普通に平凡に
そんなふうに過ごせたら

後は何も望まないわ




「みょうじ」

「なに?柳」

「何故、いつもここにいるんだ?」

「あんたには関係ないでしょ」





朝7時、あたしはいつも学校の花壇の前にいる。それが日課で、毎日緑化委員でもないくせに、緑化委員のクラスメートに代わってもらって花に水をやって、花と会話してる。

特に、意味なんてものはない。



今まではひっそりと朝花達とお話して、ひとりクラスに戻って、なんとなく生活して、適当に笑っていたのだけれど。

ここ一週間、毎朝、花壇に行くと先客がいた。



「柳こそ、なんで毎日毎日、ここに来るの?テニス部、なんだから朝練とかあるでしょうが」



「ああ、朝の7時半からだ」

「だったら、もっとゆっくり来たら?こんなとこに寄らなくても、いいと思うんだけど」


「ならお前は、何故ここにいるんだ?」


「だから、柳には関係無い」


「ならば俺も、みょうじには関係無い」


「な、っ…」



とっつきにくいというか面倒くさいというか、テニス部という存在だけでも得意ではないのに、その中でもこの柳という人間は取り分け絡み辛かった。柳とは1年の頃、クラスが同じだったというだけで特に仲がいいわけではない






「じゃあ、あたしは先に行くから」

「そうか、なら俺も朝練に行くとしよう」




そうして別れて、あたしは元の日常に、戻る筈だった。







クラスメートが、あたしと柳が花壇で会っているのを見たらしい。それだけで普通だったクラスメート達の態度は一変。密会だなんていう人もいた。本当に馬鹿げているし大体誰が好きで柳なんかと、と思ったが柳はテニス部で顔だって悪くは無くて、ファンクラブもあって、それがどこの馬の骨かも知れないようなしがない帰宅部と毎朝花壇で会っているなんて聞いたらお怒りなのは当然だ。


あたしはその日を境に、花壇に行くのをやめた




花壇に行くのをやめたら、クラスメートは普通になった。やっぱり後ろめたいことがあるんだ、なんていうひともいたが、そんなのどうでもよくて、ただ気分で行かないだけだと自分に言い聞かせた




それから一週間、あたしは全く花壇に顔を出さずにいた。もう花は枯れてしまっただろうか、だとしたらとても申し訳ないとも思ったが、なかなか、花壇に行くことが出来ずに、また一週間が経った

もう誰も、あたしと柳の話をするひとはいなくなった



「久しぶりに、行ってみようかな…」



2週間が経ち、いい加減心配になったあたしは朝早く、久方ぶりに花壇へと足を運んだ。朝7時、誰もいない学校に誰もいない花壇、あたしの時間




「え、うそ…」





花壇の花は、枯れるどころか満開に咲いていた。あたしが頑張って可愛がっていた鳳仙花も綺麗に咲いていた

枯れていないことには、とてもとても安心したのだけれど、誰が。と考えた。クラスの緑化委員は男子で、いくらあたしが花壇に行くのをやめたと知っていても朝早くにこんな事をするようなやつじゃない。


考えられるのは、ただのひとりだけだった





「久しぶりだな、みょうじ」

「や、なぎ…」




ジョウロを持った柳が、あたしの後ろに立っていた




「どうだ?なかなかだろう。精市に聞いたんだ。あいつ、屋上庭園の世話もしてるから詳しくてな」

「幸村に…?そ、っか…」



花の事についての心配が無くなった途端、急に柳との空間が気まずくなった。きっと柳も先日の噂は耳に入っている事だろう。そう考えたら、もっともっと気まずくなって、花に目をうつした



「何故、最近花壇に顔を出さなかった?」



わかっているくせに、聞いてくるのか。あたしは柳に顔を向けることなく首を振った



「あんたには関係無いでしょ」


「そうか」



いつかも、柳に言った台詞が、また口から出た。今柳がどんな表情をしているのかなんて分からない。お前のせいで俺まで大変だったんだ、とあたしを嫌悪するのだろうか。



「あんたは、毎日ここに来てたの?」

「ああ、そうだ」

「花が、好きなの?」

「いや」


なら、どうしてと聞こうとした口が開くことは無かった。どうせ前のように関係無いと言われてしまう事が分かっていたから




「お前が、また必ずここに来る確率が89%だったからだ」


「…は…?」




柳の口から出た言葉は、予想もしていなかった言葉だった。鳳仙花を見ていたあたしは思わず柳に向き直り、首をかしげてしまった



「どういう、意味よ」

「お前も噂、聞いたんだろう?それでクラスの奴らに何か言われて、影響されてここには来なくなった。そうだろ?」


「…」


返す言葉が、見つからなかった





「だが、花の事は心配だった。だから事が治まったら花を見に行こうと思っていた。俺は、お前が必ずそうすると思ったから、ここで待っていた」



「な、んであたしなんか、待ってんのよ…あんたとここで話してたら、また、クラスの人に、何か言われるじゃない……」




本心だった
あたしは、クラスから嫌われてひとりになって誰とも会話が出来なくなるのが、本当に怖かった。心からの友達が欲しいわけじゃない、ただなんとなく、普通に平凡に過ごしていけたら、満足だった



「それが、怖いのか?」

「そうよ…」

「なら、俺が話し相手になってやる」




また、まったく脈略の無い言葉が飛んできた。柳と話をしていたら、また当たり前のようにクラスからはぶられて、ひとりになって、辛い思いをする。そんなの、嫌だった



「いらないわ、そんなの…柳と話したら皆があたしから遠ざかる、あたしなんか可愛くも無いし成績も普通の普通だし、そんなあたしがあんたなんかと話してたら、あたしひとりになる…」



いつわりでもよかった
上辺でもなんでも良かった

ひとりにだけは
なりたくなかった




「ひとりじゃ、ないだろう」


ふと、柳があたしの方に一歩寄った



「ひとりよ、」


「俺が、いるのだから、ふたりだ」





なんて格好つけた事を言いながら、あたしを抱き寄せた





「は、なせ…っ」



「可愛いか可愛くないか、馬鹿なのかそうじゃないのか、お前と話す価値があるのか無いのか、お前と一緒にいるかいないかどうか。決めるのは俺だ」





そんなこと言って、また格好つけるから。あたしは返す言葉を失ってしまって





「明日からも、また、花壇に来るから」





なんとか柳から離れて、背中を向けてそれだけ言って教室に向かって走った



きっとまた、クラスのひとに何か言われるんだ、と。少しだけ怖くなったが、クラスメートがその後あたしに何かいうことはなかった

















おわり


――――
最終的には柳が裏から手を回したっていうオチ。収拾つかなくなりました最近なんかぐちゃぐちゃしててすいません

付き合ってるよりもそれまでの過程の方がすきなわたし


mae tsugi


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