テニス部が全国大会制覇を成し遂げたそうです




「知らなかったの?」

「まあサッカー部も全国だったもんで…」

テストも無事に終わりそれから暫く全国大会週間だった我らが立海は久しぶりの登校日を迎えていた。自分の部活が全国に行くってところは正直所属している部活以外に気をやっている暇は無く、特にあたしの所属するサッカー部は10年ぶりの全国制覇を狙っていたために余計そんな暇は無かった。勿論陸上部に所属しているあっちゃんも一年生なのにも関わらずインターハイ出場。しかもちゃっかり入賞までしてきているのに。何故あっちゃんは知っているのだろうか。

「あたしの部活テニス部のファン多くてさ、だから帰宅部とかの子に頼んで結果とか教えて貰ってたんだよね」

「なーるほど」

「あんたは?」

「うちもテニス部のファンはいるんだけど、それよりうちの部の全国制覇で完全に盛り上がっちゃってさ」

「そっか、サッカー部も全国制覇したんだもんね」

テニス部のせいで蔑ろにされてるけどね、と久しぶりに会った親友に言おうとしたその時、ガラガラガラッと勢い良く教室後方のドアが開いた。クラス中が視線を送るとドアを開けた張本人がずかずかと足音を立てながら近づいてくるのが分かったのだけれど、なんだろう。あたしもあっちゃんもドアに視線はやっていない筈なのに冷や汗が流れるんだ。そしてその悪寒をどうにかするために教室を出ようかと立ち上がろうとした時


「なまえ、久しぶりだね」


悪魔というか最早魔王様があたしの肩をぎっちり掴んだ




「サッカー部も全国制覇したんだって?おめでとう」

「いえ滅相も御座いません」

「だよね、当たり前だからねそんなの。」

怖い、珍しくまだ来ていないやなちんの席にどかっと座りあたしに満面の笑みを向けながら口を開く幸村大先輩が怖い。誉められているのに毒を吐かれている気分になりおめでとうが何故か死ねという言葉に聞こえたものだからあたしの心中は穏やかじゃない。恐る恐る幸村大先輩に目をやると、ん?と首をかしげられた。あ、あたし死ぬかも。なんて思ってしまったあたしは本当に死ぬのかもしれない


「あ、あの…「どうしてそんなに笑顔なのかって?」

分かっているじゃないか、ならどうして終始笑顔なんですか幸村大先輩。しかしそんな問いには答えてくれず楽しそうに笑む幸村大先輩。気のせいかさっきからやなちんの机をガンガンと蹴り上げている。頼みのやなちんはまだ来ない。もうすぐ予鈴が鳴ってしまうのに珍しい。するとキョロキョロと辺りを見回していたたしに気付いた幸村大先輩がガンッと思いきり机を蹴った。

「蓮二なら朝練の時ちょっとあくじいたから今保健室にいるよ?」

「え、な、何故それを…」

「愛する蓮二くんが来ないんだから、寂しいのかなと思って」

愛する?何を馬鹿な事をおっしゃるんだ幸村大先輩。横にいるあっちゃんがぽかんとした顔でこっちを見ているじゃあ無いですか。あたしが愛しているのはあっちゃんであって、他の男性だなんて何か利害でも一致しない限り…ん?利害?

「ま、さか」

「思い当たる節があるようだね浮気者」

「う、浮気者?!」

「え、なまえ幸村くんと付き合ってたの?」

「とんだ誤解だよあっちゅわあああん!」

突然何を言い出すのだ、この魔王は。しかも愛する柳って…あたしが思い当たる節はひとつしかない。だけどそれを幸村大先輩が知り得る筈もない。何故ならあの日やなちんに図書室まで強制連行をくらっていたとき確かに、彼がおっさんと一緒に帰るのを見たからだ。となると誰かがこの事を言った事になる。誰だ、誰がこんな事を…

「紳士的な柳生が教えてくれたんだよ浮気者」

「だから浮気者じゃないよっ…て、ええええ!あの素敵スラリ眼鏡さんが?!」

あたしの心を読めるのだろうか、それともテレパシーが伝わってしまったのだろうか。幸村大先輩はあたしの謎を直ぐに解決してくれた。それも想像もしていなかった言葉で。あの柳生くんが?ってことは自習室行くとか言っといて実は出た後もあたしらの会話聞いてたってこと?そして何故それを幸村大先輩に伝える必要があるんだ?なんにせよ彼が似非紳士だということは判明した。

「で、どうなんだい?浮気者」

「ど、どうもこうも!愛してるって言ったのはやなちんがあたしがもし赤点取らなかったらケーキバイキングに連れていってくれるっていうから!」

「じゃあ俺が連れてくって言ったら俺にも愛してるって言ってくれるわけ?」



「え?」

思わず二度見、いや三度見してしまった。大真面目な顔でそんな事を言う幸村大先輩を凝視するとなんだよ、と睨まれてしまった。前彼があたしに自分だけ知らないなんて不公平だとか自分だけ名字呼びなんて不公平だとか言った事があったのだけれど、まさかこんな事まで言われるとは思わなかった。それに幸村大先輩、あたしみたいに合理的に放つ言葉じゃなくても無条件にあなたに愛の言葉を囁いてくれる女性諸君は沢山いるではないですか。羨ましいけどなちくしょう。

「え?じゃないよ、利害が一致すればいいんだろ?それとも蓮二は良くて俺はダメなの?」

「いや、そんな事無いです幸村大先輩」

「だろ?じゃあ今度放課後連絡するから。」

「え?」

「え、じゃないよ。ケーキ、食べに行くんだろ?」

「え、あ、うん」

「じゃあ俺行くね、あ、茜さんもまたね」

「またね幸村くん。あんまりなまえの事いじめないでやってよ?」

「考えておくよ」


そう言い残すと彼はゆったりと立ち上がり教室を去っていった。教室はしん、と静まりかえっている。誰も口は開かない。クラスのムードメーカー佐藤があ!柳おはよーっす!と入れ違いで教室にやってきたやなちんに挨拶するとクラスの雰囲気は元に戻ったが、あたしの心はむしろ雷、雷雨状態。席についたやなちんにすかさず先ほどの話をすると苦笑いをされてしまった。

「なんであんな事言ったのだ幸村は、とお前は言う」

「そーなんだってばやなちん!なに?なんなんすかアレ?嫌がらせ?」

「あんた変なのに気に入られちゃったねー」

「あっちゅわんっ?!」

「まあ、嫌がらせでないのは確かなんだが…俺からは何も言えないな」

「なんだよそれー!!」

なんという後味の悪さ。似非紳士が幸村大先輩にちくったのも意味分かんない話だけれど、そそれより幸村大先輩がどうしてあたしに愛してるなんて言って欲しいのかが更に疑問だった。正直自分だけはぶかれてるみたいで嫌とかいう横暴さには薄々、というか感じずにはいられないけれどそんな小さいところまで?どんだけやなちんとかおっさんに負けたくないんだろう。でもまあ、ケーキ食べに行けるし。いいか




「まいいや、授業授「なまえ、なんで弦一郎にはアドレス教えて俺には教えてくれなかったの?今すぐ教えろあと、早く愛してるって言え」





前言撤回します
いいやつとかじゃないです


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