本当のあたしは、













小さい頃から、嘘ばかりをついて育ってきた。見栄を張りたかったし、誰かに注目されたかった。嘘を並べただけで、友達はたくさんできたし、知りもしない話題に相槌を打っては無理に笑ってきた。

でも、あたしは、それで満足だった。


でも、嘘なんていつかは必ずバレる。いつか本当じゃないことがバレる。でっち上げられた、所謂捏造。ひとびとはそれに気がついた途端、あたしと距離を取った。陰で悪口を言った。でもそれは当然のことだ。わかっていた、でも、泣かずにはいられなかった。



変わろう、変わろうと。
そう思ってからどれくらいが経ったのだろうか。あたしは変われないまま、中学を卒業し、高校生になっていた。


本当に信頼できる、友達のひとりもなしに。






そうやってまた、嘘を吐き続けながら、あたしはまた泣いていた。自分のせいだと分かっていても、自分が被害者だと自分を慰めた。




「ねえ、」


「…?!」





誰もいない筈の、授業を終えたこの大教室。そこにあたし以外の声が響いた。聞きなれないその声に、あたしは泣き顔のまま視線をあげた



「どうして、泣いているの?」



見知らない男のひとだった。青い髪の、すらっとした。顔の整った、きれいな人だった。見慣れない顔に、聞き慣れない声。話した事も無かったけどあたしは彼の存在を知っていた



幸村精市



「な…」


あたしは、声がうまくでてこなかった。幸村精市といえば、うちの高校で有名なテニス部の新星で、誰もが一度は口にする程のひとだった。テニスばかりをして、他には花くらいにしか、興味がなく、付き合う女性も絶世の美女しか駄目だという話を、あたしも聞いたことがあった。

そんなあたしも、一度校内で彼を見たとき、ときめいたひとりだ。

ときめいてなんかない、と。
またそこで嘘をついたのだけど




「こんな暗くなった教室で、女の子が独りで泣いていたら危険だ」



なんて言いながら、夕日射し込む教室で、彼は笑みを浮かべた。綺麗だった。

でも、あたしには彼と対等に向き合う権利も無かった。あたしは一度、彼には好きな人がいるらしいと噂を流したことがあったからだ。もちろんそんなの聞いたことはなかったし、でもその話をしたら皆、あたしの話を聞いてくれたから。


あたしは、彼に向き合うことが出来ず下を向いた



「また、嘘をついて泣いているのかい?どうして、」


彼はあたしの前の席に腰掛け、あたしの方を向いた。彼の顔には笑顔が無かった。理由なんて、


「理由なんて、自分勝手なものだから…」


喋りながら涙が出た。当然のことなのに、あたしがひとめぼれした彼からそんな事を言われると、悲しくて辛くて仕方がなかった


「でも、ちゃんと本当の事も沢山言ってるよ、みょうじさんは」

「え…?」



また、彼に笑顔が戻った。そして彼は、話したこともないあたしの名前を知っていた。



「俺に、好きなひとがいるって。」


「……?!」


あたしが、あの噂の発端だということも全て、彼は知っていた。怒っているのだろうか、あたしをいじめたくてここに来たのだろうか。その笑みからはなにも読み取れず、あたしはただ震えた。


「どうやってそんなこと、調べたの?うちのテニス部の一部にしか、言ってないのに」


今は、あたしの流した噂が本当か嘘かなんて考えている暇は無かった。そんなことどうでもよかった。彼の心理が全く分からず、あたしはただ恐怖に震えた



「ごめん、なさ…」


出ない言葉を、一生懸命振り絞った。その言葉以外、出るものがなかった。





「もう、嘘つかないように、本当の事教えてあげるよ」







なんて、また小さく笑みを浮かべながら、彼はあたしの泣きじゃくって腫れた目蓋に口づけた




「…?!」



「もう、悲しくはない?」




彼は、笑顔であたしに言った。なにを考えているのか、冗談でも打っているのか、彼はあたしの目蓋にキスをした。混乱で涙が止まったあたしの頭を、その大きくて白い手が優しく撫でた



「ずっと、君が好きだった。皆は君を嘘つきだというけど、俺は、みょうじさんが好きだよ。」


「…それも、嘘…?」




嘘つきなあたしは、疑心暗鬼。自分が嘘ばかりつくものだから、他のひとの言葉も簡単には信じられない。




「嘘なものか、そうだな…俺が、みょうじさんが嘘つかないように、見張ってあげるよ」

「本当、に?」


「ああ、本当に」




短い短い会話を続けながら、それに終止符を打つように彼があたしの唇に口づけた






唇は、あたたかくて、
なんだかまた涙がでた



もう、見栄も注目もいらないから。と彼は言った。全部、俺が受け止めると、彼は笑った

















「ちょっと!みょうじなまえに彼氏出来たって!」

「は、どーせまた嘘でしょ?」

「そうそう、あいつ嘘ばっかりだし。信じらんない」


「いや、それがさ…相手が幸村くんなんだって!」


「嘘つくなよ、お前もなまえみたいになるよ?」


「マジなんだよー!だってさっき、幸村くん本人がそう言ってたんだもん」









「俺、彼女出来たんだよね。やっと、恋が実ったよ。名前?みょうじなまえさん。」
















終わり



mae tsugi


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