「好きだ、みょうじ」

夕暮れの誰もいない教室、そんなありきたりの状況を背景に彼は何の恥じらいもなくそうあたしに伝えた。あたしは彼と同じクラスではない。同じクラスになったこともなければあんなに騒がれているテニス部の部員のひとりが今目の前にいる柳蓮二だと知ったのも、昨日行われた校内での表彰式で名前を呼ばれ壇上に上がる彼を見た時だ。無論、しっかり声を聞くのは今日が初めてでそれがまさか告白の言葉だとは夢にも思わなかったけれど。

「ごめんなさい、あなたの事…よく、知らなくて…」

「だろうな、お前がそう返答する確率は98%だった。」

「…え?」

傷付けないように、なんとか当たり障り無く返答しようと出した言葉を彼は確率で弾き出し予め予測していたというのだろうか。ならば、何故そうだと分かっていてあたしに告白なんてしてきたのだろうか。

「しかしお前が俺を好きになる確率は90%以上。だから、こうして告白をしているんだが」

その理由が知りたくて声をあげようとした時、またもやあたしが何を言いたいか分かっているかのように彼は先に口を開いた。それにしても、その自信はどこから来るのだろうか。第一その確率は度のようにして弾き出されているのだろうか。そういえば確か前にクラスメイトが柳くんはデータ収集が得意?趣味?だとか言っていた気がする。てっきりテニスをする時だけに使うものだと思っていたけれどそうでもないらしい。そうだ、そしてあの時確かにあたしは思った。

データ集めが好きだなんてとんだオタクがテニス部にもいるものだ、と。そして勝手に眼鏡をかけた太めの不細工を想像していたために表彰式で彼を見た時には本当に意外だった。

「何を考えている?」

「あ、いえ…ただ、貴方のデータには無いことです」

そう答えると、彼は一瞬意表を突かれたような顔をした。彼でもこんな顔をするのだな、なんて思うと少しだけ彼との距離が縮んだ気がした。何せテニス部という存在はつい先程まであたしとは全く違う世界の人間だったのだから。世界が同じになったかは分からないけど、金星がたまに地球に急接近する時くらいの距離にはなったと、思う。

「難しい顔をしているな、俺では不満か?」

「いえ、だから…知らない人とはお付き合い出来ないしそれに、ふ、ファンの人達も、怖い…し」

どんどん日の落ちていく景色を教室から見渡すのはなかなか乙なものだ。なんて呑気な事を考えながらも口から出ていく言葉に安堵等ない。あたしになんの得も無いひとと付き合うのは疲れるだけだろうし周りからなんだかんだ言われるのも辛い。彼らとなんの関わりも無いまま暮らすというのが、あたしの望みだったのに。目の前にいる彼はまるでそんな事か、とでも言いたげな顔をしていた。

「俺が、守る」

たったそれだけの言葉。見ず知らずの人からのたったそれだけの何の保証もない言葉だった。それなのにあたしは、その言葉を聞いただけで大丈夫かもしれないなんていう安易な考えが頭をよぎる。彼の圧倒的な自信にあたしのメンタルが勝てないんだ。それに抵抗しようにも彼の目は、酷く優しい。これも計算なのだろうかと思うと本当に恐ろしい事だ。それでも、そうだと分かっていても、あたしの心臓は、今初めて話す相手に高鳴っている。

くすぐったくなるような、その言葉に魅了されて、

「じゃあ…あなたを、信じます」

肯定してしまったあたしは単純明解。守るという彼の言葉を信じてみたいなんて、浅はかだと笑われるかもしれない。だけど信じてみたいと思ったんだ。恥ずかしくて最後まで彼の顔を見て言うことは出来なかったけれど、彼が今どんな顔をしているかくらいは、想像出来た


「ありがとう」



それを証明してくれるのはこの優しい声と、抱き締められて伝わってくる温かな体温

あたしも彼のデータを、集めてみようかな









おわり
――――
柳さんとは落ち着いた恋愛を希望します(笑)取り乱してる彼も素敵なんですけどねー、なんて(笑)

観覧ありがとうございました!


mae tsugi


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