ふう、食べた食べた



「なかなか美味しいじゃないか、ここ。よく知ってたね?なまえ」

「そら女子の間では人気だからね!」

一通りケーキを食べ終え、大量の皿を片付けて貰うため店員さんを呼ぶベルを鳴らすと、幸村大先輩が珍しく満面の笑みを浮かべながら口を開いた。気に入って頂けたのならいや本望本望。不味かったら殺されて店の前に吊るされてました。

「なまえにこのようなおなごらしい一面があるとはな」

「無くなれ童貞」

「女子がはしたない口を利くでない!!」

「は、そんなの今更じゃんねうけるー」

「弦一郎はみょうじに構って欲しくてやっている確率87%」

「たわけが!!!」

紅茶を片手に優雅な…なんていくわけも無く。あたしらはギャーギャーと騒ぎながらのティータイムを過ごしていた。くっそおっさんめ、あたしがおっさんの事店の前に吊るしてやりたいくらいだよ。しかしそろそろ幸村大先輩がブチ切れてしまうので、珍しく嬉しそうな彼のテンションを維持し平和に終わるためにあたしはごほん、と仕切り直しの意味を込めて咳払いをした。

「てかてか、あたしもう既にもしかして1年の主要テニス部全員と知り合い?」

「確かに殆ど、…いや、一人だけ、まだみょうじの知らない奴がいる」

話題を変えられ、場の雰囲気が落ち着くのであればその種は何でも良かった。だからあたしはどうでもいい当たり障りの無い話題を選択し口にしたつもりだった。しかしその予想は外れ、しかも場の空気は落ち着くどころか落ちてしまったらしい。やなちんの言葉につられ、幸村大先輩、そしておっさんさえもあたしから視線を反らしため息をついたものだからあたしは困った。どうしよう、もしかして問題児…?

「いや、言いたくないなら別に大丈夫よん?」

「いや、そういうわけではない」

なるべく明るく返事をしたつもりが余計に気を遣わせ場の空気を悪くしてしまったという現実が否めない。うあああ、こういう真面目な雰囲気苦手なんだよなあ、あたし。面倒って程じゃないんだけど耐えられないというか滅入ってしまうというか。とにかくこの場を脱したいとなにか言葉を探し辺りをキョロキョロしている時だった

「あれ…?あっちゃん?」

「茜さんだって?」

2階にあるこの店の窓側だったあたしの席から下を歩く人たちを眺めていると、丁度目につく制服の2人組が歩いていた。視力はあまり良く無いあたしではあったが、その片方の女子生徒を見間違える筈が無い。それはあたしの大好きなあっちゃんだった。そして、横には同じうちの制服を着た、知らない、銀髪の男。用事ってこの事だったのか、デート?でも彼氏はいないって言ってたのに、なんてぼうっと考えているうちにあっちゃんたちは行ってしまった。まあ、優先するくらいだから大事な用事なんだろうし、あたしが聞く事でもないから深く考えないようにと自分に言い聞かせ再び一緒のテーブルに座っている彼らに目を向けた。なんか楽しい話とか、無いのかな、なんて思い振り向いたのだが、想像以上に彼らは深刻な顔をしていた。

「ちょ、なに?何?」

「なまえ、なまえは茜さんの事が好きかい?」

「何、言ってんすか幸村大先輩。大好きに決まってるじゃん」

「なら、彼女の為に何でもする勇気はある?力はある?」

「な、何さ急に「あるの?ないの?」

理由なんて聞かされずに、幸村大先輩はただあたしに答えだけを要求した。はいかいいえか、好きか嫌いか。単純明解なその質問ではあるにも関わらず直ぐに言葉が喉を伝わって出てこないのはきっと意図が掴めないから。原因なんて無い、ただ直感が、あたしの本能が、なにかをあたしに教えようとしているのが分かる。それが何か、しかしその自問に答えを見出だすだけの時間は無かった

「あるに、決まってる!」

頭の中で、こんなにあたしってシリアスキャラだったかと再び自問しながら横にいる幸村大先輩に目をやると、彼はうつむいていた。表情が見えない。目の前にいるおっさんとやなちんからは到底状況把握が出来なくて、あたしがどうしようかと首を捻り掛けた時だった





「じゃあ、なまえは夏休みの間テニス部のマネージャーね!」






「え?」

ぱあああああっと、それこそ先程の笑みなんて比べ物にならないくらい花をいっぱい咲かせたような笑顔を浮かべる幸村大先輩。え?what?ドウイウコト?

「まあ、理由は、その内分かる筈だ」

理解が追い付かないあたしを見かねたやなちんが言葉を溢した。助けてくれようとしているのか見離そうとしているのか、その言葉はあたしの疑問の幅を広げたに過ぎず、否定しようにもあまりにも嬉しそうに口許を緩める幸村大先輩を見ていたら言葉が口から出なくなってしまう。でも、あたしだって部活をやっているわけだから先輩に相談したら話をつけてマネージャーの話を無かった事にしてもらえる筈だ。

今はとりあえずはははと一緒に笑っておこう。



だけどあたしの中にはどうしてもあっちゃんを助ける、という言葉が引っ掛かっていた。前にも、やなちんに似たような言葉を言われた事を、思い出していたからだ



つづく

たまにシリアス混じりですが基本はギャグが続きます!


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