女の子はね、皆努力してんだよ!!その努力を分かってあげられない奴は男失格だ!




「アップルパイワンホールください」

「はい、2400円ね」

「あとそれ切ってもらえますか?八等分くらいに」

「はいよ、朝からアップルパイワンホールだなんて、お客さん今日は誰かの誕生日なのかい?ふふ」

「はは、そ、そんなところです…」


残金1200円。バイトの給料日は3日後。こんな筈じゃ無かった。

家の前にあるケーキ屋さんのアップルパイは美味しいと全国的に人気があるお店だ。あたしが利用するのが殆ど朝だから混み具合はあまり気にならないがいつもはすごい。帰りに寄るときは殆ど売り切れているから感動もの。

あたしはデブとハゲに助けてもらったお礼をするべく、久しぶりに朝練も無いと言うことで少しのんびり家を出て買いに来たのだが。アップルパイをとりあえず2つ、それにあっちゃんにも1つ。そしたら何か悪いしお世話になってるやなちんにも1つ。あ、でも見つかったら怖いから幸村大先輩にも1つ。いやでもそしたらおっさんにもあげないと泣くかもしれないからおっさんにもひとつ。ああ、面倒だからワンホール買っちゃえ。ということで、先の選択に至るわけであるが。不可抗力なわけであって。嬉しさ半分金銭面に関する不安半分を抱えながらあたしは登校した。



「おはよー」

「あ、なまえおはようー」

「あっちゅわあああんっ!」


ああ、素晴らしいあっちゃんの匂い。香しい。これだけで今日を生きていけるなんて思ってしまうあたしは相当単純だとは思うけど、これくらい些細な事で生き甲斐を見出だせるあたしは物凄く幸せなんだとも思う。ようするにアホなんだ、あたしは。


「あ、やなちんおはよう」

「ああ、おはようみょうじ」


最近あった席替えにも関わらずまた隣の席になってしまったやなちんに挨拶すると、やなちんは読んでいた本を閉じてあたしを見る。本当、クールというか不思議というか。まあ神には変わりないんだけれど。

机の横に買ってきたアップルパイが入った袋を丁寧に掛け鞄を降ろして席に着くや否ややなちんがあたしの机をとんとんと叩いてきた。なんだ今日のやなちんは積極的だな。


「ん?どしたのやなちん」

「今日、幸村が「お断りします」

「おい、まだなにも」

「いや今なんとなく予想が出来たんだけど絶対にあたしに得が無い気がするから断る」


朝から幸村大先輩の名前を聞いてしまったあたしははあ、とため息ひとつ。気を遣ってくれてるやなちんには申し訳ないのだけれどあのひと、コワス。

「しかし…」

「今日昼にジャッカル達教室まで来るから教室からは出ません」

「ジャッカル達?」

「そう。あとブタ。昨日ちょっと助けて貰ったからお礼をね。ついでにやなちんとかのも買ってきたから後で渡すねん」

「あ、ああ…」


やなちんはあたしにまだ何か言いたそうな顔をしていたけれど、このまま話を聞いていたらなんだか丸め込まれてしまうような激しく嫌な予感がしたのでロッカーに教科書を取りに行く振りをして教室を出た。なんだか、高校に入学してから美人との付き合いが減ってムサい男共の知り合いが増えた気がする。


美人と絡みたいのにな、なんて思いながらも。まああっちゃんがいてくれたらな。と既に机で突っ伏して寝ている親友に目を向けた。



キーンコーンカーンコーン




「うおっしゃー午前終わり!あっちゃんあっちゃんご飯食べよう!あたしあっちゃんにアップルパイ買ってきたから!」

昼休みになるや否や、あたしはあっちゃんを自分の机の方に呼び寄せた。可愛い可愛いあっちゃん。ああ、幸せ。なんて思いに耽っていると視界の端にやなちんが見えた。今日はおっさんとかとご飯食べないのだろうか?

「あ、これ前にくれたやつ?これほんっと美味しいんだよね。これだけは誉めるわなまえ」

あっちゃんにアップルパイをあげると嬉しそうにお礼を言ってくれた。いやいや、もうその笑顔だけで死んでしまいそうだよあたしは。そして続いてやなちんにもひとつ、アップルパイをあげた


「はい、やなちん」

「ん?」

「朝言ってたやつ。やなちんはあたしの神だからね。崇めなきゃってことで。美味しいから食べてねー」

「あ、ああ。ありがとう」


そんな事を言いながらあたしがあげたアップルパイをじいとみやるやなちんは何だか非常にかわいく見えた。(気がした)

「そういえばやなちん」

「なんだ」

「今日はおっさんとかと一緒に食べないの?」

「ああ、そのことなら…だから「「キャー!幸村くーん!真田くーん!!」」


ビクッ


その黄色い声を聞いてあたしは思わず震え上がってしまった。女の子達の声が原因ではない。その子達が呼ぶ名前に、原因があった。やなちんの話なんて聞かずにあたしはなにも知らずに既に弁当を食べ始めたあっちゃんの後ろに隠れようとして



「やあ、みょうじさん」


見つかった









「なんでやなちんあたしに何も言ってくれなかったわけっ?!神よ!貴方は人類を見放すのですか!」

「いや、お前俺の話、聞こうとしなかっただろう…」

「蓮二はなまえの神なのか?」

「童貞はすっこんでろ」

「ねえみょうじさん、どうして隠れようなんて無謀な真似したの?」

「ヒッ」



結局、一緒にご飯を食べるような形になってしまった。いや正確にはあたしの机にあっちゃんがいて、横の柳の机に幸村大先輩とおっさんがいたのだけれど狭いと文句を言い出した幸村大先輩が勝手に机をくっつけたのでそんなことになった。くっっっそ、学校中の美人が見に来てるんですけど。なんか物凄く視線痛いんですけど。また美人と仲良くなる機会逃しそうなんですけど。



「なまえ…あんた、いつの間にテニス部をこんなに手玉に取ったわけ?」

「いや、あっちゃん…不可、不可抗力だったんだよ…」


あっちゃんに嫌悪というかドン引きというか、そういうのを通り越して半ば尊敬の目をされながらもなんとかテニス部を無視し、弁当をつつき始めた時だった


「「キャー!!」」


ビクッ



また盛大に上がる歓声。そしてそれに伴い反射的にビクつく体。テニス部が一緒いるとろくな事が無い。いや、本当に。今度は何事かと思うも必死に知らないふりを続けていると、その歓声はうちのクラスの前で一段と大きくなった。まさか



「よ、なまえいるかー?って、なんだ幸村くんたちもいたのかよい!」

「よ、みょうじ」




そのまさかだった。









つづく
ちょっと長くなります


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