可哀想なものを放っておけない性分なんだよね…はあ




「あ、そーなんですね、昔からのお友だち…」

「はい、真田弦一郎と言います」

「真田くんね、あたしはみょうじなまえです。幸村は大学の時の「恋人だったんだっけ?」いやただの後輩です」

「そうだったんですか、こんな朝早くに幸村の家にいたものですから、てっきり交際しているのかと」

「違います」

「では何故「真田、余計な事は言わなくていいよ?それとも、聞きたい?それなら詳しく話してあげるけど」

お願いしますそれはあたしからも頼みますやめてください。あたしでさえ覚えていない昨日の事を話されるなんてたまったもんじゃない。いや、大丈夫だ。と目を逸らしながら答えた真田くんに心の中で感謝し改めて彼に目をやる。先程幸村も言っていたがこんな朝早くになんの用事なのだろうか。隣人のおじさんだと思ってしまった事に関しては本当に申し訳ないと思っているが、何せ時間帯が時間帯なのだから仕方がない(あと彼の顔、とは言わない)。余程の用事があるからこんな朝早い時間、しかも怒られる事を覚悟してここに来たのだということは安易に予想が出来た。

「で、何?こんな朝早くに」

不機嫌マックスな幸村をちら、と見る真田くんは本当に申し訳なさそうな顔をしている。そして表情に滲む若干の恐怖。あなたもやっぱり幸村が怖いんだね。分かるよ、あたしもそう思うから。しかし話さないわけにもいかないとやっと腹を決めたらしい真田くんが正座し幸村に向き直った。日本男児、とはこんな人をいうのだろうか。その姿勢はとても美しくきっと剣道とかやってたんだろうななんて安易な事を考えた

「それが…姉夫妻が今朝、というか明け方突然現れて俺の家に住むと言い出したのだ。しかし俺の家に姉夫妻と甥を住まわせるスペースが無い。それを言ったのだが少しの間だから、と言って荷物を持たされ追い出されてしまった」

「自分の家なのに?」

「全く不甲斐ないと笑うかもしれないが、事実だ。実家に連絡を取ったらどうやら祖父と喧嘩をしたと言うのでな」

段々話が見えてきた。ようするにホームレスになったんだ、彼は。そこであてがなくてとりあえず幸村の家までやってきたという大体の背景は読み取ることができた。つまり、遠回しにここに少しの間置いてくれと、そういうことなのだろう。あくまで予測ではあるけれども。しかしどうやらあたしの予測は外れてはいなかったらしい

「で、俺の家に転がり込もうってわけ?」

「む…その通りだ…すまないが少しの間だけ、良いだろうか…」

非常に申し訳なさそうに萎んだ声を出す真田くん。確かに朝方いきなりやってきてしかも住まわせてくれなんて失礼極まりないよね、普通。まあ理由が理由だし仕方ないとは思うし、ダメだとしても他の場所が見つかるまでの時間くらいはいさせてくれるのではないか。あたしがそんな期待を抱きながら横に座っている幸村にちらりと目線をやると彼は真田くんを見据えたままにっこりと笑みを浮かべた。笑みを浮かべるということは承諾…?

「やだ」

「え?」

思わずあたしが聞き直してしまった。やだ?やだって、もしかしてもしかしなくても断った?あたしがまじまじと幸村を見ていると真田くんも少なからずショックを受けたのだろう。なんと返事をしていいのか分からないとばかりに顔をしかめていた。

幸村がはっきりと何でもいう性格だというのは大学の時に嫌というほど思い知らされた。今さら彼に情なんてあると思ってはいないし結構自分を含め人には厳しい人間だとも思う。だけど今回ばかりは仕方が無いのではないだろうか。真田くんだって見るからに律儀そうで他人に迷惑を掛けるなんて言語道断みたいな性格だろうに、唯一信用出来る幸村くんに無礼で不躾だと分かっているにも関わらずお願いをしにきたのだ。せめて今日くらい。いいじゃないか

「だって真田家に置いといたら俺も9時に寝ろとか言われそうだし、なんか色々言われそうだし。女の子連れてこれないし」

あ、こいつが女性関係やばいって忘れてた

「そうか…駄目ならば、仕方ないな」

真田くんは邪魔をした、というと申し訳なさそうに立ち上がり玄関へと向かった。なんだか捨てられた虎に見えて(決して犬とかではない。何か狂暴な何か)、それでもにこにこしながら彼の帰る姿を見送る大学時代の後輩の態度にどうしようもなくなり、気付いたらあたしは立ち上がり玄関を出ようとする真田くんの後を追いかけた

「あ、の!真田くん」

「…?はい」

どうしようか最後まで迷いつつ、こちらを振り向いた真田くんがあまりにも不憫で可哀想で何より、イケメンだったので


「少しの間なら、うちにいてもいいよ?」

なんて、後輩の友人だからと言っても今日会ったばかりのひとに声を掛けてしまった。その時の真田くんの顔をあたしは一生忘れないだろう。目を大きく見開き、そして何故かその直後顔を真っ赤にした彼のその表情を。後ろでぶっと幸村が吹き出すように笑っているのがわかった。しかし、放ってはおけまい

「お、おなごの家に泊まるなど…!」

思わず漏れた言葉なのだろう。しかし彼はウブかなにかなのだろうか。というか、おなごという表現にあたしは思わず笑ってしまった。顔をしかめる真田くんと相変わらず後ろで大爆笑している幸村は本当に友達なのかと疑いつつも、玄関を出ようとする真田くんを再び幸村の部屋のなかに連れ戻し座らせた

「あたし最近まで友達とルームシェアしてたんだけど、友達が彼氏と同居するとかで出てっちゃってちょうど部屋あるからさ」

改めて座り直し現状を伝える。別にひとつのベッド、同じ部屋で寝ようというわけじゃない。部屋だって別にあるし生活習慣が違えばそこまで会うこともない。部屋も埋まるしあたしとしては好都合だ。それに幸村の友達なのであれば男性といえども信用出来る。それに真田くんはちゃんとルールとかマナーとか守りそうな気がした。だからこそこんな提案をしたのだが、真田くんは未だ戸惑っているようだった

「じゃあ俺が真田に部屋貸すから俺がなまえ先輩ことこに住もうかな」

「あんた今しがた女の子連れ込めないからって真田くん断ったでしょあたしの部屋にも連れ込めないんだけど」

「そしたらなまえ先輩がいるから大丈夫」

「死んで」

そんな訳分からない事をいう後輩を無視し真田くんに目をやると彼は唸ったまま考えているままだった。まあ悪い条件では無いけど見ず知らずの人とは、って感じなのかな。それならそれで仕方がない。あたしが嫌なら大丈夫だよ、なんて言葉を口にするとまた少し唸るように考えた後彼はあたしの方に向き直った



「宜しく頼んでも、大丈夫でしょうか」




こうしてあたしは年下の同居人が急遽、増える事になった











「やった、なまえ先輩の家に入り浸れる」

「幸村、なんでうち来る気満々なの?あんたんちここでしょ?」







つづく



正体は友人
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テーマ「人外ファンタジー」
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