何千といる軍勢の中で
みょうじなまえ、立海高校2年生。成績、中間。顔、中の下。スポーツ、並。それ以外の事、全般的に普通。ともだちも普通(馬鹿なのいっぱいいるけど)
何のおかしな事も無しに、あたしは普通に平凡に生きてきた。それに満足もしている。そしてこの環境が変わらないと信じていた。昨日までは。
「君、みょうじさんだよね?突然だけど好きなんだ。付き合ってくれる?」
そんな、公開処刑のような言葉を並べられたのが3分前。相手?知りたくもないが知っている。声は初めて聞いたけど顔と名前くらいは常識として。そう、この学校のカスみたいな変な一般常識として。こいつの名前は、
「ゆ、きむら…精市…」
「あは、俺の名前知っててくれたんだ。ってことは脈有り?嬉しいな」
頭おかしいんじゃないかと思う。今は、朝の9時半。1時間目が終わったばかりの教室前。教科書を取りに廊下にある個人のロッカー前でガサガサしていたあたしに、こいつは突然。そんな実も蓋もないことを言い放った。
「な、んかの嫌がらせ…すかね…?あたし、幸村くんの顔と名前くらいしか知らないんですけど…」
これが率直なあたしの反応。この際ギャラリーの悲鳴も叫びも歓喜も好奇心もどうでもよかった。ただこいつが、あたし如きにそんな事を言うのか理解がついていかなかった。
「嫌がらせ?まさか。ずっと、好きだったんだ。なんとなく、今日言ったら成功する気がしてね。だから言いに来たんだけど、いいよね?」
「いや、困ります…」
あたしが拒否を取るような姿勢で、取り出した教科書を抱え込みギャラリーを押し退けて教室内へと戻ろうとすると、彼の細い腕があたしをとらえた
「いいよね?」
彼の意思は変わらない。
でも、あたしの意思も変わらない。
「良くないです」
無理矢理それを振り払って、なんとか教室に戻ると、まだ外に残っているギャラリーの隙間からにっこりと笑みを浮かべた幸村くんが見えて、震え上がってしまったなんて絶対に本人には言えない。
席について、教科書を広げて忘れようと努力をしているとクラスメートがわんさか寄ってきてあたしを質問攻めにした。いつ知り合ったかとか、好きなのかとか、付き合うのか、なんてありきたりな言葉を並べて。
しかしあたしは、応じる気なんてなかった。あたしは、平凡などこにでもいるようなただの高校生が良かったからだ。他には何も望まない。学校1格好良い彼氏も、テニス部という名目のなにかしらにも用はない。
あたしは、普通を愛している
そもそも、幸村くんとは本当に面識が無く、もし彼が本当にあたしに好意を抱いているとしたら何が原因なのか。もし嫌がらせなのだとしても、何故あたしなのか。理解できない事は尽きず、かと言って幸村精市に興味が湧く事も無かったが、
「みょうじさん、おはよう」
「ひっ」
同じクラスでもないのに朝登校するとあたしの隣の席に座ってあたしを待っていたり
「みょうじさん!行こう?」
「ひっ」
昼休みになった途端、弁当箱を持って教室のドアからあたしを手招きしランチタイムを地獄のような時間に変えたり
「みょうじさん!」
「ひいいいっ」
放課後、図書委員なあたしが本の整理をしているところ突然現れて変な哲学の本を借りていったり
「みょうじさん、おやすみ」
「ぎ、ぎゃああああ!」
誰から聞いたのかあたしのアドレスを入手し毎晩夜10時にお休みメールを送ってきたり
そんな事が1週間くらい続き、限界を迎えたあたしは幸村くんの教室に走っていき友達から始めてくださいと土下座するところからあたしと幸村くんの関係は始まった
お題より
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