なんとなく、思うんだけど




「真田ってさ、小さくて可愛い子好きでしょ」


放課後の教室、これから委員会が行われる予定のこの教室であたしはぼそりと呟いた。教室内にはあたしと真田の二人きり。同じ委員会のあたしらは早く来すぎたらしく他の委員待ちをしていたのだけれどあまりにも暇すぎて思ったことをそのまま口にしたら委員会ノートに今日の議題をまとめていた真田が何に動揺したのかそれとも単に間違ったのか、一生懸命消ゴムでノートに書いたものを消していた。


「みょうじ!た、たるんどるぞ!!」


ようやく消し終えたのか勢いよく立ち上がった真田はあたしを一瞥、からの叱咤。でも恥ずかしいのかなんなのか声に若干メリハリがない。その顔で恥ずかしがられても気持ち悪いななんていう感想を心にしまいこんで校庭を眺めていた視線を真田に戻すと頬がほんのりと赤くなっていたのでなんて返事をすればいいのか分からなくなった。しかしまあ、否定しないとなるとやはりそうなのだろうか。可愛いひとが好きなのか。予想通りだな

「ふうん、やっぱりそーなの。じゃあうちのクラスの相田さんとか?」

「相田…?相田美保の事か」

彼女はうちの学年でも有数の美女、しかもテニス部のファンで真田に差し入れをしたこともあると噂になっている人物であり、恐らく彼女は真田が好きでまちがいない。何故なら本人から聞いたからだ。たまたま部活が遅くなって教室まで荷物を取りに来た時に彼女が同じクラスの丸井にそれを相談しているのを間接的に聞いたというのが真実なのだけれど。それに正直彼女は可愛いし花が咲いたみたいに笑う。いくら堅物の真田でもあんな可愛い子から好きだなんて言われたら、断れないと思う。第一タイプど真ん中ドストライクってかんじだし。

あたしと違って

…いや、余計な事を考えすぎた。とにかく、きっともうすぐ相田さんは真田に告白して付き合うことになって、今まで委員会の日、つまり部活が無い日に家が近くだというだけの理由であたしが真田と一緒に帰る事もなくなるというわけだ。寂しい、いや、そんな事、思っていない

思う、わけがない。

確認するようにあたしに視線をやる真田からまた目を逸らし校庭を見るとテニス部2年のエース?だかなんだかの可愛らしい少年がハカハカ言いながらトラックを走っているのが目にはいるのが目についた。そういやあの少年を知ったきっかけも真田だったな、とどうでもない事を考えているといつの間にか真田があたしの横にたって校庭を眺めていた。

「相田美保なら、丁重に断った。俺には出来すぎている」

視線を校庭から外すこと無く、彼は言った。じゃあ出来すぎていなかったら、彼女を選らんだということなのだろうか。そもそも真田自身が出来すぎているのだから、相手も完璧でいいと思うのだけれど。それでも断った、つまり彼女を振ったという現実にあたしはほんのすこしだけ、心が温まってしまった。あたしは醜い。真田が好きなわけでは、ないのに。誰かが真田の特定の人になる事を心底嫌っている。あたしは醜い

「そ?ま、いーんだけどさ。てか皆来ないねー」

もうこの話は終わり、そう遠巻きに伝えようと改めて誰も来る気配の無い教室を一瞥した。風紀を守る委員会なのに、その委員が来ないとは何事だ、と真田が言いそうだな。なんて思いながら彼の口から言葉が出るのを待っていると、真田にしては珍しく目を少し左右に泳がせた後その視線があたしを捕らえた。この行動が何を意味するか、あたしには直ぐに察しがついた。

「みょうじ、俺は「あら?ここで何してるの?」

これは面倒なことになりそうだ、と目を瞑った時だった。教室に顔を出したのは風紀委員副担当でありあたしのクラスの担任の教師だった。ナイスタイミンググッドタイミング。ついでに委員たちがまだ来ないと報告をしようと真田から離れ教師の元へ寄った

「先生、あの、まだ誰も「今日の筈だった委員会の日は明日に変更になったじゃない!だから皆部活してるのに!貴方達も早く行きなさいね!」

何?
なんだって?

それだけ言うと教師は足早に教室を出ていってしまった。残されたのはあたしと真田のふたりきり。委員会がないだなんて聞いていない。しかしそれはあろうことか真田も同じだったようで拳を額に当て校庭を眺めていた。あ、だから2年の子はトラックを走ってたのか。

「真田?」

止まったまま動かない真田の肩に手を乗せると、くるり。突然振り返った真田にぎゅうと抱きつかれた。男子と女子の力の差というものは大体こんな状況の時に著しく表れるというがそれは紛れもない事実。あたしは真田に抱きつかれたまま振り解く事も出来ないでいる。

「みょうじ、俺はお前の事を「真田」

彼が何を言わんとしているかはよく分かった。しかし、それを今ここで聞くわけにはいかなかった。あたしは彼の言葉を止め彼の動きが緩んだ隙にその腕から抜け出し小さく笑んだ。分かっている、分かっているから、やめてくれ、真田

「今日部活終わったらちょっと付き合ってくんない?美味しそうな和菓子の店見つけたんだ」


そう言うと真田は、まだ言い足りないというような表情を浮かべつつも分かったと言葉を残し教室から去っていった。

やはり彼の気持ちには応えられない。だってあたしは真田が好きじゃないのだから。だけど彼はあたしのもの。ずっとこの距離で一緒にいられればそれが本望。

分かってる、あたしが醜いってことくらい





おわり

 ̄ ̄ ̄ ̄
悪女って程でもないけど、ありますよね。好きだけど付き合いたくない!みたいな。でも誰かのものになるのは嫌!的な。
有り難う御座いました。


mae tsugi


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