巻き込まれた感が否めないのは、気のせいだよね?そうなんだよね?





「はい、だるーい」

あたしは駅前で盛大にため息をついた。本来ならオフである日曜日。仮面ら〇だーを見た後のんびり二度寝が出来る素晴らしい曜日。なのにあたしはTシャツ、プージャそしてビーサンを穿いた状態で改札の前につったっている。携帯と財布を手に握り締め、なんとも人生をなめた感じの服装で、あたしにこの場に来ることを指定した人物を待っている。別に服が無いわけでも朝起きたままの状態で来たわけでもない。着替えたしシャワーだってしてきた。

「てか、1時だよね?もう1時半なんですけど」

そして相変わらず現れない魔王様。何度も携帯に表示される時計と駅前にある大きな時計台を見てはため息をついた時、近くにひとの気配を感じた。振り返ればそこには言わずもがな彼の姿が。Tシャツに半ズボン、そしてサンダル。あたしとほぼ変わらない服装で現れた筈の幸村は確かに、その辺の芋とは違うオーラを発していた。本物のイケメンは何を着ても似合うと誰かが言っていたがあながち間違いでも無いらしい。

「やあ、なまえ。昆虫採集にでも行きたそうな格好だね?」

「そんな事は御座いません」

「気を抜きすぎなんじゃないかな?折角のデートなのに」

「ほほほご冗談を」

デート、なんて言葉を強調しながらあたしの服装について言及する幸村。冗談でもやめてくれと心の中で念じながら歩き出した幸村の後を追うようにしてその場を去る。先程まで何度も眺めていた時計台を名残惜しく感じながらもあたしはどこへ向かうのかも分からない彼の背中を必死に追い掛けた


「で、ここ?」

「うん。悪い?」

「あ、いえ滅相も御座いませんイケメン幸村くんが折角選んでくれた場所ですので悪いだなんて微塵も思っておりません」

「そう?なら良し。まだご飯、食べてないんだろ?」

「まあ…」

連れてこられたのは、所謂カフェレストランというところで一体目の前にいるこの男はどこでこんなにお洒落な場所を調べ上げたのだろうと真剣に悩む。辺りを見渡せば勿論あたしのような短パン小僧はひとりも存在せず代わりに可愛く着飾った素敵な女性がアフタヌーンティーを楽しんでいた。か、可愛い…しかしそんな夢のような世界をぶち壊すのが周囲がこぞってイケメンだと称賛するこの幸村という男。彼と一緒にこんなところに来るんじゃなかったと激しく後悔した。

「ねえ、あの子格好良くない?」

「本当だ!一緒の子…寝起き?」

というお姉さま方の声も聞こえてくれば

「あ!ねえあれ幸村くんじゃないっ?夏休みなのに幸村くん見れるなんてラッキー!」

「え?横にいるのって誰?」

「分かんない、なんか幸村くんとは正反対って感じだよねー」

という恐らくうちの生徒であろう可愛い女の子たちの声。場の雰囲気の中心が幸村になるのを肌で感じた。その影響力は一体なんなんだろうか。やはりイケメンというステータスなのだろうか。優しく聞こえる声?どちらにせよあたしには悪魔ならぬ魔王の囁きにしか聞こえない。しかし世の女性は、こんな奴に惑わされる。そしてその幸村の横にいる存在は必然的にゴミ虫程度の評価になる。不平等な世の中だな、とあたしは改めて感じた

「なに考えてるの?」

「…え?あ、いやなんでもない!さて、何を頼もうか?」

急に幸村に声を掛けられ我に返った。どうやらあたしは百面相をしていたらしい。慌てて座っていた席から立ち上がり財布を取り出しカウンターへ向かう姿勢を取ると幸村がくすりと笑った。あ、そう、この顔だ

きっと世の美しいお姉さま方を虜にしているのは、この花が咲いたような笑顔

どうでもいい事を考えていたのを悟られぬよう幸村の背中をぐいぐい押しながらカウンターは並ぶとちょうど人が居らず直ぐにレジのお姉さんに会うことが出来た。お姉さんの立っているレジのの下には可愛らしいケーキがずらりと並んでいたものの甘いものでは空腹が満たされない。あたしは幸村を押し退け食い入るようにレジに置いてあるメニュー表を見た




「なまえって貪欲だよね」

「そんな褒めないでよ幸村くん!」

「くんって止めてくれる?気持ち悪くて吐きそうなんだけど」

「え!じゃああたしがそのマフィン食べてあげようか?」

「大人しくするのと二度とその口から物を食べれなくなるのどっちがいい?」

あたしのお金で何故か二人分の代金を支払い再び席に戻った幸村はマフィン片手に笑って見せる。恐怖政治!恐怖政治だよ!!なんて思うあたしの気持ちを知ってか知らずか、目の前でおしとやかにマフィンを頬張る魔王幸村。やっぱり笑顔とかフェイクだ、人間という名の生け贄を探すためのフェイクなんだ。そうやって色々なひとを餌食にしてきたんだ!と思っているとにっこり微笑まれた。あ、やばい冷や汗が…

「食べないの?」

「食べます、全身全霊で食べさせて頂きます」

「ならよし」

何がいいの?ねえ、なに?という言葉は勿論心の奥底にしまいこみ自らが注文したサンドウィッチを頬張る。いつ作られたものかは分からないが充分美味しいそれを食べながらあたしはやはり、幸村は一体何故こんな店を知っているのか疑問に思った

「ね、え幸村幸村」

「なんだい?」

食事を終えのんびりと頼んだカフェラテを飲みながらふと幸村に顔を向けるとどうしようもなくマグカップが似合うイケメンがそこにいたのでぶん殴ってしまいたい衝動を抑えながら極力いつも通りの口調で話しかけた

「幸村はさ、なんでこんな店知ってんのさ?昔の彼女と一緒に来たとか?」

そう思った事をそのまま口にすると、幸村は一瞬、とんでもなく真顔になった。え?なに?昔の彼女となんかあったわけ?こわ、怖いんですけど。聞かなきゃ良かったかな、と思い直し別な話題を探そうと適当に今日良い天気だねと言ったら頭をバチコーンッと思いきり叩かれた。え?え?

「え?ちょ、え?」

「なまえって本当に、馬鹿にも程があるっていうか人間としてどうかっていうか。」

そしていきなり罵声を浴びせられる始末。表情こそ笑ってはいるもののこれは物凄くイライラしている時の笑顔の浮かべ方であるということは熟知している。つまりあたしが今、こいつを怒らせてしまった、ということだ。彼女の事聞いたから?もしかしたら幸村はまだ前の彼女の事が好きなのかもしれない。だとしたら余計にあたしは彼に悪いことをしてしまった

「ちょ、落ち着いて、ごめんて!そんなに幸村が昔の彼女の事好きとは思わなくて!」

「は、彼女?俺彼女いたことないんだけど」

みょうじなまえ、終了フラグ立ちました。

今のあたしの言葉が完全に彼を怒らせてしまった。ガタンッと立ち上がった彼は死ね、とひとこと言い残し店を走って出ていってしまった

そして、残された













「ええええええええええ」

一人残されたテーブルでこの理不尽な扱われ方を嘆くと多方向から早く幸村くんおっかけなさいよだらしないわね的な声が飛んできたので慌てて立ち上がって彼の出ていった方へと走った


ゆ、ゆきむらのバッキャロオオオオオ!!


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