埋めてやろう、俺が。


先日の文化祭を境に弦一郎に彼女が出来たという噂は瞬く間に校内中に広まった。勿論、それは嘘ではなく真実である。近々彼女が真田にアプローチを掛ける確率は非常に高かったし真田がその申し入れを受ける確率も、それと同等の数値を示していた。そしてもうひとつ、同じように高い数値が出たのが、みょうじなまえが失恋する確率。である。

みょうじなまえは俺が3年間想いを寄せる弦一郎の幼馴染みの女子で部活の所属はない。俺との接点は1年生の時に同じクラスだったというその一点のみではあるが、彼女を好きになるのに時間は掛からなかった。そして同時に、彼女がずっと弦一郎を好いているという事実を知った。

もしも弦一郎とみょうじが結ばれるのであればこの気持ちを永遠に、口にすること無く心の中に埋めたのかもしれない。しかし文化祭のあの日、最終日、俺は教室にひとりでいた。欲を言えばみょうじを誘いたかったのだがみょうじは今年も弦一郎と踊る可能性が高かった上に、試しに弦一郎にみょうじを誘ってみようか問いかけてみたのだが返答が無かった。故に結局、教室の窓からキャンプファイヤーの火を眺めようと席についていた時、廊下から声が聞こえた。それは弦一郎が想いを寄せている相手が、弦一郎を呼ぶ声だった。彼女は弦一郎を誘い、弦一郎の返答を聞く前に、足音が俺のいる教室へと近づいてくるのが聞こえてきた。追ってくる足音は無い。つまり弦一郎はその彼女と校庭へ消えたわけで、みょうじは失恋をした、と言うわけだ。

彼女は俺のいる教室の前で立ち止まり、弦一郎たちが歩いていく廊下を振り返った。去り行く弦一郎達を見る彼女の姿は酷く、美しく

滑稽だった

「滑稽だな」

俺がみょうじに投げ掛けた言葉を聞き、彼女が俺の方を向くまでには意外にも少し長い時間を必要とした。ゆっくりと俺のいる教室に目をやると、彼女は苦しそうに笑みを浮かべた。泣いていたわけではない、ただその笑顔はどうにも、俺の心を苦しめた。

埋めておこうと心に決めた想いがどんどん溢れてくるのが手に取るように分かった。抑えが利かなくなりそうだった。だからなるべくゆったりと席を立ち彼女がいる廊下へと足を進めて、彼女に手を差し伸べた


「お前の胸の穴を埋めてやろう」



そんなずるい言葉と共に。



お前の胸の穴を埋めてやろう
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テーマ「人外ファンタジー」
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