イライラする、







みょうじ先輩に恋人が出来たと、校内中で噂が広がるのにそう時間は掛からなかった。

つい先週まで俺に毎日付きまとっていたみょうじ先輩が、ぱったりと現れなくなってなら3日。それは俺のクラスでも一番の話題になっていた。


「相手はサッカー部の千葉先輩だって!」

信じられない、とでも言ったように後ろの席の女子が嘆く。俺が黙って会話に耳を傾けていると、相変わらず親切にもいちいちお節介な隣の席の安藤がこれ見よがしに俺に話し掛けてきた

「千葉先輩って、あれだろ?女が何人もいるって噂の」

「だからなんだ」

俺には関係無い、と机に置いた教科書に目をやると安藤は意外だとばかりに俺の教科書を奪いながら興味ないのか?と大袈裟に口を開いた。興味?あるわけないだろ。どちらかといえば清々しているんだ俺は。毎日毎日付きまとわれてストーカーみたいに俺の行く先々に現れていらない話題ふってくる奴がいなくなって。この前だって変なキャラクターの弁当作ってきたり(しかも似てない)雑草を渡されたり、ファンだかなんだかの女子からの贈り物を断ったらちょうど(というか確実に故意に)居合わせたそのひとに受け取れカスと言われながらぶん殴られたり。そんな事がなくなって、清々しているんだ俺は。

未だに納得が行かない様子の安藤を睨むと、悪かったよーとなんとも悪びの無い謝罪をされた。

「俺てっきりお前がなまえ先輩の事好きだと思ってたからさ」

その言葉を最後に俺に話しかけるのをやめた安藤は、なんだ違うのかーと独り言のように呟きながら教科書に目をうつしたのだが、今度は俺が安藤に話しかける番になりそうだ。ちょっと待て、俺が、あのひとを?寝言は寝てから言えよ帰宅部如きが。俺が黙っている安藤の肩を思いきり掴むと、安藤はまた腹が立つくらい嬉しそうに俺を見た

「どういうことだ」

「え?いやだってよ、付きまとわれてるとかうざいとか死ねとか消えろとか言うわりには、なまえ先輩の作ってくれた弁当は全部食べるし、次の日にはちゃんとお返しとか言ってお菓子買ってきたり、ただの青いしおり眺めたり。しおり、なまえ先輩にもらったんだろ?」

「それだけの事で、そんな錯覚をしてるのかお前は」

人間のクズだな、と言い掛けてやめた。安藤が、でもそうやって先輩といる時とか先輩の事考えてる時のお前、笑ってんだぜ?と言ったからだ。笑ってる?俺が?あんなひとといても疲れるだけなのに、俺が笑っていた?理解のおいつかない俺に安藤は更に付け足した

「お前、楽しそうだったよ」

「…違う」

楽しい、わけが無い。俺は無性に腹が立って、借りている本を持って立ち上がった。とても授業を受けられるテンションじゃない。立ち上がった俺に悪い、悪いと、今度こそすまなそうに謝る安藤にもういいと一言返すと俺は教室を出た。去り際に安藤が、ちゃんと考えろよという言葉をしっかり耳に残して。

考える?何をだ。

「くそっ…」

そのまま屋上に来た俺はフェンスを思いきり殴った後、そのままそこにもたれて空を仰いだ。安藤のせいだ。あいつがそんな事を言うから悪いんだ。だから頭のなかが、あのひとでいっぱいなんだ

「…なまえ先輩」

本を開いて、あの時貰ったしおりを取り出し空にかざしながらまだ一度も呼んだ事の無いあのひとの名前を呟く。こんな筈じゃなかった。俺はひとひとりの為に授業をサボるような人間じゃないし、テニス以外の事を考えるような落ちぶれた人間じゃない。

「あんたは、何がしたいんだ…」

貰ったしおりを握りしめ、胸に押し当てる。ずきんと、どこかが痛んだような気がした



こんな筈じゃなかった









おだいより




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テーマ「人外ファンタジー」
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