テストも無事終了し、世の中は受験勉強に励むものと数週間先に迫ったクリスマスの予定を懸命に探す者とで二極化していた。校内は推薦で早いところの私立大の合格発表に湧く者が多く、その雰囲気も、二極化といったところだろうか。合格者は極力他の合格待ちや受験者の空気を読まなければならない。進む道が違えどやはり合格、自分の道を手にした者を羨むのは人の性。刺激することは避けろ、と推薦説明会の際にも教師は強調していた。未来を決める、と言っても過言では無い。デリケートになるという事は仕方の無い事だ。

「楽しそうだね、皆」

「そうだな」

空き教室から廊下に視線を向ければ放課後という事実に関わらず生徒たちが絶えること無く廊下を行き来し"情報"の入手に励んでいるのが分かる。その情報が合否、なのかクリスマスの予定、なのかはたまた違う何かなのかまで聞き取る事はしないがなんにせよ、言葉にはうまく出来ない雰囲気である。俺には全員が笑っていても、無関心なふりをして水面下では探り合いを続けている冷戦状態にしか見えなかった。

いい加減見ているのにも飽きた俺が今度は反対側に見える校庭に目を向けると男子生徒が寒さにも関わらずカーディガン一枚で校庭に飛び出し先日降った雪の溶け残りを被って遊んでいたので溜め息ひとつ、再び視線を一緒に空き教室にいるみょうじに向けると眠そうに欠伸をしていた

「眠いのか?」

「いや、そんなんじゃないけど。暖房効果?」

へらりと彼女は笑みを浮かべ、視線を俺から逸らして明後日の方を向いた。その目線のずうっと先には何が見えているのか、そんな事は考えるのも億劫になりそうだったので自分の傍らにあった紙袋を持ち上げみょうじに差し出した。勿論どこか、に目をやっていた彼女の視線は俺へと戻ってくる。その些細な行動にでさえ俺の心臓は揺れる。じい、と袋に目をやるだけで受け取ろうとしないみょうじを見て、自分が言葉を発していなかった事に気付いた

「推薦、受かったそうだな。おめでとう」

そう言いながら持っていた袋を揺らすと彼女は今度こそ、躊躇しながらも受け取り閉じられていない袋のなかを覗いた。袋の中からラッピングされた物体を取り出し興味を示すみょうじは小さな子供のようだ。そして同時に、変な違和感を覚えたらしく眉間にシワを寄せながら俺にラッピングを解かない状態の包みを見せた

「なに?これ、柔らかいんだけど」

「開けてみろ」

「偉そうに」

そう言いながらも丁寧にラッピングを解いていくみょうじはとても器用だ。そしてすべて開ける前にその柔軟な何かの正体に気付いたのか途端袋を開ける手が速くなり全てのテープを剥がした包みの中から出てきたやる気の無さそうなキリンのぬいぐるみを持ち上げた。

「これ、」

「それは、お前の好きなものだろう?」

「そうだけど、なんで」

彼女は不思議そうに俺を見た。その問いに答えること無くただ俺は小さく笑んで見せた。みょうじがこのやる気のない動物のぬいぐるみシリーズを好きで集めているという情報は実はずっと前に入手していた。誕生日にでも送ろうかと考えた事もあったがいかんせんその時は彼女に自分の気持ちを知らせる気が無かった。暫く話してもいない相手から突然プレゼントを貰えば当惑する確率84%。だから俺は今日、こうして初めて彼女にプレゼントを送った。合格祝いに、かこつけて。

「どうだ?」

「くっそー、可愛い」

しかし彼女は、俺にそれ以上問いを向ける事は無かった。余程嬉しいのかずっとそのぬいぐるみを見つめている。その目に映る対象が他でもなく俺の渡したプレゼントであるだけでどうしようもなく嬉しくなった。単純だと笑うだろうか。それでも構わない。

「そういえば、柳は受かったの?大学」

「俺か?当たり前だろう」

「ふうん、ま、いいや」

彼女の笑顔は、誰よりも可愛らしい。その笑顔だけで、満足だ


それは、お前の好きなものだろう?
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