あの店員さんの事、気に入ったんだ」

ドリンクバーコーナーにあるコップの入れ換えをする店員を眺めながら幸村が楽しそうに口を開いた。気に入る?冗談ではない。己は未だ中学生でテニスにのみ集中し全国制覇を成し遂げる事にしか興味が無い。色恋沙汰を起こしている暇など無いのだ。店員の方にやっていた視線を幸村に戻すと、変わらずおかしそうに口角を上げ笑っていた

「な、どうした、幸村」

「真田って単純?」

「何故今その言葉が出るのだ」

「だって、向こうは完璧に営業用じゃん?」

それが指すものはつまり彼女の笑顔だと言うことは容易に想像がついた。営業用、しかし今は仕事なのだから営業用で当たり前では無いのだろうか。俺が良いと思ったのはその笑顔が可愛いだなんだではない。その姿勢だ。その笑顔を貫き通せる、その姿を俺は良しとした。今だって見る限り重そうな6段のコップケースをひとりで抱えて整備をしている。他の店員はレジに立ち欠伸をしているというのにだ。その直向きな仕事への態度を俺は評価したい。それだけだ。

「仕事だから当たり前なんじゃない?」

「当たり前、だからこそだ」

そう少し話し込んだところで今度は違う店員が料理を運んできた。この店員もにっこりと笑みを浮かべながらの接待。なのに料理の置き方や礼の仕方が目につく。彼女なら、どのように振る舞うだろうか。同じように接されている筈なのに、目の前の店員を高く評価することは出来そうにない。評価、といっても所詮は一顧客という立場からの一方的な評価なのだが。

「でも今の店員の事はあんまりって顔してるよ?真田」

「いや、なんというか」

「ふふ、だからお前は単純だと言ったじゃないか」

出された料理を美味しそうに食べる幸村に習い己もそれを一口。彼女が勧めてくれたそのメニューは俺の舌に合うもので彼女は俺を一目見てこれを勧めてきたのかと思うと更に関心した。そんな俺の様子を見た幸村は何やら一人ぼそぼそと呟いていたが美味いという評価をしているのだろうとそのままにただ出された料理を真剣に食べた。


「2450円になります」

それから幸村が頼んだパルフェを食し、ドリンクバーという画期的な制度を体験、ファミリーレストランという場所も悪くないと改めて感じながらレジへ伝票を持っていくとそこにいたのはあの店員だった。代金を手渡し計算が終える間に胸元についたネームプレートが見えたのだが名字はみょうじというらしい。特異な名字では無かったが忘れまいと思う。

「ありがとう御座いました、またお越しくださいませ」

そう言ってまた深く頭を下げにっこりと笑みを浮かべる彼女がいるのであれば、また、ここを訪れるのも悪くない。と俺も一礼し横でけらけら笑い続ける幸村と一緒に早々に店を出た。

「む、幸村、この店であれば、また来ても良い」

「はいはい、明日は皆と会議だねー」

幸村の言葉は終始意味が分からなかった。













後日
真田不在の部室にて

「〜って事があったんだよね」

「え、それ副部長ただのば「そを言っちゃ真田が可哀想だろぃ?折角女の子に興味持ったんだからきっかけなんて関係ないない」

「しかし、弦一郎が単純で勘違いが甚だしいというデータが取れそうだな」

「そうなんだよね。だから、今度皆でそのファミレスに行ってみない?」

「「「賛成!」」」




こうして立海テニス部の溜まり場になったのであった




おわり
――――
短編ファミレスのおねーさんの番外編でした。こんな話が読みたい!と言っていただいた方が多数いらっしゃいましたので書いてみたのですが如何でしたでしょうか?
補足を入れると、短編で真田が彼女を少し気になっているという堤で話を書いたのです。だから短編の最後で真田が最後にまた〜というのですが、何故真田が興味を持ったのか。というきっかけ話です。
主人公にしたら愛想笑いで店員として当然のことをしている事までなのですがそんなところに惹かれてしまった真田はあほって事です(笑)

観覧ありがとう御座いました!

mae tsugi


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