みょうじはどこにでもいる普通の女子生徒だ。周りに比べたら音楽の趣味は少し偏っておりドラマやバライティーも見る視聴する方では無かったし好きなものは好き、嫌いなものは嫌いだとはっきりものを言うがそのくらいで、食べ物の好き嫌いはあるし数学は好きだと言っていたが英語はお世辞にも出来るという評価はし難かった。それに加え、彼女は以前よりよく笑うようになった。苦しそうにでも無理にでもなく、自然にへらへら笑うことが増えている気がした。勿論、以前というのは弦一郎に失恋してから今までという意味で彼女は元々暗い性格で無いことは分かっている。前にも言ったが、面白いことがないだけらしい。しかしそれにしても、よく笑うというのは、少なからず彼女の心境に変化があったという事であり、その原因が俺であるならば尚更喜ばしい。

「あ、赤也部長ファイティーン」

「なまえ先輩!部長ってやめてくださいよ、恥ずかしいじゃないッスか!」

「だって部長なんでしょ?」

「まあ、そうなんスけど!」

最近俺と一緒にテニス部にも顔を出すようになったみょうじは赤也と仲が良い。赤也から修学旅行のお土産のお菓子をもらった時に一発で気に入ったらしい。丸井に似ていると赤也が呟いていたが数回顔を出しただけで、赤也もみょうじになついたようだ。赤也が少しだけ恨めしくもあったが、基本的にみょうじが俺の隣を離れる事はない。それだけでも充分だった。

「てか、なまえ先輩と柳先輩って付き合ってるんスか?」

「ん?」

俺が一年の指導をしている時、赤也がそんな事をみょうじに聞いているのが聞こえた。俺達の仲は恋仲でない事は明確である。そのような約束をしたわけではないから彼女がそうではないと答える確率は非常に高く、それは当然のことである。しかし皮肉にも、否定ではない答えが飛び出すのではないかと俺の脳は期待をしている。俺も随分と、貪欲になったものだ。

「柳?うーん、柳は、あたしの救世主。メシアってやつ?」

「なんスか、そのむっずかしー言葉!」

「ん?赤也には理解できない言葉」

「なんか、悔しいんすけど!」

ははっ、とみょうじが笑った。赤也は難しい顔をしていて、俺はこの彼女を愛おしく思う気持ちでどうにかなってしまいそうだった。指導をしていた一年への言葉をやめ、思わずみょうじの方に目をやると軽く手を振られた。柄にも無く、そんな事で顔を赤らめていると横から一年が申し訳なさそうに声を掛けてきたので気を無理矢理引き戻し再び指導に当たった。しかし、頭の中では指導の内容や順序等考える余裕もなく、ただひたすら彼女の発した言葉の意味を考えた。救世主、という事は少なからず俺は彼女にとって特別な存在であり、そこいらに蔓延る人間よりは信頼できる、という事だと思っていいのだろうか。あるいは、あいつ、より

「最近、よく笑うようになったな」

「あ、柳。そう?変わんないと思うけど」

「いや、そんな事は無い。俺のデータに狂いなど無いからな」

「なんか、激しいよね、そのデータってやつ」

指導を終えてみょうじの元へ戻ると、彼女はベンチに腰掛け赤也用のスポーツドリンクを飲んでいた。そして俺がそう言うと、とんでもないとかぶりを振る割りには、その後また楽しそうに笑みを浮かべた。この笑顔が続けばいい。これからもずっと、あわよくば俺の隣で。

そう、私利私欲に物を思った

「なまえ」

「…さ、なだ…?」



部活も早めに抜け、校門を出ると真田がみょうじを待っていた


最近、よく笑うようになったな
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