他になんか、無いのかな


真田くんがいいよ、なんて優しい言葉を掛けてくれた翌日、半信半疑に起床したあたしに真田くんはいの一番に何時に出発するのか聞いてきた。一緒に行ってくれるという安心感半分、すっぴんでばさばさな髪を慌てて整えたのが3時間前。なんとか午前のうちにアパートを出発したあたしたちは郊外にある規模の大きなアウトレットモールにやって来ていた。あたし自身こんなに大きなアウトレットモールに来るのは初めてで少し戸惑ったのだが真田くんは遊園地かどこかに来たようだと、そんな事を言いながらパンフレットを受け取っていた。

そうしてぶらぶら歩こうかと提案しようとした時、丁度運動するときに着れるTシャツを何枚か購入したいというのでスポーツウェアがずらりと並ぶブースまでやって来たは良いものの、あたしは思わず目を点にしてしまった。

「いや、真田くんそれはやばいんじゃない?」

「む。そうか?」

彼は激しく、センスが無い。いや、センスが無い訳ではない。彼が今日着ている服はむしろセンスの良さを表しているし平日の通学時に着ている服だって変なものは無かった。なのに、どうしてなのだろう。スポーツウェアの専門店に着いた彼がいの一番に手にしたのが青地に紫のような字で城、と背面に大きく階書体で書いてあるTシャツだった。城、と書いてあるのになんの意味があるかは知らないが、もし万が一その隣にある白地に黒字だったらまたシンプルでいいね、とか様々な反応をしてあげられたかもしれない。しかしこの色合い、あたしにはフォローしきれず苦笑いを浮かべてしまうと彼は非常に残念そうな顔をした。

「あ、いや、じゃあ、こっちは?」

そんな彼になんだか申し訳なくなってしまってあたしは近くにあったナ〇キのポイントのみが入ったメッシュ生地のシンプルなTシャツを手に取り彼へ見せてみた。先程の城Tシャツよりはだいぶマシじゃあないかと彼の反応を伺うようにちらりと彼に視線をやると、あたしからそのTシャツを奪いレジへ足を向けていた。

「一着で良かったの?」

「ああ。運動用は、とりあえずはこれ一枚補充できれば問題ない。それに今日は普段着も何着か選ぶ予定でいるからな」

「なるほどね」

「で、どこへ行く」

「え?あ、ううん…結構、沢山あるのね」

無事Tシャツを購入したあたしたちはカジュアル服のブースへ移動しすっかり冬物のフェアが始まっている何軒もの店の前でどこから行こうかと頭を抱えていた。何せ何十軒単位で並んでいる店はどれも良い個性があり優柔不断なあたしはなかなか決めかねていた。これがきっと可愛らしい女の子であれば〇〇から行こうよう、なんて可愛く行きたいところを言えるのだろうがあたしにそんな事は出来ない。

「なら、一番端から見て回れば良いではないか。時間なら充分にあるのだ、気負いすることはない」

「え?あ、そっか。じゃああっちから回りましょー!」

変わらず唸るあたしを見かねたのか真田くんが先に提案をしてくれた。確かに、端から回れば順序良く見て回れる。そんな簡単な事も思い付かなかったなんて珍しくテンパっているのか?と心の中で自分に問いかけながらも真田くんに不思議がられる前に彼の手を取って小走りにシンプルなカジュアルジャケットが印象的な店に足を踏み入れた。


「ふう、沢山買ったねー」

「なまえさんは、買いすぎ、ではないのか?」

「そーかね?」

「女性は皆、それが普通なのか?」

そう眉間にシワを寄せながら苦々しく彼は口を開いた。目線の先には4つの大きな紙袋。忙しくて衣類を買う暇なんて次にいつ訪れるかも分からないと思ったら今買わないのが非常に勿体無い気がした。それだけなのだが。彼からしたら余程珍しいのだろう。一通り買い物を終え腹も空いてきたということで遅めの昼食を取りに小洒落たパスタの店に入った。彼が洋食を食べるというイメージはあまり無かったが何でも構わないという彼の言葉に甘えて美味しいと話題のこの店にした。適当に注文を済ませ料理が来るまでの間は他愛もないお互いの事を話した。

「なまえさんはハンドボールをしていたのか?」

「ああ、メモの?そうそう。高校の時だけね。女子ハンド部が部員少ないっていうから臨時部員みたいな感じでさ。元々は男子のマネージャーやってたんだけど。」

「なるほど、女子ハンドボールとは、珍しい」

「そうかな?始めてみると面白いんだよ結構。また機会があったらやってみたいと思ってるんだけど、もう年だからなあ」

「スポーツはいつ始めても遅いという事は無い」

「ふふ、そうかな?ありがとう」

真田くんの言葉には力があった。大丈夫だと言われるとそんな気がするし、幸村が言っている程怖いひとでもない。どちらかというと、正義感の強い優しい男性、というのがあたしの彼へのイメージに近い。

「お待たせしました、クリームパスタのお客様」

「あ、はーい」

「ヘペロンチーノのお客様」

「こっちです」

それからまた他愛の無い話をしながら食事をした。真田くんはこれまでに彼女が3人いたらしい。まあこんなにイケメンなのに大学生後半にもなってひとりもいなかったら逆にそれも不思議な話なのだが、なんとなく硬派だと勝手に想像していたあたしにとって彼の発言はとても意外だった。しかし話を振った時の彼の顔は真っ赤だったので、そこはまあ予想通り。今は彼女がいないらしいがもしいたのであればなんとなくあたしは彼女に罪悪感を感じてしまっていたかもしれない。

食事にお喋りもそこそこに店を出て、それから少しまた店内を見て回って、ふと時計を見たら6時を回っていた。

「あ、もう6時!」

「そろそろ、帰るか?」

「うん、そうしよっか。今日は久しぶりにあたしが夜ご飯作るね!」

「いや、しかし、疲れただろう?」

「へーきへーき!今日は付き合ってもらっちゃったしね」

「いや、こちらこそ、本当にありがとう」


そう言って、彼はあたしに微笑んだ。彼はあまり笑わないが、たまに笑ったところは凄く魅力的だと思う。幸村程では無いが、凄く惹かれるものがある。そうしてそれを見るだけでどくん、とあたしの心臓は大きく鳴るから。それを誤魔化すように歩き出し、彼の言ったありがとうの中に、元気になれたという意味があればいいなと思いながら、帰宅路についた

なんとなく、悲しんでいる彼の顔なんてもう見たくないと思った


つづく


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