馬鹿なんですね、皆
あれから帰宅して、なんとなく何もする気になれなかったあたしはぼうっと幸村くんの事を考えながら週末を過ごした
そうして週明け学校に行っても、幸村くんがあたしの前に現れる事は無かった。当たり前かと自分を納得させ、でもどこか煮えきらない思いのまま時間は過ぎるが、相変わらず幸村くんを見る事は無かった
クラスの皆が、週末の大会でテニス部が優勝したとかなんとかそんな話をしているのが聞こえてきた時はほんの少しだけ嬉しくなったものの、あたしはずっと、四六時中、校内にも校外にも、幸村くんの影を探していた
「あたしの事、嫌いになったのかな…」
購買で焼きそばパンを買った後久しぶりに授業をサボり(具合が悪いから保健室に行くと言って出てきた)屋上から校庭を眺めると、同じ学年のどこかのクラスが体育をしていて、やはりそこに幸村くんを探してはいないのだと落ち込む自分を馬鹿だと笑いたくなった
「てか、初めから好きじゃなかったのかも」
考えれば考えるほどループ。あたしはそのスパイラルから抜け出せずに溜め息をついた。こんなに彼の事を考える日が来るだなんて、ほんの少し前の自分には想像も出来なかっただろう。 いつの間にこうなったのか、あたしの愛していたどうでもあい生活はどこへ行ったのだろうか
「はあ…」
あたしは結局、幸村くんを好きになってしまったのだろうか。
「のう」
突然、背後から声が聞こえて驚いて飛び上がってしまいそうになった気持ちを抑え込んで振り向くと、いつかのクリームパン青年、基仁王というひとが立っていた。目線はあたし、ではなくあたしの手にある焼きそばパン。
「あなた、あの時の…」
「それ、くれんかの」
彼はあたしの話を聞く気は無いらしい。そして、ましてやあたしの意見を取り入れる気なんてさらさらないらしい。あたしの答えを聞く前に、彼はあたしの手からパンを奪うとその場に座って食べ始めた。あのときも思ったが、彼はマイペースだ
「あの、それあたしの…」
「幸村なら、今風邪で学校にきとらんぜよ」
あたしの言葉を無視し、彼は言った。まるであたしの心を見透かしたように、彼は言った。あたしが何も言わないのを良いことに、彼はそのまま焼きそばパンを食べきってしまうと立ち上がりあたしの横から校庭を見る。分からない男が、テニス部にはいっぱいいるんだな、とどうでもいい事を考えていると彼が口を開いた
「幸村はのう、嘘は吐かん性格じゃきい」
「どう、いう意味ですか」
「言葉通りぜよ、今まで幸村が言った言葉は全部本当の事って意味じゃよ」
「はあ…」
なにがいいたいのか分からない。という顔をしたら、彼は楽しそうに笑った。彼の笑顔も充分素敵だと思ったが、それでもやっぱり幸村くんの笑顔には勝てないな。なんて。ごめんなさい仁王さん
「幸村がお前さんを気に入った理由が、わかる気がするのう」
ひとりごとのように彼はそんな意味深な言葉を呟くと、彼はポケットから紙切れを一枚取りだしあたしに寄越した。そしてそれから、手をひらひらと振りながら屋上から消えた。紙切れには、住所とへったくそな簡易地図が書かれていた
「…」
ピンポーン、と初めて訪れる家のベルを鳴らすまでにあたしは20分も格闘をした。いなかったらどうしよう、間違えていたらどうしよう。迷惑だったらどうしよう。様々な葛藤が頭の中を錯綜し、駄目元で今しがたついにそのボタンを押すことに成功した
なんて言おう、なんて話そう。頭の中を沢山の言葉が駆け巡る
「はい、…なまえ…?」
それでも、扉が開いて中から出てきたパジャマ姿でマスクをした幸村くんの表情が満面の、見たかった笑みに変わったのを見たら考えていた言葉も聞きたかった質問も全部吹っ飛んでしまったので、あたしはそのまま幸村くんに抱きついた
お題より
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