相変わらず、みょうじとの接点が多くないまま時間は着々と過ぎていった。周りには既にAOの試験に合格したり公務員試験に合格したものが出始め、いよいよ本格的な受験シーズンに突入しようとしている。俺はというと、実はとっくに行きたい大学も受けたい学科も決まっている。推薦も決まった。恐らく首席での入学になるとも言われたがそんな言葉を聞いて嬉しいとは思わなかった。他にももっと良い大学が沢山あるのにどうして、と言う教師もいた。しかし俺の意思が変わることは無い。

「柳蓮二」

「はい」

校内推薦枠を賭けた争いを突破した者が集められる集会。この集会にはテニス部からは俺しか出席していない。何故なら俺を除いた他の部員は皆付属の大学にそのまま進学する事を決めているからだ。

「みょうじなまえ」

「はい」

そしてみょうじがこの場に出席する確率は97%。3%の内に入ってしまっていたらどうしようかと些か心配はしたものの名前を呼ばれるのを聞いた時は安堵の息を漏らした。対する彼女は、どうやら俺の名前を聞いて驚いたらしい。キョロキョロと辺りを見回し俺を見つけた時には口パクで「何故?」と言うのが見えた。

全ての点呼を終え、簡単な説明のみだった今日の集まりは直ぐに解散へと向かった。次回の集会は1週間後、具体的な書類の作成などが始まるとだけ言うと担当教師は大教室を出ていった。時は既に放課後。残ってやる事もない俺が立ち上がり周りの者の流れに身を任せて教室を後にしようとした時、誰かに腕を掴まれそれを成す事が出来なくなった

犯人は勿論、

「みょうじ」

「なに、あんた、外部受験するわけ?」

「それはお互い様だろう」

聞こえてきた言葉は予想通りのもの。大勢の生徒が教室を後にするのを見送り人ひとりいなくなったところで、俺が返事をするとみょうじは苦い笑みを浮かべた。彼女はいつも苦そうに苦しそうに笑みを浮かべた。それは笑いたくなんか無いと言う意思表示である事を俺は知っていたが、俺が何か指摘をしたところで彼女が変わるとは思えなかったしその必要性を感じなかった。笑っていたとしても、彼女が今何を思っているのか怖いくらい伝わってくるからだ

「どこ受けるの?」

座席に座り直し立っている俺を見上げるような姿勢で彼女は口を開いた。どこの大学を受けるのか、その問いは俺にとって愚問だった。

「その答えであれば、今は言わない」

「は?何それ。落ちたら恥ずかしいからとか?」

「そんな理由じゃ無い。俺は受かる」

「はいはい」

「そんな事より、お前こそ、落ちたりなんかするなよ?」

そう言って小さく笑みを浮かべると彼女は面食らったような表情ひとつ、今度はただおかしそうに笑みを浮かべた。それは苦しそうに笑ういつもの彼女ではなく普通の女子生徒だった。


その答えであれば、今は言わない
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