おお神よ、あなたはついに私を魔王のもとへ明け渡してしまうのですね


「な、なんでだああああああ!!!」



みょうじなまえ、テニス部の緊急マネージャーになることが正式に決定いたしました。

「じゃあ、今日から宜しくな」

目の前には笑顔でメニューを渡してくる新部長の2年生。名前はなんだっけ?加嶋さん?ぶっさいくとか思ってすいませんごめんなさい謝るので今すぐサッカーの練習をさせて下さい。新人戦があるんです秋に。

そんなあたしの願いは届かずコートへと案内される。コートには2年生、そして奴等がいた。部長が何やらあたしの紹介をし、夏休み中の予定をおおまかに話す。それを真剣に聞いている部員、そしてあたし。解散、の合図で全員が散り散りに練習の準備を始めたところであたしをこんな事に巻き込んだ原因があたしの肩を叩いた

「なまえ、うちのジャージ、よく似合ってるじゃないか」

「!な、夏休みだけだかんね!終わったらソッコーサッカー部戻るかんね!あと練習早く終わったらサッカー部行くかんね!!」

「ふふ、その体力が君にあったら、それでいいよ」

いつの間にオーダーしたのか今朝渡されたあたし用のテニス部ジャージ。嬉しくなんか無い、全然無い。それどころかギャラリーのお姉さま達にあの子誰よ的な事を言われる始末。あたしの美人コンプリート計画が、ガタガタと音を立てながら崩れていくのが痛いくらい感じとれた。どうしてこうなった、どうして、こんな事になったのだろうか。仕事一覧、と雑な字で書かれた紙切れにある1つ目の任務、洗濯、という事でビブスを洗濯機に投げ入れ洗剤を入れてスイッチを押しウィーンという音と共に稼動を始めた機械を眺めながらあたしはぼうっと考えた。

「完全にこの学校の指揮権、テニス部(というか幸村大先輩)にあるって…とほほ」

昨日、幸村大先輩達と別れたあたしが直ぐに我全国大会後新しく部長になった田村先輩(美人)に連絡を入れると部長は頑張ってみると言ってくれた。理由は言わずもがな秋に控えた新メンバーでの初大会、新人戦のためで、特に入部した後あたしによくしてくれている田村先輩はあたしに今回の新人戦でレギュラーの番号を勝ち取るチャンスをくれた。チャンスというのが夏休み明けにある恒例の紅白戦。そこで良い成績が出せれば考えてくれると言ってくれたのが田村先輩が部長になってすぐの事だった。あたしは嬉しくて夏休みは死ぬ気で頑張ります!と意気込んでいた。だからこそなんとしても夏休みの練習を怠るわけにはいかなかった。

のに

「ごめん!みょうじ!掛け合ってみたんだけど…どうしてもお前が必要らしくて…なるべく早くあげて貰えるようには頼んどいたから!あと、そっち終わったらすぐ部活戻って来ていいからな!」

今日の朝サッカーコートに行くと申し訳なさそうに頭を下げる部長がいた。田村部長は悪く無い。全く悪くない、むしろ掛け合ってくれたというだけで涙ものだ。先輩一生着いていきます。その揺れる胸も…っおっと話が逸れた。菊地に言うと羨ましい死ねとか言われたが、じゃあお前行けよばっきゃろーと言葉を残し、同じポジションの子達に申し訳ないと頭を下げてテニスコートにやってきた。

そして冒頭に至る。

「マネージャーなんて…とほほ…こういうのはきゃわいいお姉さまとか美しいお姉さまとかがするものであって、あたしがするもんじゃないんだけど…」

機械がメロディーを奏でながら稼動終了を告げる。それを合図に重い腰を起こして簡易椅子から立ち上がり大量の洗濯物を隣にある乾燥機に移す作業を始めると、あたしはその大変さを知った。うちの部のマネージャーも大変な作業を毎日毎日してくれてるんだな…感謝しなくては。

「はあ…」

これだけでだいぶ体力を消費する。しかし紙切れにはまだまだ沢山のメモがびっしりと書き記されており、ポケットから取り出したそれを見たあたしは盛大にため息をついてしまった。

それからあたしはドリンク作りに救急箱への補給、具体的に言うと冷却スプレーとテーピング、エアーサロン、絆創等不足品の追加。そして使われていないボールの点検に、フェンスに挟まっているラブレターの回収(回収したら焼却炉へ)?こわっそしてそれが終わる頃には乾燥機が稼働を終了したために洗濯物を取り出し、たたむ。へろへろになりながらもその全てをやり遂げやっとの思いでコートに戻るとタイムアタックの時計係だとストップウォッチを渡され休む間もなく声を上げることになった。

「あと30秒でーす」

初日からバカじゃないのかと思うほどの使われっぷり。ラストのペア、ハゲとデブコンビが終わるまでの30秒は果てしなく永遠に近いほどの時間に感じられた。残念ながら奴等の練習を見ている暇は無い。27、26、25…目で秒数を追うことで精一杯なんだあたしは。早く終われ、終われ。しかし時間が行くのを目で追うと同じ時間なのにも関わらずとても
長く感じる。

「…6 5 4、3、2、1…終了でーす!」

最後の力を振り絞って声を上げると途端力が抜け後ろにあったベンチにがたんっと座り込んでしまった。な、な、な、

なんて重労働…!

本当にこれであっちゃんを助けられるのかい?これで本当にあたしのあっちゃんへの愛が証明されるのかい?どうなの?ねえ?はかはかと息を速く吐きながらぼうっと空を見上げていると急に目の前に陰が出来た。

「なまえ、マネージャー第一日目お疲れさま」

「ぎゃんっ」

背後から見下ろすようにあたしの顔を覗き込んできた幸村大先輩の顔を見てあたしは思わず発狂してしまった。こえええ、こえええよ幸村大先輩!しかし反抗する気にもなれず大人しく目だけ逸らしたら珍しく何も言わず彼は隣に腰掛けた

「今日の練習終わりだって」

「え、あ、そーすか…」

「随分お疲れのようだね?」

お陰さまで、と出し掛けた声が出ない。声を出しすぎたのだろうか。あたしの声は掠れたまま空気となって幸村大先輩に伝わることなく消えた。こんなの部活をやるよかは簡単で楽だと思っていたあたしは本当に馬鹿だ。何も言えずにただ幸村大先輩に目をやるとにっこりと彼は微笑んだ

「本当に、今日はお疲れさま、なまえ。想像以上の働きに皆びっくりしているよ」

「…(そーすか)」

「これなら、大丈夫そうだね。なまえ、週末に予定はあるかい?ちゃんと話をしたいんだ」

何が大丈夫なのだろうか。ちゃんとした話とはなんなのだろうか。しかし疑問を口にする事も出来ずにただ頷くと幸村大先輩は行ってしまった。それを止めることなく見送りドリンクのボトルを洗いに行かなければと腰を上げたところで、また、前に人の影を見た。

「頑張ってるなーなまえ!あ、なまえの作ったドリンク美味しかったぜぃ!」

デブ…丸井だった。ドリンク?あたしが首をかしげるとこれ、と先程部員に配ったドリンクのボトルを見せられた。ああ、と未だ掠れた声で応えるとババァみたいだと笑われたので口で答える代わりに思いきりふくらはぎを蹴ってやった。良い気味!

しかしまあ、うちの部のマネージャーから習っていて良かったと本当に思う。入部したての頃、2人いるマネージャーの内1人が休みで大変そうだからと手伝った時に教えてもらったのだが、こんなところで役に立つとは。

それからも、見たこともない部員や柳生くん、ハゲ、やなちん、おっさん、そしてあの銀髪のひとからも、お礼を言われた。

なんだかんだやっぱり、皆あたしと同じスポーツマンなんだと少しだけ関心した。その意気に免じて、もう少しだけ、マネージャー頑張ってあげんよ!!





「あ、なまえ?俺ドリンクはもう少し甘さ控えめがいいんだけど」

「俺はもっと甘く!」

「俺は少し薄く…」

「…(死ね)」


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